和歌山県田辺市立田辺第三小学校長 北山 敏和氏 講演
   みなさんこんにちは。 きょうここで、話をすることになって大変うれしく思っています。
 和歌山県が学校敷地内禁煙をはじめてちょうど2年と二ヶ月になります。
 幸いなことに今日は皆さんにいい報告ができそうでよかったです。

 和歌山県の学校は日本で初めてということで持て囃されてチヤホヤされたりもしましたが、
 やがて全国みな禁煙になることと思います。

 そうなったとしてもおそらくアジアで何番目、世界では何十番目、何百番目ということで大変遅れた状態で、
 和歌山県がチヤホヤされるのは如何に日本のタバコ対策が遅れているかということです。

                

 それじゃあ、


 パワーポイントを見ていただき


 ながら報告をさせて頂きます。




 《学校の禁煙看板》

 和歌山県が2年と少し前、学校敷地内禁煙にするということが始まったわけですが、その半年前にそのことを決定をしました。 いろいろチヤホヤされながらやって来たわけですけれども、今、和歌山県の学校にきて頂きますと校門にこういう看板を立てている学校があります。
「学校はノースモーキングエリアです。」 これは校長先生の意気込みによりまして、喜んでやっている学校の校長先生がいるところは、非常に大きな看板を立てていて、反対に実は喫煙者で隠れて吸っているような校長先生の所は看板が立っていなかったり、それから教育委員会がステッカーを作って各学校に配布しているわけですね、「校内禁煙」、「敷地内禁煙」。 それを張らないでどっかの引出しに仕舞っているような学校もしばらくの間ありました。
   


 ここは、校長先生が非常に熱心なのか、権力に弱いのかわかりませんが、教育委員会の言うとおりやって下さっています。 この校長も大変、積極的で看板の大きさからその意気込みが分かるわけですけども、実はこの近辺の学校では校長先生が申し合わせをして、市町村の教育委員会も巻き込んで、「県教委はああ言っているが、
我々はしばらくぼちぼちやろう」と、つまり県として、公立学校の敷地内は全部禁煙ということになっていたのですが、していない学校もあったわけですね。 その中で、この学校は最初から校長先生が積極的にこういう看板を立ててやりました。
 
 《もう後戻りできない》

 
先生方の中で、「自分の学校はうれしい」と、「きちっとやってくれる」という声があがって来てましたので、その先生に聞いてみると、もし、喫煙者の校長が転勤をしてきて、隠れて吸おうじゃないかという話になったらどうなりますかと聞きますと「もう絶対戻れない」というんですね。 どうしてかというと、これまで学校はタバコの煙が漂っていました。 それが敷地内禁煙ということで、まあ、隠れて吸っていたことはあったわけですが、一応、表だっては吸えない状態ですので、空気自身が綺麗になっているんですね。 だから、敷地内禁煙が始まって、校長先生とか教頭先生とかが学校の外に用事ができることが多くなって、”ちょっとと出かけて”いって帰ってくるとすごく息がくさい。 それがほかのタバコを吸わない先生も子どもたちも敏感にわかるようになった。

それだけ学校の中の空気が綺麗になっていますので、もし喫煙者の校長がやってきたとか、県の教育長が代わって方針を撤回したとしても、学校でこれからもう一回タバコを自由に吸えるというようなことは、誰も我慢ができないだろうと思います。

 《市町村の教育委員会も協力》

 一応、決めたのは和歌山県の教育委員会ですが、みなさんもご存知のように県は県立学校を管轄していまして、市町村に関しては市町村の教育委員会が管轄をしています。
 日本は建前上、大変民主的な国ですから、国も県も市町村も本当は横一列で自立しているわけですね。 したがって県が決めたところで、市町村の教育委員会がそれに従わないということもできる訳です。 別に反抗しようと言うことじゃないですが、各教育委員会によってはタバコに対する考え方も違いますし、もっている情報も違います。 ここが梅干で有名な南部川村というところの教育委員会ですが、ここの教育長さんは大変、健康問題に熱心でしたけれども、それでも敷地内禁煙を決めたときに、「先生や子どもたちに禁煙を徹底することは教育委員会としてできます。 やります。 

 ただし学校というのは休みの日だとか夜間に一般の人に開放していますから、そういう人たちにまで学校の中でタバコを吸わないでというのは、ちょっとツライなぁ」
と、この教育長さんはおっしゃっていたんですね。  
だけども「いやそうじゃないです」ということを言って説得をしたら、よくわかったということになってこういう風に 「禁煙お願い、タバコの煙はいろんな有害物質が含まれていて子どもの成長発達には大変悪いので、学校内は禁煙になりました」 

いうのを教育委員会が作って、村内に6つ学校があるんですが、配布をしてそれぞれの学校は校門だとか裏門だとか玄関だとかに貼ってくれました。 こういう風に県が決めたことに市町村の教育委員会も協力をしてくれました。 ここは、全村にビラを作って「4月1日から学校敷地内は禁煙です。村民の皆さん協力してください」というビラまで配布してくれました。裏には梅干をしっかり食べましょうと書かれていましたと。

 《力を持ったタバコ対策指針》

 よくニュースだけを聞いておられる方は、和歌山県がトップダウンで決めたと言われるんですが、実際はそうじゃなくてどの地方でも同じだと思うんですが、教育委員会も学校も県の健康対策課、それから市町村いろいろなところで、それぞれにいままでタバコ対策に取り組もうと努力はしていたんですね。 ただ、やっぱりタバコがいやな人は多いですが、声をあげて禁煙にしようとかいう人は少ないので、それぞれの中では頑張っていたんですが、少数派というんですか、私自身も県教委にいたわけですが、役職に長の付く人はほぼ全て喫煙者で、タバコの話をしても取り合ってもらえないという状態が長く続きました。  
 

 そんなことだったんですが和歌山県の健康対策課の中には、優れた人がいて”タバコ対策指針”というものを作りました。これが非常に力を持ちまして、このタバコ対策指針のお陰でこれまで、個人的にあるいは少数で頑張っていた方が、繋がったわけですね。 それでこのタバコ対策指針を根拠にそれぞれが積極的な対策に乗りだしたわけです。
 元は「点」であったのがこれが出たお陰で「面」となって強力な力を発揮したわけです。 これが成功の一つの要因だと思います。

 《三つのタバコ対策》

 和歌山県のタバコ対策は、大きく分けると三つあると思います。 今、紹介しましたタバコ対策指針、これは非常に詳しい内容で積極的なもので、この中に「学校敷地内は禁煙とする」という文言が書かれていたわけですね。

それからこの指針と同時に実際にタバコ対策を進めていくときに、禁煙外来を増やそうということで、禁煙のサポート体制を作りました。

  4月1日から実施ということで県教委もいろいろ悩んでいたときに健康対策課と相談して、まず医療者向けに医師や歯科医、それから保健師の方、養護教諭というような人を集めて禁煙サポートに研修会をして沢山集まってもらい、県内に禁煙外来のできる機関を増やすことです。  だから指針をもとに禁煙場所を増やしますよということと同時に、止めたい人はここに行ってください、そこでサポートを受けてできればタバコを止めましょうというのをやりました。
 それから、もう一つはインターネットでメーリングリストが発足しました。 これは最初百人余りでした。医師、行政、教育関係者等ですがこれも非常に大きな力を発揮しました。
 
 例えば、教育委員会が半年前に決めて、来年4月1日から全面禁煙をやりますということの説明会をやるときに、その為の予算を組んでいない、大阪府や堺市はお金持ちかもしれませんが、和歌山県は非常に貧乏なので講師に払うお金がない。 で、「インターネットで講習会をしたいのでどなたか無料で講師をしてくれる方いませんか」という募集をしました。 そしてやっぱり世の中にはいい人がいるもので、5人の方がタダでもいいですからやりましょうと。   おそらく教育委員会の講習会で無料で講師を募集したのは初めてだと思いますが、インターネットのメーリングリストを通じて、いろいろなそれまで孤立していた人たちが繋がったということです。
 ただ、まあ、非常に怖い思いもしました。  というのは、われわれ教育関係者はお医者さんというと非常に立派な方だと思っていたんですが、メーリングリストの中で医師どうしが、「禁煙外来をはじめたが、患者からいくらお金を貰ったらいいでしょうか?」とか「禁煙パッチの貼り方を教えてください」という相談が飛び交うのを聞いて、「こりゃすごいなぁ、大丈夫かなぁ」という心配もしたんです。 でもまあ、医師が学校から、保護者向けにあるいは生徒向けに禁煙の話をしてほしいと頼まれたんだけれども、話は上手でないのでどういうふうに話せばいいだろうということをメールで出せば、そういうことに堪能な方というか学校の関係者がこういう風にすればいいですよ、と答えたり、あるいは養護教諭がこういう資料が欲しいというと、医療関係者からこれを使ったらどうですか、と提供されるとか、本当に力を発揮しました。

 《和歌山の自由な風土》
 
 これはずっと後になってからですが、和歌山県は大阪とかに比べておそらく杜撰なところがあります。
教育委員会も同様で、そのおかげで我々のような人間も排除されずに生き延びているわけです。というわけで和歌山ではいろんなところのいろんな人のがタバコ対策指針を元にいろいろやり始めました。
 特徴的なのは薬剤師さんたちが自分たちで、こういう制度は日本には無いんですが「禁煙サポート薬局」というのを和歌山で勝手に作り上げて、研修会をしてその研修を受けた薬剤師を禁煙指導薬剤師として県薬剤師会が認定をして、その薬剤師がいる薬局を「禁煙サポート薬局」としようと勝手に作り上げてやってるわけですね。 とてもすばらしいと思います。

 

 ちょっと簡単にまとめてみますと、禁煙外来のネットワークを作りました。 最初は30数ヶ所でしたが今はかなり増えていると思います。 それから「メーリングリスト」をスタートさせました。 2002年4月1日から「学校敷地内を禁煙」にしました。
それに先駆けて県の警察本部がこれは実は禁煙と書いていますが、四階建てのビルですが二箇所だけ喫煙室があります。 だけどそれまで煙がモウモウとしていたのが嘘のように綺麗になっている。
それから県立医科大学、病院の禁煙、それからさっきも話題になっていましたが、議会とか各委員会、これは禁煙はまだ完全じゃありません。県庁も喫煙室があります。
 それから医師会、薬剤師会は禁煙になりました。 医師会と薬剤師、あと一つ抜けているような気がするんですが、、、歯科医師会ですが、そのうちやってくれるんだろうと思います。 それから禁煙サポート薬局がスタートしました。それから各市町村の対策が開始ということで進んでいます。市町村では特徴的なのは、早くから喫煙対策をやっているところは、なかなか対策が進まないんですね。分煙室を設けるとか空気清浄機を置くとか。 ところが長い間なにもやっていなかったところ、遅れているところはスパッと全面禁煙とするのが多くなっています。

 和歌山県の南側、紀伊半島をぐるっと串本より回って新宮のほうにいく途中にある町では、ずっと対策が遅れていて一気に禁煙としました。 そこの役場の方に聞いたらかかった費用は7,000円だったということです。 印刷代と紙代だけだったと。これがもしも分煙だったら何十万とか何百万とか掛かって、あとあといろんな問題を残すんだけども、全面禁煙ということで7,000円でできたと自慢しておられました。 貧乏を自慢するのが和歌山では多いんです。
 それから中津村といって野球で今ちょっと有名になっているところですが、役場が有名ではなくて高校が有名なんですけども、そこも長い間何もやっていなくて一気に禁煙と。 そこは徹底していまして、ほかでは禁煙にしているところは沢山あるんですが、建物の外ではいいとか庁舎外ではいいとかあるんですが、中津村の場合、昼休みと三時の休憩以外は、勤務時間中だから建物外でも喫煙はダメです。ヘビースモーカーの課長さんがやけくそになって決めたというウワサですが、まあ今まで遅れているところほど積極的にやっているという奇妙なことがあります。


 《子どもから卒業証書をもらった
                校長先生》

 敷地内禁煙になったお陰でこういううれしい光景もあります。 この校長先生は非常にヘビースモーカーで、教育熱心で子ども大好きで、校長室をいつも開放していたんですが、一つだけ問題があったのは、タバコを止められなかったんですね。 子どもたちから、いつも文句を言われていました。

 この校長先生は県教委が敷地内禁煙にすると決めたときに、物凄く怒ったんですね。 和歌山県の教育長は”オゼキ”というんですけども「”オゼキ”はなにを考えとる」と。普通だいたい校長先生というのは教育委員会に頭が上がらないというか、表面上はぺこぺこするもんなんですけども、タバコのことになると必死ですごく腹が立ったということを言われていたんですが、お陰で4月1日から止めました。 「県教委は良いことをしてくれた。お陰でタバコを止められた。家内にも喜ばれた」と君子豹変していました。
 本当は、長い間、何度も止めようとしたし、止めたかったんですね。
 

これは5年生の子どもたちが卒業式のあとで、自主的にこれ子どもが作ったんですが、校長先生が4月からタバコを吸わないとなったので、「校長殿、先生はタバコを卒業したことを証す。」という証書を作って渡したんです。これをもらうともう絶対吸えない。
この写真は、実はヤラセで5月か6月にたまたま行ったときに校長先生にそういう話を聞いて、そこにちょうどこの子どもたちが三人来ていたので、どんなやり方をしたのかやってもらったのがこの写真です。 でも、校長先生は本当に嬉しそうでした。 やっぱり、喫煙者というのは、時には非常に攻撃的になっているんですが、理不尽な怒り方をしたりしますが、心の中では何度も「止めたい、止めたい」と思いながら止められなかったその辛さを味わっているんですね。 お陰で、この校長先生もきっと何年か寿命が延びたんじゃないでしょうか。

 《禁煙にすると大変なことが
              起こる?》

 それから、和歌山県が学校敷地内全面禁煙にする時にいろんなことが言われました。 そんなことをすると大変なことが起こるぞと。 一番言ったのは文部省です。
文部省は、先生方がきちっとした授業ができなくなるかもしれないと、まるで和歌山県がなにか悪いことをやっているかのような言い方を新聞に発表していました。それから労働組合も非常に反発をしていました。
 それから、運動会のときはどうなるんだという話がでたんですね。 本当に敷地内禁煙ができるかどうかですね。 この写真は初めての運動会でした。 さきほどの梅干で有名な南部川村の隣のところもまた、梅干が有名なので行ったら是非買っていただきたいのですが。


 ちょっと読んでみますと、「南部町は三日、南部小学校のグラウンドで二千人規模の町民運動会を開いた。町ではグラウンド外に喫煙場所を作り、放送アナウンスで協力を呼びかけた。グラウンドの隅で吸う住民も数人いたが、運動会終了後、町職員がゴミを回収したところ、いつもは多くある吸殻が落ちていなかった。
  また、例年だと軽四トラック一台分あったというゴミも今年は、ゴミ袋三個分に激減、しかも多くは大会本部がもともと処分することにしていた弁当箱であった。」 こういうふうにゴミまで減ったというんですね。 ここには載っていませんが、ほかの市町村では全く誰も吸わなかったとか、今はもう呼びかけなくても吸わないという状態ができています。 だから、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉がありますけれども、禁煙にすると大変なことが起こるぞ、起こるぞと言われましたが、やってみると、なにも起こらないんですね。
 わたしも、教育委員会にいた時に担当していて、禁煙になったあとに学校に訪ねた時、ひそかにきっと知ってる人は知ってますから、「お陰で禁煙になってありがとうございました」というお礼ぐらい言ってくれるのかと思ったら、全然誰も言ってくれないんですね。で、こちらから、禁煙になってどうですかと、水を向けると「これが当たり前ですよね。だいたい今まで学校で吸うのがおかしかったんじゃないですか。」と言われました。 だから、今、行かれてもおそらく二年前から始まったとは判らない、学校というのはずっと前から禁煙だったかのような穏やかさです。 ただでも、全部が100%上手くいっていたわけではなくて、隠れて吸っていた校長先生とか、校長先生が吸っているとほかの先生も吸うというところは少なからずありました。 でも、言ってくれるんですよね、子どもとか保護者が。 「あそこの校長先生が吸っていた」と。 わたしは今、某学校にいるんですが、この間から雨が降ると校長室がくさい、湿気が多いときは匂いがする。で、子どもたちが寄ってきて、「今年の校長先生はドアを開けているのはどうしてですか」と云うんですね。 それを繋ぎ合わせると一つの結論がでるんです。 まあ、そういう状態です。

 《タバコ対策に取り組んで判ったこと》


 タバコ対策をやってきて、いくつか判ったことがあります。 やはりタバコに対する迷信とか、誤解が非常に多かったという気がします。 これはタバコを吸う人の責任ではなくて、タバコを吸わない我々の責任であると、今は強く思っています。
それからネットワークの力、人が繋がってやるということでしょうか。 今までそれぞれみんないろんな場所で少数で苦労して、それでもなかなかタバコ対策が進まないという壁にぶち当たってという状況があったんですが、やはり、人と人が繋がるということが大きな力を発揮した。
それから市町村の保健部局でも健康教育という言葉を使いますし、学校でも健康教育とかいう言葉を使うんですが、これはずいぶん前から使われているんですね。

 これはアメリカとか英語圏の保健医療の翻訳としての言葉が入ってきているんですが、その弱点というのがどうも日本にはあるような気がしますね。
 その証拠に、タバコのことを研究したり、健康教育を研究している大学が本来、敷地内禁煙をするべきなのにちっともなっていない所を見ると、いかに学問というのは言葉だけの世界かという気もするんですね。
それから、行政の力、先ほども堺市の方が頑張っておられるという紹介がありましたが、行政というのは力を持っています。だから、そのポジションについたものは責任があるし、きちんと力を発揮しないといけないなぁと強く感じました。

 《旧厚生省の通知を日本中が無視》

 さて少し説明ですけども、皆さんご存知だと思いますが、平成七年に当時の厚生省がこういう文書を出しています。 「保健医療機関や学校、児童福祉施設等においては、その社会的使命や施設の性格に照らし、利用者に対する公衆衛生上の格段の配慮が必要とされることから、禁煙原則に立脚した対策を確立すべきである。」という報告書が出て、国としてやっていきますよということを厚生省が出しました。 これを関係の機関に出してるんですね。
文部省にも出して、文部省がこれを受けて各都道府県教育委員会に通知を出している。都道府県もおそらく市町村に出している、はずですね。 ということは、平成七年に全国の学校が「禁煙原則に立脚した対策を確立」していなければおかしい事になります。 でも、どこもやらなかった。 全ての教育委員会がこれを無視した。 文部省も無視をした。 なぜか。
 
 《特別扱いされるタバコ BSEより怖いのに。。》

 これは「タバコだから」無視をしたのです。 タバコっていうのは凄く特別扱いをされていて、ほかの健康問題であれば大騒ぎをしますがタバコになると急になにか魔力を発揮するのか、しなくなるんですね。
実はこの間、吉野家に面白半分に入ったんですね。 なぜかというと牛丼が無くなったとニュースになってて、代わりに豚ドンというのが売ってるというので、いったいどんなものかなと、通りかかったら吉野家があったので、お腹が空いていたので入りました。 食べながら実に不思議だと思ったのは、もしアメリカから日本が牛肉の輸入を解禁して食べた時、いったいどれだけの人が健康被害を受けるでしょうか? ほとんど受けないと思いますね

 でも、牛肉は禁止しているのにタバコはドンドン輸入しているんですね。  あきらかに健康によくないというのに。 だから、ある商品が年間に十万人もそれを使った人が死んでいると、それからそれを使う周りの人まで死んでいる、あるいはひどい被害を受ける。といったら誰でも大変だなぁと思うんですが、それが商品でなくタバコって書くと許されるっていう非常におかしなことがありますね。 ある商品があります、例えばこのレーザーポインター、これを使う人が年間十万人死んでいますといったら、学校はこれを使わせるでしょうか、学校の中で。 絶対持ち込ませないですよね、教育委員会も。 でもタバコだったら通知が出ても、まあいいじゃないかと、知らぬ存ぜぬで通せると云うことです。

 《大人はタバコを吸わない?》

 これは和歌山日赤の池上先生が調べられたデータなんですが、今、喫煙している人が一体何歳のときに喫煙を開始したのかっていうデータです。 これで、面白いことを発見しました。
これを見ますと25歳で98%の人が喫煙を開始しているんですね。 問題はこっちなんですね。このグラフからこういうことが言えます。 「大人はタバコを吸わない」ということ。 吸ってる人がいるじゃないかと言われるかもしれませんが、その人たちはこの時期(25歳以下)に喫煙を開始したから、依存症で止められずにいるだけで、25歳を超えてからタバコを吸い出す人は殆どいないということなんですね。 本当の大人になってからタバコを吸おうという人は非常に少ない。 まあ、男女差がありますし、調査によっては女性の人が三十歳を過ぎても吸い出す人もいるみたいですけども。
だからタバコっていうのは、大人が吸うもので子どもはダメってよく言いますがそれは間違いで、タバコは子どもが吸いたいもの、子どものときに吸い始めるもので、
思春期・青年期に吸い始めるものでホントの大人になってからは、吸いたいとは思わない。
 ここに居られる方は喫煙者が少ないと思うんですね。 おそらく一生、タバコは吸わないと思います。 それはタバコに対して厳しい姿勢があるからじゃなくて、単にもう25歳以上だから。

 《タバコと玩具の類似性》

 いったいこれはなんだということなんですが、これは教育学的に考えて見ますと、この中にもかつてはこういうもの(仮面ライダーグッズ)に憧れた方がいると思いますね。 誕生日だとかクリスマスとかに、「このベルト買って」とか「お面買って」とか言ってオネダリをした方がいると思います。 あるいは、このリカちゃん人形を抱いて寝たり、何時間も人形と一緒に過ごした方もいるんでしょう。 今、そうやってる方はおられるでしょうか? まず、いないでしょうねぇ。なかにはマニアでこういうものを大人でも集めてる人はいます。 でも、谷町四丁目の駅前でベルトして「変身!」ってやってる大人の人はあまりいないんじゃないかと思いますし、リカちゃん人形を抱いて今も寝ているという人は、私は覗いたこと無いですが、いないと思います。 だから、ある時期は非常に欲しい、欲しくて欲しくて堪らない。 それを貰うと嬉しい。 でも、あんなに欲しがったのに、ある時期を過ぎると全然欲しくない。 タバコも同じようなものじゃないかなぁと思うんです。 人間の成長のプロセスにはそういうことがあって、

例えば主催者の野上さんもここに座ってますが、野上さんも小さいときはお母さんに連れられて女湯とか入ったことがあると思います。 そのときは当たり前だった。今になって、あのときもっと観察しておけばよかったと反省しても、当時は何の興味もなくて気にもならなかったんですね。
そういうことが人間の成長発達にはよくあって、やはりタバコにも非常に吸いたい時期、興味のある時期があると思います。その時期を過ぎてしまうと吸わない。 喫煙する理由を聞くと、「おとなに憧れて」というのが多くて「カッコよく見せたくて」とかいうのがあります。 三十過ぎて大人に憧れてる人はいませんよね。子どもに憧れてる人はいるかもしれませんが。
 《有害図書とタバコ》

 それからよく権利だって言う人もいるんですね。学校なんかでも。 タバコを子どもたちに禁止するのは良いが大人に強制するなという先生も多いんです。 じゃあ、こういうポルノ雑誌はどうなんだ、これはまあ穏やかなものですが。 こういう雑誌を学校で読んで良いかどうか。大人と子どもは違うんだと子どもに言い聞かせる人はいないですね。
例えば、堺市の議員さんで、「俺はポルノ雑誌を見たいのだ」と言って、市民に見られるのはマズいからポルノ雑誌を見るための部屋を市の税金で造れ、と主張する人はいないですね。 だから、タバコは二十歳以上は吸って良いからというが、やはりタバコだけは特別扱いしているのが判ると思います。

 《ニコチンはグリコのおまけの
              ようなもの》


 タバコって言うのは、皆さんご存知のように薬物依存症になります。 タバコはああいう形をしていますが、あのなかには依存症を引き起こす薬物が入ってるわけです。 これは道頓堀のグリコの看板ですが、ある年齢以上の人はグリコというとおまけを思い出しますが、子どもたちの中にはおまけが欲しいからとか、シールが欲しいからとかいう理由で食べもしない、食べたくも無い飴をたくさん買ってしまう子どもたちがいます。 タバコもそうですよね。 別に発癌物質が欲しいわけじゃなくて、ニコチンが欲しいために発癌物質も一緒に体の中に取り入れてしまう。 おまけが欲しいグリコと似ていると思います。 そのあたり、我々もきちっと学校で子どもたちに教えてきたいと思います。 これは学校で喫煙防止教育をするときに、タバコは悪い悪いというのですが、本当はもっと人間の体の仕組みの違いを教えるべきですね
 
 《化学物質には注意を払う》

  ロボットというのは人間に似せて造ったものですが、実は人間とは全然違って中は機械で出来ています。 我々人間はどうやって動くかというと、化学物質で動いていますね。 今も皆さん、そこに座って話を聞いてくださっています。 昼に食べたものを消化したり、目を動かしたり耳を働かせていろいろな処理をしているわけです。 それはすべて化学物質が体の中で作動してるわけで、人間とはそういうものであり、だからこそ化学物質を外から体の中に入れることは警戒しないといけないことで、やはりタバコという化学物質を簡単に体に入れられる社会的な仕組みというものには、もっと疑いを持っていくべきだと思います。

 《周りからの「陰の圧力」が原因》

 喫煙防止教育の中でよくこういうことが言われるんですね。 ピアープレッシャー。(同僚の圧力、仲間集団からの社会的圧力) アメリカの文献などを見てみると、タバコを吸い始める原因はピアープレッシャーだとよく書かれています。 ロールプレイングゲームでタバコの断り方というのをやるんですね。 タバコを吸うよう勧めます、それをどう断るかというのをやるんですが、ところが実は調べてみると無理やり吸わされたという子どもは少ないんです。 なんとなく吸ったとか吸わないとかっこ悪いと、それは正にこれに当たるだろうと。 横断歩道で信号が赤です。 誰も渡っていません。 皆さんも経験があるでしょうが、ここは道が狭い、どちらからも車が来ていない、そういうときに平気で渡りますよね。
みんなが赤でどどっと渡っているときに、自分だけ渡らないというのは凄く辛いという経験はありませんか。 あるいは自分が先頭切って渡る人もいるかもしれませんけども。

プレッシャーの中には無理やりさせられるプレッシャー以外に、周りがみんなやっているときに自分だけが我慢するのが辛いというプレッシャーもあるんですね
” 陰圧”と書きます。 タバコに関しては、無理やり勧められるというよりは、思春期・青年期の時期になんとなくその集団の中では吸わないことが、非常に辛いという立場に子どもたちが立たされると。 このあたりがこれからの喫煙防止教育の大きな課題だと思います。
 

 《非喫煙者がしっかりしなければ》



 最近、わたしが思っているのは「しっかりしろ、非喫煙者」。 私自身も含めてですね。 よくこういう会を開いたときに、立派な先生が来られていい話をされたら、「こんな会に喫煙者にきて欲しかった」という声をよく聞くんです。 でも、基本的にタバコを吸ってる人が、自ら進んでタバコ対策に乗り出したということはあまり有り得ないですね。 薬物依存症ですから。 ということは、吸わない人がもっとしっかりしないといけないと思います。

 《分煙室設置は間違った愛情》

 先程から、いろんな例が出てきましたけれども、和歌山県でやってて気づいたことは、最初はタバコが吸えないようになると喫煙者が可哀想だと僕自身も思っていたんです。 だけども、これまではタバコを吸わない人が我慢をしてきた、長い間。 だからこれからは吸う人が我慢してもいいんじゃないかなと思ってたんですが、実際に対策を始めてみると、タバコを吸えるようにしてあげることは、本当にその人のためなのだろうかと思いました。
分煙室を作れば、喫煙室を作れば、タバコを止める人は殆どいません。減りはしますが。 でも、敷地内禁煙にして、タバコを止めた方は沢山います。 止めた方は全員、止めたことを反省していません。 ということは、吸えるようにしてあげることこそ、可哀想なんですね。 だから、堺市の議員さんはホントに可哀想だと思います。 あれが全面禁煙になっていたら、おそらくそれをきっかけに止めた議員さんも多いと思うのですが、間違った愛情で喫煙室を作ってあげた為に、未だにタバコを止められないで薬物依存症で苦しんでいるんですね。

まだまだ、我々がこれから、非喫煙者ががんばって取り組まなければならないことは沢山あるだろうと思います。これは空気清浄機でこの壁の向こうにありますが、これはある図書館なんですが、子どもたちも来ます。 向こうに空気清浄機という名の空気を汚す機械があります。 こういうことも我々がもっときちっとした行動を取らないといけないかなぁと思います。
 《タバコを買うのはジュースと
               同じ感覚》


 それから、これはどこにでも見られる風景ですね。 左側は清涼飲料水、右側はタバコの販売機。 右と左は全く違う商品なんですね。 右側は薬物依存症を引き起こして、重大な健康被害をもたらす物。 左側は、まあそうではないと思います。 だけども、それらがまるで同じように並んで売られている。 これを子どもたちが見たときに、こちらの商品(タバコ)の問題の重要性というのは自覚し難いのではないか。 コインさえ入れれば買えるようなこと、こういったことにこれから取り組まないといけないかなぁと思います。

 《喫煙者の為に禁煙場所を
                増やす》


 ということで和歌山県2年2か月、やっていますが、あらためて非喫煙者こそもっとしっかりして喫煙者の為にもっと禁煙場所を増やしていく。 分煙か禁煙かという話が出てますが、本当は言葉の意味は、世の中からタバコを無くすというのが最高であり、唯一の目標だと思うんですがそれができない間の暫定的な処置として、学校であったり病院であったり、多くの人の集まるところであったりを全面的に禁煙にするのが社会の分煙だと思います。 ということで簡単でしたが報告させていただきました。
質疑応答

: (学校敷地内全面禁煙の)結果として、小中学生、高校生の喫煙は、和歌山県内で減少しましたか?

  きちっとした調査が出来ていませんので、わかりません が、全然変わらないという報告もありますし、
   非常に減ったという報告もあります。 ある学校では、先生方、校長とか生徒指導主任が、毎日校内を回って
   タバコの吸殻を集めて回るのが仕事だったのが、それが全く無くなったという学校もあります。
    それから高校の中には、先生方が吸わなくなった、それは子どもたちも判ってるけれども、やはり喫煙者は
   多いという学校もあります。
    生徒指導で補導されるのは、以前からタバコを吸って補導される子どもが多いですが、それはやはり
   減っていますね。敷地内禁煙するということと、思春期・青年期の子どもたちにこれからタバコを吸わないよう
   にする、あるいは吸っているのを止めさせるっていうのは、別の問題、別の課題と考えた方がよいと思います。


: わたしは介護福祉系の専門学校に行っていますが、すごく喫煙率が高くて休み時間ごとに(学校内禁止なので)
   門の所で沢山吸っています。 それで、将来的なこともあるし、学校内職員一同、禁煙させたいという気持ちがあ
   るのですが、禁煙サポートの研修内容を教えて戴きたいということと、それから禁煙したいという学生が来たとき
   にニコレットのガムを噛んでくださいと渡すのですが、あのガムは凄く不味くって、学生が気分悪くなるというので
   パッチを貼りたいと思いますが、パッチは医療ケアになるのでしょうか。
   医師の診察、処方がないと出してもらえないのかというのと、インターネットで見ましたら外国のは簡単に買える
   んですよね。それを勝手に使えるんだろうかということを教えていただきたい…。学生が禁煙したい、パッチを
   貼りたいと言ったら、いちいち医療機関に送らないといけないのかということが判らないので教えていただきたい
   と思います。


: 全部、答えられませんが、まず禁煙サポートについてですが、研修はタバコの科学的な危険ですね、それと禁煙
   パッチというような方法があるとか、禁煙ガムと禁煙パッチはどう違うかとかです。 禁煙ガムに関してはタバコを
   吸う方が会議とか旅行とかでどうしても吸えない時に、一時的にタバコを吸わないでいるためのものではないか
   なぁと私自身は解釈しています。
   だから禁煙パッチのほうが遥かに優れているんじゃないかなという気がします。 それから学校でタバコを吸って
   いる子どもたちをどうするかということですが、これは全ての学校でやっているわけではなくて、これから始まる
   わけですが、いくつかの学校では、養護教諭が子どもたちに、そういう方法があると勧めてパッチを貼って止め
   た子どもたちもいます。
   それからある高校では校長先生が先頭に立って、自ら申し出たものは処分をしない、というのは高校は一回目
   は5日間の謹慎、土・日も含めて一週間ですね。二回目は10日間というような長い間の伝統がありますので、
   それをその学校では止めて医療機関を紹介するということです。 和歌山県では、いつでも協力するよという
   お医者さんが沢山いますので、敷居がそんなに高くないんですね。昼休みにパッチを持って往診している人も
   いまして、喫煙者を見つけて貼っています。

   
大阪府立健康科学センターの中村正和ですが、少し補足します。
   パッチについてはいずれガムと同じように薬局で買えるようになります。 殆どの国で薬局で買えるんですが
   日本はまだ一般薬としての認可が遅れていて、漸く臨床試験がほぼ終了しておそらく2〜3年後くらいには薬局
   で買えるようになるでしょう。 今は医療機関で医師の処方箋が必要というところが少し簡単に手に入らないとい
   う問題があります。
    ただ、自己責任でインターネットで海外のニコチンパッチを購入して自分で貼るということは、公には勧められま
   せんけども、自己責任なら費用はかなり安くなります。以上です。