20 回「たばこはやめよう(200708年)コンクールの審査講評

 

1.紙芝居・絵本の部

 今年は応募作品の「力弱さ」が気になりました。うすい鉛筆線の輪郭や、色鉛筆の彩色などは、およそコンクールに出品する姿勢としては、自信のなさをアピールすることにしかなりません。また、マンガ家は大きいケント紙に描いて、それを縮小することはありますが、小さい絵を拡大して使うことは、およそあり得ません。小さな紙にごちゃごちゃと描いても、それを拡大印刷はできません。これらは「画材」に負けているとしか思えないような「力弱さ」です。印刷されることを前提に、計算して描かれた絵は、力弱いし、おもしろいものになりません。

 さすがに選ばれた作品は、まずしっかりと「画材」と格闘し、印刷などされようが、されまいが、かまわない作品体として整っていました。これが実は、コンクール応募作品の最低線なのですが、そこに届いていない水準以下のものも少なくなかったのは残念です。そして、テーマの扱い方ですが、禁煙というテーマは「禁」ですから、否定的なものになりがちです。けれども、入選作品はさすがに、さまざまな工夫をこらして、肯定的な色調をもたせており、またそれが選ばれた理由にもなっています。(堀田 穣)

 

2.ポスターの部

 学校、役所、駅のホーム、乗物、タクシー、会議、銀行など、禁煙・無煙が増え、社会的改善が進んでいます。ポスターコンクールには、2,300点の作品が寄せられました。審査は、高校生〜一般、中学生、小学生低学年・高学年、幼児に分けて行い、「たばこはやめよう、吸わないで…子どもの願い、みんなの願い」をテーマに、美術コンクールとは違った観点から、審査員9人で投票方式+協議で一次、二次、三次(最終)審査まで行いました。

 ポスターには、言葉によるコミュニケーションとは異なる表現があります。ポスターは、伝えたいことを絵や色・文字(コピー)などによって、自由な発想で、美しく印象に残る表現をし、効果的に発信します。家族や身近な人へのメッセージを、作者が自分の感覚や心情と共鳴させながら、楽しく、ほほえましく表現されていて、私たちの心に響いてくるような作品が多くありました。

 発想の転換や気の利いたアイデアで表現された作品は私たちを楽しくさせてくれましたが、自分の力で表現されていて、分かりやすく、印象強くメッセージを表現している作品や、優しさのある目や顔の表情が豊かな作品の評価が高く、前回と同じく、全年齢層の上位選定ポスターの中から、啓発ポスターやカレンダーのデザインに活用する観点から、お父さんの家族を守るぞ、というほのぼのとした表現力に優れた作品を厚生労働大臣賞(小学1年生)に、また、受動喫煙のアピール表現とシンプル性に優れた作品を文部科学大臣賞(高校2年生)として各1点を選定しました。

 これら入賞した作品が、次回の啓発ポスターやカレンダーなどのデザインに活用され、多くの人の目に触れ、社会的改善に役立てられることを楽しみにしています。(新谷隆夫、瓜生隆子)

 

3.マークの部

 グラフィックの世界で「パッと見!」という、業界ならではの言葉をしばしば耳にします。それは瞬時に映像として目に飛び込み、ひと目で強い印象を与えることを指しています。マークとしての必要十分条件は、まさにこの「パッと見!」です。つまり、文字による説明は無くても、意味が瞬時に理解されねばならないのがマークです。

今回の応募総数1,102点の中から、選考は他の部門と同様に予備選定された作品63点を一次、二次と選んで行いました。パソコンによる制作が当たり前になっているグラフィックの世界を反映して、ほとんどの作品がCGによるものでした。デジタル全盛の時代とは言え、人間臭さのある力強い手書きマークが廃れていくようで心寂しい気持ちにもなります。

印象深かったのは厚生労働大臣賞に選ばれた作品(成人)で、その絵柄はタバコの煙を浴びせられて顔面が見えない人物と、その横で喫煙する人物。そこに添えられた「あなた、空気がよめていますか?」の文字。昨今流行のコピーを的確に取り込んだ社会批評的センスに脱帽です。文部科学大臣賞に選ばれたのは高校1年の女生徒の作品で、大きく象徴したハート、折れたタバコ、そして人の顔を組み合わせたものでした。(山田 彬)

 

4.標語・川柳・漢字熟語の部

 今回の応募総数は9千点余。その中から予備選定された作品59点について、審査員が一次、二次と選んで行きました。前回(第19回)に比べて、禁煙をストレートで常識的に表現した作品が多く、捻りを効かせた表現やキラリと光る訴求力の高い作品が、今少し乏しかったように思います。

かつて、タバコを吸う姿は「紫煙をくゆらす」という優雅な言い方すらされ、格好よいことの代名詞といった感があったものです。しかし、その姿も今や「死煙をまき散らす」社会の敵?呼ばわりされるようになりました。こうした受動喫煙の害が大きくクローズアップされるのは、官民あげてのキャンペーンが功を奏してきた結果だと言えましょう。応募作品の多くが、この受動喫煙が、赤ちゃんや妊婦をはじめ周囲の皆に迷惑を及ぼすことを訴えていたのはその証左です。

厚生労働大臣賞の「その煙 家族と健康 遠ざける」(大学1年生)、また文部科学大臣賞の「吐く煙 命も笑顔も かき消され」(高校1年生)は、ともに受動喫煙による周囲の迷惑を間接的に表現した作品でした。

 予備選定59作品のうち、いわゆる四文字漢字熟語で表現されたものは9点あり、徐々にその数も増えてきています。日本語への関心の高まりや、漢字検定などへの興味を反映しているようです。四文字熟語は、語呂合わせなど遊びの要素を含み易いので、身近に感じられる表現方法と言えましょう。(山田 彬)