22 回「タバコはやめよう(200910年)コンクールの審査講評

1.紙芝居・絵本・動画の部

 素材との格闘をと訴えて来たことが受け入れられたのか、今年の応募ではしっかりとごまかさずに絵を描き、色を塗った作品が集まった。ある程度の水準になったら、次はテーマの表し方になる。

「えがおをまもろう」は物語に主張を埋め込んでおり、色彩や絵の構図もしっかりとして、作品として一定の水準に仕上がっている。贅沢をいえば、もう少し、ダイナミックな動きを取り入れると、紙芝居らしいものになるだろう。「タバコングをやっつけろ」は筋もおもしろいし、美術的な腕も確かだ。ただ、キャラクターが五味太郎あたりの人気絵本を連想させてしまうのはマイナスである。せっかく自己表現をするのだから、各自どこかで見たようなキャラクターではなく、オリジナルなものを生み出してほしい。

その他の作品では、絵の水準はそれほど低くはないのだが、紙芝居の特性を誤解しているのか、内容が説明、啓蒙に終始してしまっている。これでは読者は楽しむのではなく、知識や主張を押し付けられているとしか感じないだろう。テーマの理解で、微妙にズレてしまうのも問題だ。その他の作品で、タバコ問題とゴミ問題が混同されてしまって、せっかくの個性的な絵の作品を生かせていない。また紙芝居の脚本の書き方も間違っていて、絵のすぐ裏にその絵の説明を書くのでは、紙芝居舞台に入れた時に困ることになる。ほのぼのとしたよい作品だったが、絵柄が小さすぎるものや、ていねいに描かれているが色彩が暗すぎる、などもう一工夫して観客を明るく楽しませる作品が望ましい。(堀田 穣)

 

【動画】

 今回初めて「動画」を公募しました。応募点数は多くはありませんでしたが、1分前後の短い映像の中で、タバコの害についてリズミカルな表現には楽しいものがありましたが、絵・画像そのものが綺麗にできあがっているものが選定されました。ソフトを活用することによって可能でもあるので今後の工夫に期待したいです。入選作品はいずれもアニメーション風で、ホームページにも掲載を予定しています。(事務局・野上浩志)

 

2.ポスターの部

 公共的施設や病院、学校、交通機関など多くの所で、禁煙が実施され、無煙環境が広がり、社会的改善が進んでいます。この推進活動の一端を担うために企画された第22回「子どもの周りに無煙環境を」ポスターコンクールには、2,000点余の作品が寄せられました。

審査会では、「タバコはやめよう、吸わないで」をテーマに、「タバコの害・迷惑を表現している。タバコを吸わないことを訴える、明るく、シンプル、わかりやすい、ユニークで、アピール力がある」などの観点から審査し、高校生〜一般、中学生、小学生高学年・低学年、幼児に分けて行い、美術コンクールとは違った視点から、審査員9人による投票方式で、一次、二次、三次審査を行いました。最終審査では、各年齢層の上位作品を並べ、訴える力や色・形の明快さ、ユニークで、優しさのある作品として、厚生労働大臣賞(ボクらの未来にタバコはいらない!!;専門学校1年生)、文部科学大臣賞(タバコはやめて長生きしよう;小学3年生)、大阪府知事賞(やめてくれて ありがとう;大阪府内の入賞作品で小学4年生)などを選定しました。

 審査で感じたことは、禁煙してほしいという思いから、喫煙者に排他的な作品が少なからずありましたが、もう少し穏やかにやんわり禁煙を勧めるような、暖かい説諭的な表現が望ましいのでは、とも感じました。

 これら入賞した作品が、次回の啓発ポスターやカレンダーなどのデザインに活用され、ネットでも広報され、多くの人の目に触れ、無煙環境の輪が広がり、社会的改善に役立てられることを期待しています。(新谷隆夫、丹羽善二)

 

3.マークの部

 「今回のマーク作品には従来に無いアイデアが散見されました」と話されるのは、審査員のひとり丹羽善二氏。すなわち、禁止マークなどを強調せずソフトにジワッと柔らかなタッチで訴える作品や、色彩のトーンに工夫をしたものが目を惹いたとのこと。

応募総数259点の中から厚生労働大臣賞に選ばれたのは、タバコの煙を吸い込んだ肺、もしくは心臓を彷彿させる臓器が涙を流して泣いている図柄で、大学院生による作品でした。マークに必要な《パッと見で一目瞭然》の要件を満たしています。

文部科学大臣賞に選ばれたのは、≪禁煙マーク(赤色)≫=≪笑顔マーク(緑色)≫という補色効果を意図した高校生の作品でした。補色とは、12色環において対面同士にある2種の色で、この2種の光を混合すると白色光となって互いに補い合いながら目立つ関係になるものです。

両作品とも短いフレーズが添えられていますが、敢えて説明文字を添える必要のない明瞭かつシンプルな、正にマークに相応しい出来栄えです。(山田 彬)

 

4.標語・川柳・漢字熟語の部

応募総数10,390点の中から予備〜一次選定された62作品に対して、審査員9名が投票を行った結果、『廃止です 妻がタバコを 仕分けする』が厚生労働大臣賞に選ばれました。喫煙を小気味よく断罪したこの作品は、時代の空気が漂う極めてニュース性に富んだ視座が審査員多数の賛同を得たものです。また入選作には、現在の社会状況を反映した“婚活”や“就活”といった言葉を散りばめた作品が目に止まったことも今回の特色でした。

喫煙による害や周囲への迷惑については既に社会的常識となっているだけに、私たちの心を捉えて離さない印象的な言語表現を創作するには、型にはまった思考様式から抜け出た発想が求められます。常識と同一線上にある道徳的なフレーズなどは人々の共感を呼ぶものではありません。その意味では、常識を覆すような反語的な表現で煙害をアピールするのも刺激的で印象強い作品になるかも知れません。次回には、これまで見られなかった斬新な標語・川柳・漢字熟語・造語を期待したいものです。

 なお、文部科学大臣賞は(生徒・学生に限定している関係で)今回該当作品が無く、見送りとなりました。大阪府知事賞には『心地いい モクモクしない 家の中』が選ばれました。(山田 彬)