(9)
そんな暗い所に、人かげが見えました。
僕は、おびえながらも、そのかげに一歩二歩と近づいて行きました。
「君はー?」と僕が聞くと、
「あぁ、おれかぁー。おれは、タバコを吸って、自分を大事にしないやつらの体の中に出てくる、ガン細胞ってものさー。」
僕は、タバコとガンと聞いてドキンとしました。
「まったく、人間ってもんは、自分を大切にできねえのかよぉー。」
「…………。」
「あのよぅー。お前はタバコなんて吸うなよ、ただ早死にの元なんだからよぅー。
それにタバコってもんはよぅー、ニコチンのせいで、一度吸い始めたら、いざ止めようと思ってもなかなか止められねえんだぜぇー。
最初っから吸わなきゃー、どうーってことないのによぅー。
じゃあ、まぁ、がんばれよー。」と言って去って行きました。
あわてて僕は、「あっ、あのー、ありがとうございました。」と言ってまた進みました。そしたらふっと淋しくなって、涙が出そうになりました。

・ ぬきながら ・

人間は、なぜ害をもたらすタバコを吸うんだ、何にも役に立ちはしないじゃないか。