子ども達の多くが煙にさらされている

紙芝居・絵本コンクールと啓発紙芝居・絵本の制作

「子どもに無煙環境を」推進協議会の発足 童話絵本の発刊
子どもに無煙環境を」のメッセージを広く届けるために ボランティアの募集と協力、事務所の設置
啓発ポスターの無料配布・掲示と協力の広がり 協議会の運営とNPO法人設立
ポスターなどのコンクールと全国からの応募 10 タバコで健康を害されない社会を
1. 子ども達の多くが煙にさらされている
 第一回「子どもに無煙環境を全国キャンペーン」(一九八八〜八九年)の時に、ポスターコンクールの応募者(未成年)を対象にアンケートを行いました。その結果、回答者の七十九%が、タバコの煙で困ったことがある、迷惑と思った、と答えていました。子ども達の多くがタバコの煙を嫌がっています(大人も吸わない者の多くは皆嫌がっていますが…)。
 家庭はもちろん、学校の職員室、レストラン、医院、遊園地、交通機関など、多くの場所で、多くの子ども達が受動喫煙にさらされ、健康を脅かされています。(当時)
 これからの社会を担う子ども達の健全な心身の育成を願わない親、大人、社会はないのに、ことタバコについては、その害や迷惑に無理解・無頓着な親や大人の煙に子ども達が、さらされています。
 また、子どもの時から親や祖父母、兄や姉、あるいは友達が吸うタバコに、ごく自然に染まってしまい、吸い始める子どもも少なくありません。
 タバコの広告・宣伝で、またテレビドラマや映画などで、タレントがカッコをつけてタバコを吸い、いかにも良いものに見せ、背伸びする子ども達をさそっています。加えて自動販売機で自由にタバコを買うことができる現実があります。子ども達をとりまくこのような環境が、小中学生からタバコを吸い始める子どもを増やし、今、未成年の喫煙は、教育現場で、また健康面から、大きな問題の一つになっているのです。
 
2.「子どもに無煙環境を」推進協議会の発足
 
  大阪では一九八四年より、市民団体の「たばこれす」や「タバコと健康」近畿協議会が、大阪対ガン協会や大阪エイフボランタリーネットワークなど医学衛生機関と共同主催して、タバコの害をなくす啓発キャンペーンを毎年行ってきました。これらの動きもあって、公共の場の禁煙が徐々に進んではいましたが、子ども達が、家庭や学校などで大人の煙を吸わされている環境の改善が全くなされていませんでした。
 子ども達の健全な心身の育成のために必要な、「タバコの煙のない生活環境」への改善を促すことを全国的な世論にするため、「子どもに無煙環境を」をテーマに、前記の機関を中心として、一九八八年八月、「子どもに無煙環境を」推進協議会を設立しました(会長には、学生の母性保護を理由に学内禁煙を実施していた鯵坂二夫・甲南女子大学学長(当時)が就任しました)。
 子ども達(胎児を含め)を受動喫煙から守るための無煙環境づくり、及び子ども達がタバコに染まらないための社会環境づくりの事業には、課題の広さや多くの難しさがあります。そのため、設立にあたり以下のように基本方針が決められました。

@関係機関が幅広く連携しあった実施母体が必要。
A社会的共感を呼ぶ、効果のある内容とテーマが必要。
B子ども達や大人の方々にも広く参加してもらえるイベント性が欠かせない。
Cその子ども達の思いをメッセージとして社会に届ける工夫と継続性が望まれる。

以上の4点を基本に、「子どもに無煙環境を」の啓発事業をはじめました。
 

3.「子どもに無煙環境を!」のメッセージを広く届けるために
 
  子ども達や大人の方々にも広く参加してもらうために、「子どもに無煙環境を」、あるいは「タバコの害・迷惑」をテーマに、ポスター・マーク・標語・絵本・紙芝居・童話コンクールを行いました(初回はポスターコンクールのみ)。
 そして子ども達の思いをメッセージとして社会に広く届けるために、コンクールの入選作品をデザインに活用して啓発ポスターを制作し、全国の学校、公共機関、病院、駅などに無料配布し、掲示してもらいました。この啓発ポスターにはコンクールの案内も刷り込んでいます(コンクールの最優秀は厚生大臣賞、その後文部大臣賞も授与)。
 またポスターと同じように、入選の絵やマーク、標語をデザインに活用して、カレンダーや、絵葉書、しおり、文具などを制作し、コンクールの参加記念品として送付しました。
 
4. 啓発ポスターの無料配布・掲示と協力の広がり
 
 
せっかく啓発ポスターを作っても、多くの場所に掲示できなければ何にもならないし、この問題の改善を多くの関係機関との共同事業として行うためにも、多くの機関に後援を依頼し、これらの機関に啓発ポスターの配布・掲示の協力をお願いしました。
 幸い、厚生省や文部省、日本医師会、自治体や教育委員会などの後援と協力が得られ、ポスターを全国の学校、幼稚園、保育園、児童館、子ども・青少年教育施設、病院、公共機関、駅など、広範囲に配布し、掲示することができました。
 初回は三万枚の啓発ポスターを制作・配布しましたが、一三五頁の図の配布枚数の推移に示すように年毎に増え、今回(第十二回、一九九九〜二〇〇〇年)は写真のような啓発ポスター十八万枚を無料配布・掲示しました。特に学校には全国の小中学校のほとんどに配布し、「子どもに無煙環境を」のメッセージを多くの人に届けています。コンクールの応募指導の先生方から、「職員室のタバコの改善の動きや問題提起をしやすくなった、家庭でも話題になり、親が禁煙に踏み切った」などの声が寄せられているのはそのあらわれではないでしょうか。

 
5. ポスターなどのコンクールと全国からの応募
 
 この啓発キャンペーンは、「子どもに無煙環境を」のメッセージを多くの人に届けるだけではありません。ポスター、マーク、標語、紙芝居・絵本、童話コンクールに、多くの子ども達や大人の方々に参加してもらうことにより、喫煙防止教育に活用したり、未成年の喫煙防止を進めるきっかけとなっています。コンクールの応募数も年毎に増え、左図の応募数の推移に示すように、ポスター、標語ともに各々一万点前後の応募が全国各地から寄せられ、この他、マークが千点余り、紙芝居・絵本や童話が二百点余り寄せられています。
 作品の内容は、周りの人への害や迷惑、家族のタバコ、学校のタバコなどに関するテーマのものが多くなっています。子ども達が親や周りの大人のタバコの煙に困っていたり、タバコを吸う親の健康を心配したりしている、そんな切実な思いが表現されています。また、成人の作品も無煙環境の広がりを願っている気持ちが表現されていました。これらの作品の活用のために、入選ポスターは傷みにくいようにラミネート加工し(または透明な袋で保護し)、各地の催しや学校などに無料貸出しをし、好評を得ています。
 
6. 紙芝居・絵本コンクールと啓発紙芝居・絵本の制作
 
 第二回〜四回、及び第八回以後のコンクールでは、紙芝居や絵本の募集も行いました。紙芝居や絵本は、コンパクトな物語性を持つため、タバコの害を学習した子ども達が、絵だけでなく文も一所懸命考えたり、クラスやクラブ、家族などで合作に取り組んだり、という実践教育の面からも効果的ですし、幼児や小中学生、高校生、大人からも、多くの力作が寄せられました。
 第七回事業以降、郵政省(郵政事業庁)の寄附金付年賀葉書等寄附金や子育て支援基金などの助成が得られ、これまでの最優秀や入選の紙芝居や絵本作品を毎年各々千部印刷する他、紙芝居のビデオも制作しました。そしてその送付希望を募って配布し、喫煙防止や健康教育の教材として子ども達の関心を引き、好評でした。
 第十回の事業では、コンクールの紙芝居部門で最優秀(厚生大臣賞)作品となった紙芝居を、五月三十一日の世界禁煙デーに合わせ絵本として発刊しました(『
パオンくんのタバコはこわいゾウ』)。かわいい動物たちの登場するタバコのこわさと迷惑の物語を、紙芝居とはまた違った絵本という形で、家庭や図書館、学校で多くの人に是非、見て読んでいただき、また読み聞かせにも使っていただきたいと思い発刊したものです。幸い多くの方から好評をいただきました。
 
7. 童話絵本の発刊

  第十一回啓発事業では、福祉医療機構の子育て支援基金の助成が得られ、啓発ポスターの他、童話絵本の発刊(千部)も認められました。童話絵本には、これまでのコンクールの紙芝居部門の入選作品十四点を童話風に編集し、紙芝居の絵もカラーとモノクロで全部を収録しました。
 元々紙芝居として応募いただいた作品を、童話絵本として編集し直しましたので、紙芝居の良さが出せない点はありますが、経費的にこれらの作品をすべて紙芝居として発刊することができないのは残念です。せっかくの優れた作品を多くの方に見ていただく方法として、このような形で発刊することになりました。
 このような童話絵本を、多くの子ども達や、家族の方々、またヤングや大人の方にも読んでいただき、「子どもに無煙環境を」のメッセージを受けとっていただきたい、そして次代を担う子ども達が、タバコの煙で健康を害さない環境で生活できるよう、また来る二十一世紀には”無煙世代”として生き生きとした環境で育っていけるよう願って発刊しました。
 これらの入選作品は、プロの目から見れば、必ずしも洗練されたものとは言えないかも知れません。しかし作品に盛られた「子どもに無煙環境を」のあつい思いをメッセージとして伝えるために発刊し、またインターネット・ホームページも起ちあげ,啓発事業、入賞作品や発刊本の紹介、タバコ問題の最近の動き、喫煙防止教育の実践事例、タバコの害Q&Aなどを紹介していますが、その後、紙芝居や絵本をもとに人形劇を作ったり、「たばこはやめて!」子どもサミットを開催したり、地域での喫煙防止キャラバン隊の育成などを行っています。
 これらコンクールや紙芝居・絵本の発刊、人形劇、啓発事業については、毎年、新聞やNHKなどでも紹介され、徐々に浸透してきていると考えています。
 
8. ボランティアの募集と協力、事務所の設置
 
  この事業を行っていくためには、多くの人手が必要です。初めのころは会員の方々に手伝っていただきましたが、仕事のある人も多く、そのうちに近所の方々に声をかけてパート的にお手伝いいただきました。しかし資金的に苦しくなったため、大阪ボランティア協会に相談しました。「ボランティアを募ってはどうですか」との助言をいただき、新聞の告知欄やボランティア募集欄で掲載していただくことができました。
 その後毎年、新聞のお知らせ欄やボランティア募集欄で紹介いただき、多くの方にお手伝いいただくことができました。啓発ポスターの全国各所への発送作業、コンクールの応募作品の整理、審査作業や入賞通知、記念品の発送、入選名簿や入選紙芝居文の入力、報告書作成、紙芝居や禁煙グッズの発送、電話の応対など、決して単純ではない多くの仕事があります。ボランティアの協力なしには、私たちの事業は進みません。
 作業は十時から四時まで、当方の必要とする日で都合のつく日に来ていただき、交通費と昼食支給で、短期的に、あるいは長い人で数年も手伝っていただいています。社会的意義と反響もあって、無理なお願いも聞いていただき感謝していますが、少し大げさな言い方ですが、ボランティアで支えられるこれからの社会のあり方が実感されます。
 これら事務作業の場所は、初めは本協議会の構成機関の好意で間借りで行っていましたが、事業が全国規模になり、紙芝居の制作など、拡大するにつれ、間借り先に迷惑をかけ、ボランティアの人にも無理をかけるようになったために、一九九六年三月に小さな事務所を設置し移転しました。
 
9. 協議会の運営とNPO法人設立
 
 事業資金としては、種々の寄附・助成金の他、維持会費、禁煙グッズやカレンダーの販売収益などをあてています。これまで、生命保険協会、日本財団、大阪コミュニティ財団、大阪21世紀協会などの助成の他、郵政事業庁お年玉寄附金、福祉医療機構の子育て支援基金の助成で、啓発事業を継続してきました。
 「子どもに無煙環境を」の改善には、まだまだ十年以上は必要と思われますが、その事業を継続していくためには、財政基盤を固めることが欠かせません。
 非営利の公益活動に取り組んでいるのに常に財源が不足し、申請しようにも、本会が取り組んでいるテーマに対する非法人を対象とした助成制度がほとんどないため、助成の申請先が非常に限定され、この十六年綱渡りの運営でした。そのため、法人取得は長年の念願でした。
 幸い一九九八年十二月に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行されました。この法律の制定過程では、私たちもシーズや大阪NPOセンターなどに協力して成立に努力しました。そして、施行されるにあたり法人の設立総会を開催し、施行日の十二月一日に、大阪府に認証申請をしました(設立趣旨書を参照)。法人設立の理由は、社会的信用性の確保、言い替えれば「助成が得やすくなる可能性がある」ためです。
 子ども達の周りにタバコの煙のない無煙環境を広げるための啓発ポスターの制作・送付など、年間予算規模は約一千万円前後で、自己資金は四分の一くらいですが、寄附や助成金なしには事業は不可能です。事業を開始して十六年目で、当初は赤字を出しながらも、徐々に寄附や助成が得られこれまで継続することができました。しかし同じ機関からそう長くは継続助成いただくのは無理ですし、さまざまの機関から助成をいただくためには、法人化は欠かせません。そのような経過で一九九九年四月に新たなNPO法人として発足しました。
 わが国の今後のより良い社会づくりのためには、民間のボランティア活動が不可欠で、それらは非営利団体であるだけに財政的援助の社会的仕組みの整備を必要とします。法人設立に伴い、助成制度や基金がもっと拡充されるよう国や自治体に働きかけ、また税制優遇制度について関係機関と力を合わせ努力したいと考えています。

 
10. タバコで健康を害されない社会を
 
  日本で、タバコの害をなくす社会的動きが始まって、二十数年が経過しました。普通列車や新幹線の列車内が喫煙自由だった当時があったとは信じられないことです。新幹線の禁煙車両を求めた嫌煙権訴訟は、東京地裁で敗訴はしましたが、実質勝訴的に社会的動きがそれに先行し、今、新幹線は七割が禁煙車となっています。一九九九年には飛行機も大半が全面禁煙となりました。二〇〇三年五月には、受動喫煙の防止を義務づけた「健康増進法」が施行され、学校や公共の場の禁煙も急速に広がりつつあります。
 でも、非喫煙者の健康が守られる時代になったとは、まだいえません。今も子ども達の多くが、タバコの煙を吸わされています。家庭や、レストラン、プラットホーム、歩きタバコなど…。まだまだ多くの場所で子どもも大人も、健康を害するタバコの煙を吸わされています。
 成人男性の半数近くが喫煙者である現実が、改善を難しくしています。国の財政(お金)を握る財務省が「たばこ事業法」を所管し、タバコ産業を保護し、タバコからの税収を減らすまいとし、厚生労働省などのタバコの健康対策に必ずしも協力的でないことも、改善を難しくしています。喫煙者のニコチン依存だけでなく、国もまだまだニコチン依存から抜け出せずにいるのです。
 しかし「健康増進法」の受動喫煙の防止、自治体の歩きタバコ禁止条例の制定の広がり、タバコ規制国際枠組み条約の批准と発効、世界銀行や国際機関のタバコ対策などの様々の動きのなかで、日本でも、禁煙場所を増やす民間の自主的な取り組み、各地の学校教育機関、保健医学機関、市民運動団体などの努力などが積み重なり、国の施策を動かし、日本でも対策が少しずつ進んでいきつつあります。今の子ども達が日本社会を支えるようになる近未来には、タバコ問題はきっと改善され、タバコで多くの人が苦しんだ社会は、「今は昔」の物語になることを願っています。