「未成年者喫煙禁止法」はなぜ制定されたか
−未成年の健康を守るため− 
タバコの広告宣伝も、健康警告表示も、財務省の所管
子ども、未成年へのタバコの害 WHO(世界保健機関)が
タバコ規制の国際条約を全会一致で採択
子どもや未成年がタバコを買えない社会を 世界銀行もタバコ対策を勧告
タバコの本体はニコチン、吸わないで
 −世界禁煙デーのテーマ−
健康日本21計画で喫煙率を十年で半減
タバコ対策が日本で遅れているわけ 10 健康増進法が成立し,受動喫煙の防止が努力義務に
1.「未成年者喫煙禁止法」はなぜ制定されたか
    −未成年の健康を守るため− 


未成年者喫煙禁止法」(以下禁止法と略)が明治三十三年(一九〇〇年)に制定されて、百年以上が経過しました。
 古い話ですが、明治の中頃に、景品の一等賞品として自転車が当たるというくじ付きタバコが販売され、小学生までがタバコを買って吸うようになったという逸話が、この法律制定のきっかけとなっています。
 一八九九年に、帝国議会衆議院で、根本 正議員ほか四名が「幼者喫煙禁止法」を提案しました。「近年、タバコを吸う者が増えている。このような神経をまひさせ、知覚をにぶくさせるものを小学生がたしなむのは良くない。喫煙者は体位が劣り、このままでは立派な軍人になれないではないか」というのが、その趣旨でした。
 政府は当初、税収入が減るという理由で、この法律の制定には消極的でしたが、未成年者の体力が低下し、強い兵隊が得られなくなっては困るということで、制定に踏みきりました。
 その後、第二次世界大戦後、この禁止法は、当初の強兵の名目から離れたものになりましたが、結果的に明日の日本を背負う未成年者の健康をタバコの害から守る防波堤となり、日本人の健康づくりに大きな役割を果たしてきました。日本の長寿社会の一因は、この「未成年者喫煙禁止法」も寄与していると指摘され、世界に誇れる法律といわれる理由です。
 しかし日露戦争の時(一九〇四年)に、軍事費を調達する一手段として、タバコの製造販売も国営事業となり(一八九八年に葉タバコが国営となっていた)、タバコは国家財政の十%を占める税収源として、吸うことが奨励され、大半の成人男子が吸うのが当たり前という世が戦後長くまで続きました。
 

2.子ども、未成年へのタバコの害


  世界各国の未成年(二十歳未満)の喫煙禁止は、日本と韓国のみで、多くの国で十八歳、あるいは十六歳未満の喫煙が禁止されています。タバコの害は特に成長盛りの身体には悪く、未成年で吸い始めるほどニコチン依存になりやすいのです。またタバコの本体はニコチンで、その害や依存性の強い商品であるとの理解が、未成年ではまだ欠けています。ヘビースモーカーとなってやめられなくなったり、後になって吸わなければ良かったと思っても、時すでに遅しといえます。このような理由で、未成年の喫煙禁止の年齢を引き上げる国際的な動きがあるのです。
 タバコは、がんや心臓病、呼吸器病にかかりやすくなるほか、老化を早め、働き盛りの人の早死や、歯周病(歯が抜けやすいなどの病気)、そして喫煙する母親の赤ちゃんの低体重児出産や流産、死産など、健康面の害は良く知られています。吸い始めの年齢が早ければ早いほど、害が大きく、成人後の健康リスクが高くなることも、未成年の喫煙の害という観点から大事なことです。
 また、自分自身の健康だけでなく、家族や周りの人々にまで悪影響を及ぼします。子どものぜん息、気管支炎、肺炎、中耳炎、風邪ひきやノド・鼻の病気、赤ちゃんの突然死などのリスクを高めます。さらに、タバコ代の経済的負担や不始末による火事の損害などもあげられます。このようにタバコの害にははかり知れないものがあるのです。
 現在、成人男子の喫煙率は四十九%、女子は十四%と報告されていますが、国立公衆衛生院の調査では、喫煙経験者は、中学一年男子で三十%、女子で十七%もあり、毎日喫煙者率は、高校三年男子で二十五%、女子で七%に達すると報告されています。
 このように、未成年の喫煙が、年齢とともに急増し、禁止法は半ばあってないような状態で、健康への悪影響が深く憂慮されているのが現状です。これらのことを考えるとき、未成年の喫煙は、わが国の将来にも関わることです。
 

3.子どもや未成年がタバコを買えない社会を
 
 
せっかく良い法律がありながら、守られていないのは、自動販売機をはじめ、コンビニ等で未成年者がタバコを簡単に入手できる社会環境に原因があります。前記の調査でも、高校生(三年男子)は、タバコを自販機(七十四%)、コンビニ(四十%)、タバコ店(二十六%)で入手していると報告されていて、自販機で購入するのが最も多いのです。
 禁止法の第五条には「満二十年に至らざる者に其の自用に供するものなることを知りて煙草又は器具を販売したる者は五十万円以下の罰金に処す」と明確に規定されています。
 禁止法というものがありながら、あたかもジュースを買う感覚で、未成年者が自販機で自由にタバコを入手している現実は、法的に許されるものではありません。法律の趣旨からいえば、未成年者が自由に買うことのできるタバコ自販機は撤廃されてしかるべきです。
 このような現状に対する社会的批判を受けて、禁止法第四条に「販売する者は…年齢の確認其の他の必要なる措置を講ずる」との内容が追加されました。また「たばこ事業法」で、未成年が買える場所での自動販売機の設置は認められない、と定められていますが、未成年者がタバコを自由に入手できる自販機は六十万台を超える勢いで増え続けています。
 この自販機の制限とならんで、タバコ税を引き上げ、価格を上げることも、未成年の喫煙防止にはとても重要です。禁止法制定百年余もたっているのですから、未成年者がタバコを入手できないよう、「未成年者がタバコを買えない社会」を作ることが、今こそ必要で、次代を担う子ども達の健康を守るためには欠かせないことです。
 それと、もう一つ大切なことは、この禁止法は警察庁が担当していますが、取り締まりという面からではなく、法律制定の原点にたち返って、未成年者の健康面からの見直しが必要です。タバコは未成年から吸い始めれば、直ぐに依存になって、やめるのが難しくなります。吸い始めなければ良かった、と後で思っても、その時にはもうやめにくくなり、健康を害しながらも、吸い続ける場合が多いのです。そのためにこそ「未成年者喫煙禁止法」で禁止されているのですから、吸うことだけでなく、社会的にも吸えないよう、総合的な対策が大切です。未成年者が買うことのできるタバコ自販機の禁止、未成年者も対象とした雑誌やイベントでのタバコ広告の禁止、未成年のタバコの害の警告表示など、健康面からの「未成年者喫煙禁止法」の見直しと強化が欠かせません。
 
4.タバコの本体はニコチン、吸わないで
    
−世界禁煙デーのテーマ−
 
 これは西暦二〇〇〇年の世界禁煙デー(WHO主催、第十三回目、五月三十一日)のテーマ「タバコで死ぬぞ だまされるな!」のなかで述べられていることです。
 WHO(世界保健機関)は一九八八年から、毎年テーマを決めて、タバコのない世界をめざして活動しています。タバコ産業の巧みな宣伝で、青少年や若い女性がタバコを吸い始め、一度吸い始めるとやめることが難しいため、WHOは二〇〇〇年のテーマをこのように決めました。

 WHOのメッセージには次のようなことが書かれています。
 「今年のタバコによる死者は全世界で四百万人。この数字は二〇二〇年年代から二〇三〇年代始めには、年間一千万人にものぼります。タバコ産業は、タバコで亡くなった消費者の代わりとして、毎日一万一千人の新たな喫煙者を必要としています。 決められた用法に従って使うと死んでしまう商品は、タバコだけです。タバコには強い依存性があり、現在の喫煙者の三分の二は十代で喫煙を始めています。
 タバコは、単に葉っぱを紙で巻いたものではないのです。それは包装紙に過ぎません。真の製品はニコチンなのです。ニコチンを服用するための紙包みがタバコというわけです。あの煙がニコチンを運ぶ乗物というわけです。死ぬまでやめられないように作られている商品なのです。タバコ会社は人気タレントやスポーツ選手を宣伝に起用して、喫煙がカッコよく、楽しく、健康的で、オシャレで、リッチだというイメージをばらまいています。このイメージはありとあらゆるメディアで流されています。映画、雑誌、そしてマンガの登場人物まで。」(以上WHOの世界禁煙デーのメッセージより)
 子どもたちも、若者も、こんなイメージに乗せられないことです。乗せられたつけは、もしかすると一生、あなたと、あなたの家族、そして周りの人にも及ぶのです。

 また二〇〇一年の世界禁煙デーのテーマは「他人の煙が命をけずる:きれいな空気を吸わせて!」で、以下のように述べられています。「非喫煙者が吸わされるタバコの煙は、肺がん、心臓病など、命を脅かす病気を引き起こすおそれがあり、子どもにとってはさらに深刻な悪影響があります。目やのどの痛み、咳、頭痛はもちろん、呼吸器疾患、中耳炎、ぜん息、突然死症候群などが、家庭内などのタバコ煙によって引き起こされます。証拠は明白だ。行動を起こそう!」
 

5.タバコ対策が日本で遅れているわけ
   −財務省がタバコ行政を所管しているから−


  国の政策は、財務省はお金の出し入れ、厚生労働省は健康や職場問題、文部科学省は教育、警察庁は法律違反の取り締まりなど、国の省や庁が各々の範囲を決めて行っています(所管といいます)。
 タバコは、税収源であったため、明治時代に、国が生産、製造、販売を独占的に行ってきました。第二次世界大戦後も、大蔵省(財務省と名前が変わりました)の日本専売公社が引き継ぎ、一九八五年にやっと民営化され、日本たばこ産業株式会社に衣更えしました。しかし株式の約三分の二はいまだに政府が持っています。この時にタバコ産業の監督と保護育成のために「たばこ事業法」が作られました。
  財務省は、国のお金の出し入れを所管しているために、厚生労働省などの予算配分を決める立場にあります。また税を決め、集める役所です。タバコに課せられる税金は、タバコの値段のおよそ六割にものぼります。この税金が、国と都道府県・市町村に入ります。総額でおよそ二兆二千億円になり、税収の約二.二%を占めています。
 この三つの権限(予算、税、タバコ事業)を財務省が独占しているために、財務省は、タバコ関連産業を保護育成し、せっせと税収をあげようとします。健康問題は所管外という理由で、タバコのために国民の健康が害されても知らぬ顔です。厚生労働省がタバコの健康対策のために予算要求をしても、はねつけてきた例は数知れません。例えば、タバコ対策のために喫煙対策を行う事業所に税の控除(免除)を設けようとしましたが、財務省は認めませんでした。タバコの健康教育の専門家を養成する予算要求も認めませんでした。
 日本のタバコは、諸外国に比べて安いし、他の物価に比べても安いため、喫煙者、特に未成年の喫煙を減らすためには、タバコ税をあげることが最も有効です。十%値上げすれば、タバコ消費量は四%減るといわれています。しかしタバコ税をあげることに財務省は強く反対します。消費が減っても、税をあげるため、税収そのものは変わらないのに。
 「たばこ事業法」の第一条には、「たばこ産業の健全な発展をはかり、財政収入の安定的確保をはかる」という文が書き込まれています。タバコによる収入のために、国民の健康は置いてきぼりになっているのが悲しい現状なのです。
 

6.タバコの広告宣伝も、健康警告表示も、財務省の所管
    −厚生労働省が担当すべきなのに−

 
 「たばこ事業法」では、財政制度等審議会たばこ事業等分科会が設置され、財務大臣に対し、タバコ問題について意見を述べることができます。しかし、驚いたことに、この審議会は、かつてはタバコの健康影響を否定していました。タバコの害は医学的にそのすべては明らかにはされていないと言っていて、タバコ関連産業を所管する財務省も同じ考えでした。しかし国際的なタバコ規制の動きもあって、二〇〇二年になってやっとタバコの害を認めました。
 現在タバコの広告宣伝は、テレビやラジオではされなくなりましたが、これはタバコ業界の自主的な申し合わせです。輸入タバコの関税が自由化された一九八七年以後は、特にテレビで派手なタバコ宣伝が繰り広げられ、社会問題になりました。電波でのタバコの宣伝はほとんどの国で禁じられていて、国際的非難をあびました。この社会的批判のため、タバコ業界は、一九九八年四月から電波での広告宣伝を中止しました。でも屋外の広告塔や電車のつり広告、青少年の読む雑誌などにも派手な広告がされ、青少年の喫煙を誘う環境が改善されているとはいえません。しかし社会的批判のなかで、これらの規制を強める動きにあります。
 タバコの外箱の健康警告表示は、日本では「健康を損なうおそれがありますので吸いすぎに注意しましょう」や「喫煙マナーを守りましょう」となっていて、意味不明な表現でした。諸外国では「タバコはがんの原因です」、「タバコには依存性があります」、「妊婦のタバコは低体重児出産の危険を高めます」などの表現が義務づけられ、日本のタバコも、輸出先ではこのような表示が義務づけられています。
 日本でもやっと、タバコのパッケージの両面の三十%以上の面積に交代で、以下の健康警告表示が義務づけられることになりました(二〇〇五年七月から)。

 「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」
 「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」
 「喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます」
 「喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます」
 「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります」
 「たばこの煙は、あなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼします。喫煙の際には、周りの人に迷惑にならないように注意しましょう」
 「人により程度は異なりますが、ニコチンにより喫煙への依存が生じます」

 「未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません」。

 ただこれら広告宣伝や健康警告表示を定める法律(たばこ事業法)が、財務省の所管で、健康を所管する厚生労働省が所管する法律でないのはおかしいことです。この内容の法律権限は、厚生労働省が持つべきではないでしょうか。
 

7.WHO(世界保健機関)が
  タバコ規制の国際条約を全会一致で採択

 一九九九年十一月に神戸市で「たばこと健康に関するWHO神戸国際会議」が開催されました。WHOは「タバコのない世界構想」を打ち出し、二〇〇三年を目標に、タバコ規制枠組み条約を作ることが、事務局長のブルントラントさんから報告されました。日本政府も参加して協議を進めていくことになりました。
  この条約を作る理由は、タバコが原因で死亡する人が、全世界で一年で四百万人にものぼり、このままでは三十年後には一年で一千万人にもなるだろうと見積もられているためです。そしてタバコ産業が、国を越えて、各国(主に開発途上国)の、特に子どもや若い女性を標的にタバコを売り込み、タバコ消費量を増やしていこうとする動きがあるためです。タバコは吸い始めれば、やめることが難しい依存性のあるものですので、最近は「しへき(嗜癖)」といわれるようにもなりました。ニコチン依存のために吸い続けることを無理強いする薬物で、吸い始める年齢が早いほど、その依存性(しへき)は強く、健康上の害も大きなものがあることはすでに述べました。
 この害は、国が違っても同じです。国を越えて情報が行き来する現在では、地球上の全ての国に適用される条約を作り、各国がこの条約を受け入れることをめざしています。それは、健康警告表示の統一、マイルドやライトなどを銘柄名に使うことの制限、未成年が買える自販機の禁止、受動喫煙の防止、広告規制、タバコ消費の減少、値上げや税金のタバコ対策費への支出、タバコの密輸規制、タバコ対策調整機関の設立などを含む内容です。それらを、国際的に取り決め、どの国の国民も、タバコで健康を害されない生活ができるようにしようとするものです。
 この条約は、その後、政府間交渉が六回にわたって開かれ、日本、アメリカ、中国三カ国が抵抗して、初めの案よりゆるくはなりましたが、二〇〇三年五月の世界保健総会で世界各国の全会一致で採択されました。日本も署名し、国会で批准され、国際的に実行されることになっています(二〇〇六年頃までに)。
 
8.世界銀行もタバコ対策を勧告

 
 これらの動きに関連し、世界銀行は、一九九九年五月に「たばこ流行の制圧―たばこ対策と経済」というレポートを出しました。この中で、世界銀行は、

1.タバコ税を引き上げれば、税収を増やしながらも何百万人もの命を救いうる
2.タバコの広告や宣伝の禁止、健康警告表示、非喫煙者健康保護法の制定などで、喫煙を大幅に削減しうる
3.タバコ抑制政策で、永続的な雇用不安や失業は発生しない
4.政府は、多面的な対策をとるべきであり、国連機関もタバコ対策を進めるべきである
と勧告しています。
 

9.健康日本21計画で喫煙率を十年で半減

 健康な長寿社会は、子どもの時からの健康習慣の積み重ねが大切です。中でもタバコは健康を害することは医学的にも明らかにされています。もともと吸う必要が全くなく、吸わなければどうってことないものを吸うのはおかしなことですので、タバコを吸わない習慣をつけることは、病気や早死にの予防に最も効果的です。二〇〇〇年三月に発表されたわが国の「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21計画)」では、タバコ対策が重点の一つとして取り上げられました。
  わが国では、タバコによる死亡者数は年間九万五千人と試算されていて、「現在の喫煙状況を著しく改善しない限り、タバコ関連疾患とそれによる死亡を減少させることができない」というのが基本です。そのために、二〇〇一年から十年で、成人喫煙率と消費量を半減させ、喫煙率の減少を大幅に進めることなどが目標としてあげられました。この時には、タバコ業界の反対と国会議員の横やりが入って、喫煙率と消費量の半減案は削られましたが、復活署名や世論の後押しで、「喫煙率半減をスローガンに、喫煙率の減少が大幅に進むよう努める」文が盛り込まれることになりました。
 そしてこれらを実現するための方法として、「タバコの害の健康影響の知識を普及する」、「未成年者にタバコの害をを周知し入手できないようにし、未成年の喫煙をなくす」、「受動喫煙の防止のために公共の場や職場の原則禁煙を目指し、家庭における受動喫煙防止の普及啓発を図る」、「薬物依存の観点から禁煙支援プログラムの開発と普及をはかる」などが述べられました。
 
10.健康増進法が成立し,受動喫煙の防止が努力義務に

 
 タバコの煙がなければ、この世はもっと住みやすく、楽しいのに…。イヤなにおいや健康を害されずに、生き生きと過ごすことができるのに…。子どもも大人も、タバコを吸わない人の七〜八割はそう願っています。
 しかしまだ多くの場所にタバコの煙があります。二〇〇三年四月まで、わが国には、子どもや妊婦を含め、非喫煙者の健康をタバコから守る法律はありませんでした。ホールや映画館、百貨店売場、ドーム球場、新幹線や電車内の禁煙は、消防法や鉄道営業法など、火災防止の観点からの規定でした。本来健康とは関係のないこれらの法律のおかげで、非喫煙者の健康は、長年何とか少し守られてきました。健康は、生きるために、また社会のために、何よりも大切でかけがいのないものなのに、何か間違っていました。
 子どもの前では吸わない、非喫煙者のいる場所では吸わない、歩きタバコはしないなど、法律という社会的ルールがなくては、効果は望めません。公共的施設、交通機関、教育施設、スポーツ施設、飲食店、事業所、歩道などでは、非喫煙者がタバコの煙を吸わされないよう、建物や敷地内・歩道の喫煙を禁ずるとともに、必要により屋外の迷惑にならない場所に喫煙指定場所を設けるようにする、そのような内容の法律制定による社会的ルールが必要とされていました。
 私たちは、健康日本21計画に前後して、喫煙率を引き下げ、非喫煙者の健康を受動喫煙から守るためには「非喫煙者健康保護法」の法律制定が不可欠と考え、法律制定を求める二十万人余りの署名を二〇〇二年四月に政府に提出しました。

 国では健康日本21計画を具体化するための法律として「健康増進法」が二〇〇二年七月に成立し、二〇〇三年五月一日に施行されましたが、タバコの半減スローガンに関連して、第二十五条(受動喫煙の防止)で、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と定められ、交通機関を含め、多数の人が利用する施設は禁煙の努力義務が課せられ、今学校や公共の場の全面禁煙が急速に広がりつつあります。
 ただ、多数の人が歩行する歩道は,法で定める「多数の者が利用する施設」に該当しないようなので、歩きタバコによる受動喫煙を防止するために,歩道を含めた内容の法改正が必要とされています。またこの法は努力義務なので、職場やレストランなど禁煙が進んでいない所も少なくなく、努力ではなく義務づけの法改正も必要とされています。さらに、子どもを受動喫煙から守るために、法の趣旨を踏まえ、家庭の受動喫煙防止の周知と啓発が必要とされます。