JR西日本禁煙・分煙訴訟一審判決について(声明)
JR西日本禁煙・分煙訴訟弁護団 2005年1月3日
1 大阪地方裁判所は、2004年12月22日、JR西日本の車掌と駅員が乗務員
詰所や事務室等の禁煙措置と受動喫煙による損害賠償を求めた訴えにつ
いて、請求棄却の判決を言い渡した。(判決文 pdf4M)
これは、受動喫煙が様々な自覚症状による苦痛や心拍増加等の生理学
的反応を引き起こすとともに、肺がんや虚血性心疾患、呼吸機能の低下な
どのリスクを増加させることは否定できないとしながら、少量の環境たばこ
煙に暴露されただけで生命身体に現実的な危険が生じるとまでは認めが
たいなどとして、原告らの請求を認めなかったものであった。
この判決は受動喫煙による健康被害、とりわけ慢性疾患のリスクを増加
させるなどの健康への影響を軽視したもので、その理由付けおよび結論に
おいてきわめて不当なものといわざるをえない。2 しかし、一方、この判決はいくつかの点で意義を有する。
その一つは、受動喫煙は様々な自覚症状による苦痛と生理学的反応の
急性影響を引き起こすとともに、各種のがんや虚血性心疾患、呼吸機能の
低下や成人の気管支喘息の悪化などのリスクを増加させるという慢性影響
をもたらすことを認定したことである。被告JR西日本は受動喫煙による健康
への影響は証明されていないと主張して、その旨の論文や報告などを大量
に提出したが、判決はこれらの各種報告等は「最新の知見によるものとは
認め難い」として排斥した。これは、受動喫煙による健康被害を否定する研
究がたばこ産業の資金提供によるものであって客観性と正当性を欠くもので
あるとのわれわれの主張を認めたものであり、もはや受動喫煙による健康へ
の影響の存在は否定のしようがないことを示したものである。
2つ目は、使用者が禁煙措置をとらないことが違法であるかどうかの判断に
おいて、現実に健康が侵害されたか否かを重視し、従来のような喫煙に対す
る社会的寛容を前提とした受忍限度論によらなかった点である。これまでの
判決では、受動喫煙によって被害の発生が認められたとしても、一定の限度
で社会生活上受忍すべきであるとして、その限度を超えない場合には差止請
求および損害賠償請求はできないとされてきた。しかし、本判決は必ずしもそ
のような考え方をとらず、受動喫煙を強いられ、かつ、それによって生命身体に
現実的な危険が生じたことが立証されるならば、差止請求が認められる可能性
を示した。これは、受動喫煙の場合には、健康に対立するような喫煙の利益は
存在しないとのわれわれの主張を基本的には採用したものということができる。
3つ目は、本訴提訴後の2002年7月までは被告JR西日本の喫煙対策が適切で
なかったことを認めた点である。判決は現時点では一部の乗務員詰所について
全面禁煙の措置をとっていることなどを理由に、禁煙措置を行うべき義務と損害
賠償義務を否定しているが、これは逆にいえば、一定の喫煙対策をとらなければ
違法になることを示すものである。3 以上のとおり、本判決は、受動喫煙によって生命身体に現実的な危険が生じた
との証明がないとして結論において差し止めおよび損害賠償の請求を退けた点で
は不当であるが、上記の点で意義を有する。これは受動喫煙による健康被害と
その対策の必要性が社会的合意になりつつあるという状況を背景になされたもの
であることは疑いがない。
原告らは、上記のとおり一定の意義のある判決を引き出し、また、提訴によって
JR西日本が一部乗務員詰所を禁煙にするなどしたため、提訴前よりも受動喫煙
による被害は軽減されていることなどから、控訴はしないこととした。今後は、訴訟
外で受動喫煙による健康被害を防止する対策を求めていくこととなるが、JR西日本
は判決に示された受動喫煙対策の必要性を真摯に受け止め、職場における受動
喫煙防止のためにさらに抜本的な対策を講じていくことを強く求める。2004.12.22 判決後の判決文内容の説明集会(大阪弁護士会館)
前3人が弁護士,右横前2人が原告