公務職場における喫煙対策に関する指針作成検討会報告はじめに
喫煙が喫煙者の健康のみならず、非喫煙者の健康等に与える影響についての指摘がなされる一方、公共の場所における分煙が徐じょに実施に移され、また、民間企業等を対象とした喫煙対策に関するガイドラインが策定されるなど喫煙を巡る状況は大きく変化してきている。
他方、職員の喫煙に対する意識調査では、ほとんどの職員が喫煙は周囲の人々の健康に悪影響を及ぼす、喫煙は周囲の人々に迷惑であるとの認識を有するとともに、多くの職員が喫煙対策として事務室内を禁煙とし、別の場所に喫煙場所を設けるといういわゆる空間分煙を適当と考えている。また、喫煙者のうち機会があれば禁煙したいと考えている者が半数近くある。
本検討会では、以上の喫煙を巡る状況、職員の意識を考慮し、公務職場においても具体的な喫煙対策及び禁煙を支援するための対策を講じる事が必要と考え、職員の健康の保持増進、快適な職場環境づくりの観点から喫煙対策を講じるための指針の作成について、平成8年6月以降6回の会合を開催し、検討を重ね、この度別添のとおり報告するものである。
なお、本報告は、喫煙対策を実効性のあるものとするため、医学、健康管理等の学識経験者、官公庁の健康管理責任者等の委員が、幅広く議論を行い、これらの意見集約の下にその検討結果をとりまとめたものである。関係各機関においては、この報告を契機に今後積極的に喫煙対策を推進していただくことを切に希望するものである。
平成9年3月 公務職場における喫煙対策に関する指針作成検討会
I 喫煙を巡る状況
1 喫煙が健康等に及ぼす影響
喫煙が喫煙者本人の健康に悪影響を及ぼすことのみならず、非喫煙者が自分の意志とは無関係にたばこの煙にさらされそれを吸引するという受動喫煙が非喫煙者の健康に悪影響を及ぼすこと、受動喫煙が非喫煙者がに不快感等心理面の影響を与えていることが指摘されている。
2 喫煙対策の状況
喫煙対策に関しては、厚生省が、平成7年3月に「たばこ行動計画」をまとめ、その中で職場での受動喫煙の影響の排除、減少対策について「職場における分煙については特定の人々が社会的な必要から日常的にかつ選択の余地なく相当程度の時間を過ごす場所であることから職場の状況を踏まえつつ非喫煙者に十分配慮した対策を積極的に推進すべきである」、また、禁煙希望者等に対する禁煙サポ−ト・喫煙継続者に対する節度ある喫煙を促す節煙対策について「本人の健康影響に関する限り喫煙をするかしないかは基本的には本人の責任において判断されるものであるが、喫煙の自己の健康への影響等を十分認識した上で判断が行えるよう対策を講じていく必要がある」との指摘をそれぞれ行っている。なお、労動省においては、民間企業等を対象にした「職場における喫煙対策のためのガイドライン」が平成8年2月に策定されている。
3 職員の喫煙についての意識
「職員の喫煙についての意識調査」(平成8年6月人事院調査)によれば、「喫煙は周囲の人々に迷惑である」と回答した者は95.6%(非喫煙者96.0%、喫煙者94.8%)、「喫煙が周囲の人々の健康に悪影響を及ぼす」と回答した者は88.3%(非喫煙者94.1%、喫煙者79.8%)となっている。また、喫煙者の半数近くが「機会があれば禁煙したい」と回答している。他方、「喫煙対策として最も適当と考える措置」として、53.4%(非喫煙者60.9%、喫煙者42.6%)の者が「事務室は禁煙とし、別に喫煙所(コ−ナ−)を設ける」と回答している。
4 官署における喫煙対策実施状況
「官署における喫煙対策実施状況調査」(平成8年6月人事院調査)によれば、何らかの喫煙対策を講じている官署の割合は、58.1%となっている。なお、講じられている対策としては「空気清浄機の設置」29.1%が最も多く、次いで「会議中禁煙」23.7%、「禁煙タイムの実施」14.8%となっており、「事務室内一切禁煙」3.8%にとどまっている。
5 民間における喫煙対策実施状況
「民間企業の勤務条件制度等調査」(平成8年10月人事院調査)によれば、何らかの喫煙対策を講じている企業の割合は、69.1%となっている。なお、講じられている対策としては事務室以外の場所に喫煙のために特別に区切った場所として「喫煙所を設置」が47.7%と最も多く、次いで「事務室内一切禁煙」33.3%、「会議中禁煙」33.6%、「空気清浄機の設置」27.9%となっている。
U 喫煙対策の必要性以上の喫煙が職員の健康等に悪影響を及ぼすとの指摘、職員の喫煙についての意識調査の結果等を考慮すれば、受動喫煙の影響を排除し、減少させるための喫煙対策として、事務室内を禁煙とし、別に禁煙場所を設置するといういわゆる空間分煙を原則とした喫煙対策を講じるとともに、禁煙希望者等に対する支援を行うことが必要である。
V 公務職場における喫煙対策に関する指針1 目的
この指針は、各省各庁の長が、受動喫煙の影響を排除するために、公務職場において講ずべき喫煙対策及び禁煙を必要とする者等に対し禁煙を支援するために講ずべき対策等を示すことにより、職員の健康の保持増進、快適な職場環境の形成の促進を図ることを目的とする。
各省各庁の長は、この指針に沿いつつ、職場の状況に即して喫煙対策を積極的に推進することとする。2 公務職場において講じるべき喫煙対策
(1)基本的考え方
ア 非喫煙者に対する受動喫煙の影響を排除し減少させるため、非喫煙者と喫煙者の間で合意が得られやすい事務室内は禁煙とし、別に喫煙場所を設けるといういわゆる空間分煙を原則として、具体的対策を講じることが適当である。
イ 喫煙対策が実効性のあるものとなるためには、非喫煙者と喫煙者が、相互の立場を理解すること、すなわち非喫煙者は喫煙対策の推進には喫煙者の協力が不可欠であることを十分に認識し、喫煙者は受動喫煙が非喫煙者に対して健康への影響や不快感を与えることを十分認識することが重要である。
ウ 窓口、相談室、ロビ−等については厚生省の「公共の場所における分煙のあり方」に沿った対策を講じることが適当である。(2)具体的対策
ア 事務室、厚生施設(職員食堂等)、会議室は禁煙とし、別に喫煙室、喫煙コ−ナ−等の喫煙場所を設ける。喫煙場所には、必要に応じて、たばこの煙が他に拡散するのを防ぐための設備、たばこの煙を除去する為の設備、たばこの煙を屋外に排出するための設備、空気清浄機、喫煙場所を他の区域と仕切るための設備等喫煙対策に有効な設備を整える。
イ 上記喫煙場所が配置等の工夫によっても確保できない場合は、当面の措置として以下の対策を講じる。なお、妊婦、呼吸器・循環器疾患等を持つ者がいる事務室は特に配慮し、これらの者への受動喫煙の影響を排除するための対策を講じる。
@場所や配置等を工夫することにより事務室内、厚生施設内に喫煙コ−ナ−を確保するとともに、喫煙コ−ナ−には、必要に応じて、たばこの煙が室内等に拡散するのを防ぐための設備、たばこの煙を除去するための設備、たばこの煙を屋外に排出するための設備、空気清浄機、喫煙コ−ナ−を他の区域と仕切るための設備等喫煙対策に有効な設備を整えるよう努める。
A食堂については、食事時間帯を禁煙とする。
B会議中は禁煙とする。
C事務室内、厚生施設内に喫煙コ−ナ−を確保できない場合には、空間分煙へ向けての過渡的、かつ、やむを得ない措置として喫煙(禁煙)タイムを設定する。喫煙時間数及び時間帯は、各職場の状況を考慮して設定するが、時間数については、計画的に逐次短縮する。
ウ 庁舎の新築、増改築、移転等を契機として、喫煙場所を確保し、事務室、厚生施設、会議室を禁煙とする対策を講じるう努める。その際、新しい空調システム、喫煙対策に有効な新しい設備の活用も考慮することが望ましい。(3)喫煙対策の推進
ア 組織的な取り組み
喫煙対策を実効性のあるものとするためには、職員の自主的、積極的な参加を得て組織的に取り組むことが必要である。
イ 推進の責任者
喫煙対策の推進に当たっては、健康管理者が責任者となり、中心的な役割を果たすこととする。
ウ 推進のための委員会の設置等
喫煙対策の決定、推進に当たっては、官署毎に健康管理者、非喫煙者、喫煙者、健康管理医等で構成する「喫煙対策推進委員会(仮称)」の設置等を行うことが望ましい。「委員会」では、喫煙対策の内容、具体的な進め方等を検討する。
エ 段階的実施
職場の状況を踏まえ、段階的、計画的、喫煙対策の充実を図る。
オ 対策の評価
喫煙対策の達成状況について定期的に評価する。評価に際しては、喫煙対策についての職員の意識調査を行うなど職員の意識が反映されるよう適宜工夫することが望ましい。
カ 啓発活動
喫煙マナ−を遵守をさせるとともに、喫煙対策の内容を周知し、その意義についての啓発活動をおこなう。
キ 上記「具体的対策」に示した処置以上の喫煙対策を既に実施している場合については引き続きそれを推進する。3 禁煙サポ−ト対策等
(1)基本的考え方
喫煙が自己の健康へ与える影響を再認識した上で、喫煙の継続について自主的に判断できるよう必要な知識、情報を提供するとともに、禁煙の必要な者や禁煙を希望する者に対して禁煙を支援するための具体的対策を講じることが適当である。(2)具体的対策
W 人事院の役割
ア 喫煙と健康に関する研修、講習会を開催する。
イ 職場における健康診断、健康教育の機会を捉え喫煙の影響について情報提供を行う。
ウ 禁煙サポ−トの実施につとめる。
健康診断の結果必要な者に対して、医師、保健婦、看護婦等によるカウンセリングを実施するとともに、禁煙プログラムの紹介、禁煙実践コ−スの設定と必要な禁煙指導を組織的、継続的に実施するとともに、禁煙支援者を養成するなどの支援、援助に努める。
エ 禁煙希望者に対しても同様の禁煙サポ−トを行うことが望ましい。
人事院は、各省各庁が講じることとなる喫煙対策及び禁煙サポ−ト対策等について、必要な調査、支援、指導、調整等を行うものとする。
公務職場における喫煙対策に関する指針作成検討委員会委員名簿
大島 明 大阪府立成人病センタ−調査部長
川本 正一郎 建設大臣官房地方厚生課長
菊池 輝雄 東京都衛生局健康推進部健康推進課長
小峰 信 法務大臣官房営繕課長
榊 孝悌 財団法人日本環境整備教育センタ−理事長
◎島尾 忠男 財団法人結核予防会会長
中川 純男 農林水産大臣官房厚生課長(注)五十音順、敬称略、◎は座長