健康日本21への意見
(たばこ業界の意見要旨からの抜粋に対する私の意見)

                                         (許可を得て転載)


あおもり協立病院 内科、禁煙外来
石川はじめ


 健康日本21が、国民の命を奪い健康をむしばんでいるタバコにきちんとメスを入
れ、数値目標を掲げて下さったことには、心から拍手を送りたいです。私たち臨床医
から見ても、病気の発生及び、増悪の原因として、たばこほど重大な害を及ぼしてい
るものはありません。タバコを撲滅するまで、命と健康に貢献する医師として、力の
限り取り組みたいです。たばこ産業からの健康日本21への攻撃が懸念されます。私
のもとにも、タバコ業界の新聞が届きますが、このところ、健康日本21への抗議で
紙面が埋め尽くされています。その中で述べられているタバコ産業側の言い分への反
論を通して、意見を述べさせていただきます。以下はたばこ塩産業の葉たばこ99年
11月5日号(2)たばこ業界の意見要旨からの抜粋に対する私の意見です。

(1)「タバコは大人の嗜好品で、適度に吸うか吸わないかは健康への影響などを十
分認識の上で大人個々人が判断すべきもの。」

タバコは医学的には嗜好品を越えた中毒性の薬物です。健康への悪影響は莫大で、
1本からガンをはじめとする様々な疾患の危険を倍増させますから、適度な喫煙などは
あり得ません。世界的に医学の常識となっているたばこの健康への悪影響についての
正確な情報伝達が、日本では十分されていないばかりか、知っていても、簡単にはや
められないニコチン依存症の存在をたばこ産業は全く無視しています。

(2)「国が数値目標を示して、誘導するのはきわめて重大な問題だ。」

厚生省が国民の健康を脅かす重大な毒物であるたばこの管理に責任を持つのは当然で
す。数値目標を定めて、国民への被害を軽減するために努力することこそ、厚生省の
役割だと思います。

(3)「国の施策として実施されたら、タバコ農家、販売店、メーカー、などタバコ
関連産業全体に与える影響は計り知れないし、これらに携わる人、家族の生存権、営
業権に直結する。」

すでに産業があるから、国民の健康が犠牲にされようとどうしようとその産業を守る
というのは間違いです。たばこ産業の営利を優先し、国民の命と健康をないがしろに
した暴論です。2003年に制定予定のWHOのタバコ規制条約もたばこ農家の転作
支援をあげており、国民の命と健康のために推進するたばこ規制が、まじめに働く
人々の生活の糧を奪ってしまわぬような包括的な政策を強調しています。タバコ農家
と禁煙運動は手を結べると思います。しかし、たばこ産業がタバコの害を知りつつ、
それを隠してタバコを売り続けた罪は、アメリカなどで訴訟の結果支払うことになっ
た賠償金の額では足りないほどの大罪だと思います。

(4)「タバコはタバコ事業法によって認められている合法商品である。たばこの販
売数を半減させようとするのは現行法体系に矛盾した国の政策となり、手続き的にも
整合性がない。」

国を挙げて、世界では「殺人産業」といわれているたばこ産業の発展を促進している
たばこ事業法自体、生存権を脅かす憲法違反の悪法です。WHOのタバコ規制条約に
合わせて、たばこ事業法を撤廃し、国内法を整備する必要があります。タバコの健康
に与える悪影響の重大さが明らかになった今日、たばこ事業法を温存していること
で、日本の政府は、たばこ産業による大量殺人に加担した責任を問われても仕方ない
と思います。その間違いを正すため、数値を示して、取り組むのは当然です。他の省
庁も反たばこの姿勢をきちんと示して、国民の命と健康を守るための国内法の整備に
当たるべきだと思います。

(5)「タバコの有害性はいまだ十分解明されていない。」

タバコの有害性とその悪影響の大きさは、疑う余地のない常識です。その証拠に、海
外では、日本たばこ産業のセブンスターのパッケージにも”SMOKING KILLS”と表示
しています。

(6)「「未成年の喫煙率を50%に減少させる」とあるのは法律で禁止されている
のに疑問。」

自ら未成年をねらった販売作戦を密かに展開しながら、未成年の中にも常習喫煙者が
いる現状を無視した発言ですが、これはもちろん0%という目標にして欲しいと思い
ます。

(7)「愛煙家に負担してもらっているタバコ税が財政に寄与している。」

タバコ税が寄与する以上に、タバコによる健康被害に医療費がかかり、国は大損をし
ています。タバコ税をもっと高くして禁煙対策にあてるべきです。「交通違反の罰金
は公共事業に寄与しているから、交通違反をどんどんしましょう。」と奨励するのこ
とがばかげているのと全く同じです。

(8)「タバコを吸う人と吸わない人が共存する社会が望ましい。」

環境タバコ煙による健康被害は重大です。喫煙者と非喫煙者との共存は、「受動喫煙
による健康被害」という大きな犠牲のもとでしかありえません。タバコ会社に負けず
に、力を合わせて、健康日本21を推進して行きましょう。

                                                                                                      以上