日本肺癌学会「禁煙宣言」
 
日本肺癌学会は、第41回日本肺癌学会総会(平成12年11月2日、東京)において
  「禁煙宣言」を行った。

1. はじめに

 日本肺癌学会は、肺癌およびこれに関する領域の研究の進歩ならびに知識の普及を
はかることを目的とし、これらを通して肺癌の予防、早期診断、治療成績の向上に貢
献することである。

 本会は、呼吸器外科医・内科医、放射線科医、病理医、疫学者、基礎学者から構成
され会員数6800名を越える学会である。会員の長年の努力により肺癌の治療成績は向
上してはきたが、それでも治癒(5年生存)する症例は全体の20%程度である。肺癌が
急増している現在、治療法の進歩により肺癌の成績を向上させることも大切ではある
が、同時に予防することも重要な研究課題である。

 肺癌の死亡数は、わが国の人口動態統計によると、1998年に男女合わせて5万1千人
となり胃癌を抜いて全悪性腫瘍の中の死亡数が第1位となった。統計学的推計によると、
今後益々増加し2015年には12万人を越えるであろうと予想されている。

 わが国における肺癌増加の原因は、高齢者人口が著しく増加したこと、男性におけ
る喫煙率が依然高いことがあげられる。非喫煙者に比べて、喫煙者の肺癌リスクは、
男性で4-5倍、女性で2-3倍高いと報告されており、喫煙本数、喫煙年数が増加す
れば肺癌リスクも増加する。喫煙は最も大きい肺癌の原因であり、喫煙に起因する肺
癌は男性で70%、女性で15%と推定されている。一方、受動動喫煙も肺癌リスクに関係
し、夫が喫煙者の場合、非喫煙者の妻の肺癌リスクは1.3-1.5倍に増加すると報告され
ている。また、喫煙は肺癌以外にも食道、膵臓、口腔・中咽頭・下咽頭、喉頭、腎盂尿
管、膀胱癌のリスクを高める。

 喫煙が健康に悪影響を及ぼすことは、多くの研究報告によって明らかにされている。
癌以外に慢性気管支炎、肺気腫などの呼吸器疾患、心筋梗塞などの虚血性心疾患、脳
血栓症などの生活習慣病においても喫煙は重要な危険因子である。WHO(世界保健機関)
の推定では、世界で年間約300万人、日本でも年間約11万人の多くが喫煙が原因で死亡
していることが報告されている。

 以上述べてきたように、喫煙は、肺癌をはじめとして種々の病気の原因となるが、
また予防できる最大の単一原因でもある。タバコを吸わないこと、またタバコを吸っ
ている人でも禁煙をすることで病気の危険性が少なくなる。「禁煙」こそ健康への第
一歩である。


2.
喫煙に関する勧告

 「喫煙が肺癌リスクを大きくし、また肺癌患者の生存を不良にする十分な証拠が蓄
積されたことを踏まえて、日本肺癌学会は、医療従事者はもとより広く国民全体にタ
バコのない社会づくりを強く勧告する。」


3.
学会としての活動ならびに事業計画

 本学会は、全国の医療機関のみならず都道府県及び市町村の関係機関・関連団体と
連携し、禁煙の推進に向けて医学的ならびに社会的な活動と事業を行う。

1) タバコと健康について正しい知識を普及する。

  ・新聞、テレビ、ラジオ、広報誌、インターネットによる広報活動を行う。
  ・小冊子、パンフレット、ポスターを作成し配布する。
  ・講演会、市民公開講座などを開催する。

2) タバコ広告、販売の規制を関係省庁、行政機関に働きかけるとともに、反タバ
  コキャンペーンを実施する。

3) 関連学会、医療機関、公共施設、職場などに禁煙ポスターの掲示、パンフレッ
  トの配布を行い禁煙を推進する。

4) 子供、未成年者、妊婦、一般市民を対象にした禁煙教育を行う。

5) 禁煙を勧める医療従事者の指導要領の作成とトレーニングを行う。

6) 子供、未成年者へのタバコ販売禁止と自動販売機の禁止を関係省庁に働きかける。

7) 受動喫煙の害を排除するために職場、公共の場所に喫煙場所の設置を働きかける。

8) タバコにタイする増税を行政機関に働きかける。

9) WHOの「世界禁煙デー、531日」に併せ、一般市民を対象に学会として「禁煙
  推進のためのイベント」を実施する。

以上

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 日本肺癌学会「禁煙宣言」のセッションは、小林紘一学会長が経緯を説明した後、
国立がんセンター研究所の祖父江友孝先生が喫煙と肺がんに関する基調講演を行い
ました。

 疫学の考え方、肺腺がんの増加の原因、我が国で現在5万人の肺がん死亡が高齢人
口の増加に伴い
2015年には倍になるという推計など、問題の大きさと深刻さを分か
りやすく解説されました。

 その後、小林会長が、スライドを使って高らかに「禁煙宣言」を発表されました。
この模様は当日(11月2日19時他のNHKニュースで取り上げられる予定です。なお、
禁煙宣言は、学会の機関誌「肺癌」の次号に掲載されます。

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日本肺癌学会「禁煙宣言」に関する検討事項

学会として「禁煙宣言」を行うに至るこれまでの経緯

日本肺癌学会において、かねて懸案となっていた「禁煙宣言」に関する議題が平成11
1020日(第40回日本肺癌学会、川上義和会長)の理事会で正式に取り上げられ、当日
の評議委員会においても学会として「禁煙宣言」を行うことが承認された。「禁煙宣言」に関す
る文案の作成、学会としての活動方針、事業などについては学術委員会に一任された。

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