The Framework Convention on Tobacco Control
The FCTC is no ordinary convention -It is potentially a Public Health Movement
http://www.who.int/toh/fctc/fctcintro.htm

FCTC(タバコ対策枠組み条約)

FCTCは単なる条約ではない。人の健康のための運動という性質を持つ。

 タバコの消費が、目を見張る勢いで世界中に広がっています。これはWHOに課題をつきつけると同時に、一つの機会を与えてくれてもいます。課題とは、このようにあらゆる国・文化・社会・経済層に浸透した問題に対し、全地球的解決をはかることです。機会とは、タバコという「沈黙の疫病」(人々の健康に対する特異かつ巨大な脅威からこう呼ばれる)に対し、初の包括的な取組を世界に呼びかける機会、ということです。

 TFI(The Tobacco Free Initiative たばこのない世界構想)は、この方向で準備作業を始めています。
1999年5月24日、WHOの
方針を決定するWHA(世界保健総会)で、191の加盟国が全会一致で決議をしました。タバコ製品の規制を来世紀には実現できるよう、FCTCの採択に向けて、多角的交渉の道を開く決議です。
FCTCとは、タバコの広告宣伝・農業経営の多角化・密輸・税金と補助金などの多様な課題に取り組む新しい法的枠組みです。そして、この条約のために財政的・政治的支援を表明した国は、過去最高の50カ国にのぼります。その中には、国連安全保障委員会常任理事国の5カ国、葉タバコの主要生産・輸出国、タバコ産業の猛烈な売込みのターゲットとなっている第三世界の国々などが含まれています。またヨーロッパ連合とNGOの5団体も声明を発表し、WHO事務局長の主導のもとでFCTCが採択され、世界のタバコ規制が進むことへの支持を表明しました。

 WHO-FCTCの最初の作業部会は、ジュネーブで1999年10月25-29日に開催されました。その会議には,114の加盟国とEUの代表者,及び教皇庁,パレスチナ,国連機関,政府間機関,NGOからのオブザーバーを含む,様々の幅広い分野と組織の関係者が出席しました。

 FCTCにより各国が受けるメリットは多い。とりわけ、これまで密輸など国内規制では不十分だった分野について、この条約が指導的・調整的な役割を果たすことで、自国の状況に合った保健政策を、各国が進められるようになる点は大きいです。

 枠組み条約により、締結国は主要な分野で協力が義務づけられますが、これにより国や関係諸機関は互いに重要な関係が築くようになります。各国は、基幹の枠組み条約に参加しても、具体的な議定書に参加するのは先延ばしにすることができます。

タバコ対策枠組み条約(FCTC)入門

1 FCTCって何?

 タバコ対策枠組み条約(FCTC)は、葉タバコとタバコ製品の世界的な広がりを制限する、法的拘束力のある国際条約です。WHO憲章19条は、WHOがそのような条約を起草採択することができることを定めているのですが、その初めての実現例となります。FCTCの協議・採択は、それ自体が、人々の健康の維持増進を目指す運動であり、また成果なのです。

 FCTCの内容は、WHO加盟191カ国の協議で決まりますので、各国の意見が適切に反映されます。FCTCは枠組み条約ですが、これに基づく個別具体的議定書の締結が予定されており、加盟国はそれぞれの事情に合わせて、条約・議定書の各段階に対応することができるのです。

 FCTC(枠組み条約)は、健康問題に関する法的規制の基本的な範囲と骨格を定めるものです。建物にたとえるなら礎石のようなものです。

2 FCTCの採択時期は?

 世界保健総会は、その決議WHA52.181999年5月、全会一致)で、FCTCとそれに基づく議定書の採択について、具体的計画を定めています。これによると、遅くとも2003年5月の世界保健総会の時には採択されます。
 FCTCの本体はもっと早く採択されるでしょう。各議定書は、内容が異なるだけに時期もまちまちになりそうです。
FCTCの採択を早められるか否かは、加盟国次第です。その政治的決断と、健康向上に対する不断の取組みがカギです。FCTC本体の交渉をすると同時に、関連議定書についても話を詰めていく、というやり方が考えられます。たとえば、FCTC本体と3つの議定書を同時に交渉する、というように。

3 FCTCによって世界のタバコ規制はどう変わる?

T FCTCとその関連議定書により、国際的なタバコ規制と協力体制が次のように前進します。

 国際的なタバコ規制体制が整備されなければ、たとえどんなに国内で完璧な規制政策をとっても不十分でしょう。国内政策と、FCTCによる国際的取組みは、相互に補完しあう関係にあるのです。

U また、FCTC及びその関連議定書の採択に向けて作業を進める中で、色々な面で前進があるでしょう。まず、タバコ規制のための技術的・経済的支援が、国の内外から得られるようになります。次に、タバコ規制の関連省庁や、公衆衛生に関わる人・団体の意識が高まります。そして国内の立法・行政措置の強化。さらにNGOなど市民の力の結集など。
 FCTCの採択に向けて、WHO本部と地域本部は、タバコ問題をあらゆる方面から検討するために、各国のNGO、メディア、市民と協力していきます。

4  treatyconventionprotocolresolutionという用語のちがいは?

5  上の4つのうち法的拘束力があるものは?

 条約には法的拘束力があります。枠組み条約で定める義務は、通常、一般的・限定的なのに対し、議定書ではより個別具体的になります。
 決議には法的拘束力がなく、通常、法的性質をもつ取決めなどは含まれません。

6  タバコ問題には決議で十分なのでは?

 タバコ産業や喫煙は、公衆衛生にとって大きな脅威ですから、効果的に対処するためには、単なる決議では不十分です。過去25年間に、世界保健総会は16の決議を採択してきました。それはタバコ規制のさまざまな面に関するものでしたが、効果の度合はまちまちでした。加盟国によっては、これら決議を国内でより鮮明に具体化したところもあります。しかし、このような断片的決議を繰り返しても、公式の拘束力というものがなく、タバコ対策のように国際的対策と国内的対策が合わさって初めて効果を発揮する分野では、大きな成果を上げるには至らないのです。(もっとも、他の国際会議で採択された決議は、FCTCの実現に大きく寄与してくれるでしょうが。)

 FCTCは、長期的にタバコ対策を考えるものです。この条約の一番の利点は、蔓延するタバコを規制することによって、WHOに関わる国家と個人が、健康を手に入れられることです。FCTCは、健康のための条約なのです。

7 FCTC作業部会と政府間交渉機関の役割は?

 WHA決議52.18は、FCTCと関連議定書が、加盟国の完全参加のもとに採択されるよう、総合的な手順を示しました。その中でFCTC作業部会と政府間交渉機関について触れており、99年5月のWHA期間中加盟国は、この両方を発足させました。

 作業部会には、WHOの全加盟国及び地域経済統合組織が参加でき、FCTCの基本事項について草案をまとめ、第53回WHAに報告書を提出することになっています。その第1回会合は9910月25-29日にジュネーブで開催されました。

  一方、正式の交渉は、2000年5月に事務局長が政府間交渉機関の第1回会合を召集した時に始まるでしょう。この交渉機関もまた、WHOの全加盟国と地域経済統合組織が参加できるもので、FCTCと関連議定書の文言を策定する責務を担っています。また、WHA決議52.183(6)に出てくる国家と団体・組織は、作業部会と交渉機関にオブザーバーとして招かれることになっています。

8 FCTCの財源は?

 当面は、FCTC関連経費は、臨時予算措置によってまかなわれます。経費として見込まれるのは、WHOの技術援助、政府間交渉の支援、各国内のFCTC国内委員会の設立支援などです。中長期的には、条約を確実に実施できるよう正式の予算措置が必要でしょう。

 特に途上国は、FCTCの作業過程に参画するのに、財政的・技術的援助を必要とします。このために、WHOが別個の信託基金を設立すべきであるという考えが、最近バンクーバーであった技術専門会議で表明されました。

 お金がかかるのは、条約の実施段階でも同じです。各国がタバコ対策を国の内外ですすめていくためには、基金が必要です。このため、各国政府、国際機関、民間が資金を拠出して、多国間信託基金を設立する、という条項をFCTCに入れる必要があります。

9 従前のタバコ対策予算がFCTCに使われることはないの?

 FCTCの策定過程で、新たな臨時予算措置を講じることが必要ですが、既存の反タバコ資金がFCTC用に転用されることはありません。FCTCを財政面で支えるということは、それ自体が世界のタバコ対策の不可欠の要素なのです。もしFCTCが無事採択されれば、タバコ対策予算は国内的にも国際的にも著しく増加するでしょう。そしてタバコ問題は、これまで以上に政治問題として認識されるようになります。タバコ問題を地球的規模で捉えられるかどうかは、まさにFCTCの採択如何にかかっているのです。

 環境問題では、法的拘束力のある多国間条約がいくつも採択されてきました。それらを見ますと、たとえば87年の「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」もそうですが、相当な額の財政支援が途上国になされています。同じようにFCTCも、追加財源の融通など、地球規模の協力態勢を促進するはずです。

10 タバコに依存している経済はどうなる?

 タバコを規制すると歳入が減る、ということがよく言われますが、それは全くの思い込みです。各種の試算を見ると、タバコの生産をやめた方がはるかにいいことがわかります。世界銀行のリポートやその出版物「タバコ規制の経済学:最適の政策へ向けて」など、最近の経済分析によれば、タバコによって生じる医療費負担その他の社会的損失は、タバコ栽培による直接的利益をはるかに凌駕しています。

 タバコ会社は、タバコに替わる作物や製品がない、と言います。しかし、タバコをやめた消費者は、浮いたお金を他の所に使うでしょう。従って、タバコ産業の雇用が減っても、他の分野の雇用が増大して、相殺されるはずです。もっとも、短期的に見れば、タバコの輸出が経済全体を支えているような国では、タバコからの脱却を図ることで雇用が減少するでしょう。

 FCTCは、農業の多角化を長期的にとらえています。条約と議定書という二段構造をとっているので、タバコ規制の体制作りを漸進的にすすめることができ、時間のかかる事柄には長期的に取り組むことができるのです。また、タバコ規制の影響を強く受ける国に対しては、多国間基金による支援が得られるようにする必要があります。FCTCは、タバコ耕作農家に対する支援を世界的に求める、最初の契機となるでしょう。

 ちなみに現在、世界の喫煙人口は11億ですが、2025年には16億4千万に増加するとみられ、それは主に途上国の人口増加によるものと考えられます。ということは、FCTCのようなタバコ規制措置があっても、途上国が経済的打撃を受けることはないと考えられます。

11 交渉に当たるのはどの省庁?

 主要な役割を果たすのは厚生省ですが、条約に関わることなので外務省も前面に出てきます。他に項目によって、大蔵、環境、労働、法務、通産、文部、農林の各省が交渉に関わるでしょう。

12 法的拘束力のある条約によって、目に見える効果が期待できるの?

 条約締結によって大きな効果が期待できます。たとえば、

13 条約によって加盟国の行動が何か変わるでしょうか?

 条約の内容を強制的に実現する機構・装置が作られれば、もちろんそうなるでしょう。世界貿易機関の紛争解決機関などがその例です。ですがこのような機構が設立されなかったとしても、条約締結の意味は大きいのです。

 このように、条約により直ちに政府が政策を転換する、ということがなくても、かなりの変化が期待できるのです。条約によって、政府は損益計算の認識を新たにするでしょうし、また約束は守らなければならない、と皆思っていますから。

14 国際連合のような機関のもとでなく、なぜWHOのもとでFCTCの検討作業が進められるのですか?

 FCTCの内容を策定し、これを効果的に実現するためには、この分野の専門家の参画が不可欠ですが、そのような専門家を擁する唯一の国際機関がWHOなのです。国連も確かに、タバコ規制の条約をすすめる権限を持っています。しかし国連には専門家もいませんし、また、タバコ対策の事細かな基準を定めたり、広範な協議を開催するような時間は恐らくないでしょう。

 タバコ規制の具体的基準の策定・検討は、公衆衛生の専門機関たるWHOが行うのが最適です。WHA(49.17)で加盟国が、FCTC策定の場としてWHOを選んだのは、WHOならではのこのような能力を認めたからなのです。

 もっとも、タバコ対策の目的達成のために、他の国連機関の権限に属することを規制する必要があることも考えられます。、この場合には合同協議機関を作ることもありえます。特に特定分野の議定書策定で、このようなことが考えられるでしょう。

15 FCTCと、これに役立ちそうな他の条約との関係は?

 国連基金の援助を受けて、WHOとユネスコは「タバコのない世代を育てるための行動と協同」事業を進めていますが、この中で、子どもの権利条約をタバコ問題の観点から見直しています。また、「たばこのない世界構想」では女性の役割強化が一つの柱ですので、国連の女性差別撤廃条約との関連付け(リンケージ)も検討します。その他、密輸に関する条約との連携もあるでしょう。さらに、局地的に既に結ばれているタバコ対策条約については、これをさらに深化・発展させるべく努力します。
                                                                                  (訳:江頭節子)