Why Focus on Tobacco  http://www.who.int/toh/TFI/whytfi.htm

なぜタバコが問題なのか?

●人類の健康への脅威

 タバコ抑制策を、世界的規模で大々的かつ強力に推進すべき第一の理由は、現在そして将来の全人類の健康に及ぼす悪影響が、極端に大きいためである。
 タバコによる健康被害は、増加の一途をたどっており、21世紀における公衆衛生上の最大の問題になると懸念されている。
 世界保健機関(以下「WHO」)の試算によると、現在世界中で年間4百万人がタバコのせいで死んでいるが、この数字は2020年代から30年代初頭までには1千万人にまで増えると予想されている。そのときの全死亡者の約7割は発展途上国の人々である。
 タバコの悪影響は死亡被害だけにとどまらない。たとえ死には至らなくても、喫煙者は体の不調や身体の障害に苦しみ、受動喫煙の被害は子どもにも及ぶ。

●10億人を超える喫煙者

 現在、世界中には10億人を超える喫煙者が存在する。地域別ではアジアが最も多い。女性の喫煙率はヨーロッパや北米で高い。近年の傾向としては、途上国での増加、特に女性の喫煙者の増加が著しい。

 もう一つ注目すべき点は、以前は喫煙抑制策がうまくいっていると考えられていた国々で、少女を含む未成年者の喫煙率が増加していることである。このように、タバコ産業側の攻勢で、新たなマーケットが開拓される一方で、既存の市場も必ずしも縮小しているわけではない。要するにタバコは全地球的な脅威にほかならないのだ。

●タバコは経済にもマイナス

 最近、多くの国で、タバコが経済に及ぼす影響が研究されはじめた。これらの国々−−タイ、南アフリカ、スイス、中国、ブラジル−−は経済規模や発展段階も様々であり、以前にイギリスやアメリカ、カナダで行われた研究で、不明であった点を解明することが可能となった。
 この結果「タバコは経済的な利益をもたらす」という考えは明らかに誤りであることが分かった。答えはまったく逆で、タバコによってもたらされる直接、間接のコストが、経済発展を促すどころか、反対に阻害となるのだ。

●タバコは環境を破壊する

 多くの国で、タバコの栽培が環境へ悪影響を及ぼすことが明らかになってきた。具体的には、タバコの耕作地を広げるためと、収穫されたタバコの葉の乾燥のために、森林が伐採され、砂漠化が進行することである。

●効果的な政策の立案と実行が現状を変える

 効果的な政策を立案し実行することにより、タバコ消費の広がりと消費の増大に歯止めをかけ、人々の健康状態を改善できる。過去の成功例の多くは、先進国において達成されたものであり、効果的な対策を数年間にわたって実行した結果である。最近では、いくつかの発展途上国でも同様のアプローチが試みられているが、初期の段階から成果があらわれつつある。

 特に注目すべき事例は、フィンランドのケースであるが、その成功の秘訣は、数十年単位の長期計画によって目標を達成しようとした点にある。法律による規制とタバコ税の継続的な引き上げ、そして地域社会を巻き込んだ総合的な禁煙(断煙)促進策により、タバコ消費は大幅な減少を示した。さらに注目すべき点は、タバコ対策に着手した時点では、フィンランドは今ほどの経済発展を遂げてはいなかったということだ。このことは、フィンランドのケースが様々な国において応用可能であることを示している。

 1998年にイギリスで公表された大規模な研究(タウンゼントレポート←参考文献リスト参照)により、タバコ対策上どのような政策が効果的であるかが明らかになった。それによると、最も効果が大きかったのはタバコ税の引き上げである。他の政策−−広告の規制、タバコ依存症の治療法の普及、喫煙場所の制限、健康教育など−−を効果的に行うには、より慎重に立案し、厳格に適用する必要がある。また、この報告は、政策担当者が、その国の国情に応じた適切な対策を組み合わせて、タイミングよく実行することの大切さを強く指摘している。

 私たちの最終的な目標は、@禁煙(断煙)する人を増やすこと、A新たに喫煙を始める人を減らすこと、の二つである。過去の成功例からみて、この目標を達成するためには様々な対策をうまく組み合わせることが不可欠である。
 WHOが加盟各国に推奨する総合的なタバコ対策の内容は、表1のとおりである。この中のどの対策を選択するかは、各国が、自国の政治経済状況や、社会的文化的な要因を考慮しながら決定すべきである。
 これらの対策は、一般市民の支持が得られなければ成功はおぼつかないが、そのためにはマスコミや政治家が、対策実行の必要性を説き続けることが必要である。

表1.国レベルの総合的タバコ対策の内容


@財政政策

物価上昇率を上回る額のタバコ税の継続的な引き上げ。税収の一部はタバコ対策にあてる。

A広告規制、警告表示、広報活動

 ・すべてのタバコ広告と販売促進策の禁止

 ・効果的な警告表示の義務づけ

 ・喫煙の害と健康問題に関する情報の提供

B公共の場所での分煙を徹底し、非喫煙者の間接喫煙を防止する

Cタバコの製造と製品に関する法律の制定

Dタバコ依存症の治療法の普及

E対策を実行する主体を明らかにし、継続的な対策を強力に推進しうる体制を整える。具体的活動としては、各種の研究の支援、統計の整備と定期的な調査、実行した対策の評価などを行う。

Fマスメディアが、タバコ対策の必要性や具体的な対策の内容、タバコ会社の「抵抗」の実態などを適切に報道・論評できるよう情報を提供し、世論を喚起する。

Gタバコ耕作農家の転作の支援

(出典:世界保健総会の決議より抜粋)


●人材・予算は大幅に不足

 人材や予算は、国、地域そして世界のすべてのレベルで大幅に不足しており、組織も整備されていない。
 ”40兆円産業”のタバコ業界に対抗していくには、世界中の予算をかき集めてきてもぜんぜん足りない。最低限の人材の確保と組織の整備がやっとである。
 また、従来タバコ対策は、独立の施策としてではなく、他の計画の一部として位置づけられることが多かった。国際的なタバコ対策計画−−調査研究、対策立案そしてその実行がセットになったもの−−に対してきちんとした予算がつけられた例は、せいぜい2〜3件にとどまり、対策の内容もあまり強力なものではなかった。

 この「たばこのない世界構想」は、以上のような現在および将来の重大な健康被害を食い止めるために、実現可能で効果的と思われる政策手段を模索しながら策定されたものであり、ブルントラント事務局長が最初に決定した二つのプロジェクトのうちの一つである。

(参考文献リスト)
Townsend J(1998)「英国における喫煙対策とその目的、死亡率への影響」
                                        (訳:中村典生)