Mission and Goals of TFI http://www.who.int/toh/TFI/missiontfi.htm

タバコのない世界構想の目標と課題

世界的なタバコ対策の長期目標は、地域的、社会的なタバコ消費の広がりと、消費量の増加に歯止めをかけ、これを縮小・減少に転じさせることである。そうすることによって、タバコによる健康被害を減少させることができるのだ。

この目標を達成するための政策課題は以下のようなものである。

@過去の経験を踏まえたタバコ抑制策を立案・実行するために、世界中の人々の積極的な支援を求める。
A対策を実行するための新たな協力関係を構築するとともに、これまでに確立された関係を強化する。
Bタバコによる人的、社会的、経済的損失は、あらゆる社会集団・社会階層において発生するという事実に注意を向けさせ、総合的な対策をすべての分野で実行することの必要性を認識させる。
C国、地域、世界全体の各レベルにおいて、戦略的なタバコ対策の立案、実行、評価を迅速に行う。
D革新的な対策を迅速かつ継続的に行うために、政策プロセスの評価を外部機関に委託する。
E対策を実行するため、必要かつ十分な人材・資金を投入する。
Fタバコ問題を、健康問題全般や環境問題など、より広い枠組の中に位置づけ、総合的な解決策を模索する。
G実効性の期待できるタバコ対策枠組条約および同議定書の採択を促進する。

そして、これらの課題が達成されつつあるかどうかは以下の指標で判断すべきである。

@タバコ規制の提唱と、それに対する支持が高まっているか?
A明確な目的を伴う協力関係が構築されつつあるか?
B問題解決のための新たなシステムが構築され強化されているか?
Cタバコ対策枠組条約の採択が促進されているか?
D対策実行のモデルとするための新たな政策の研究が行われているか?
Eタバコ規制のために、より多くの人材・資金が投入されているか?

タバコ規制の提言の高まり:ブルントラント事務総長の講演からの引用

「私は医者であり、科学的思考と証明された事実(原文は「科学と証拠」)を重んじます。本日のこの機会に是非このことを提言させて下さい。タバコの広告は禁止すべきであり、タバコ産業への補助金は廃止すべきであるということを。タバコはいかなる形であれ、人に勧めるべきものではないのです」(1998年5月13日、ジュネーブでの世界保健総会において)

「私たちは現状を容認してはならないことに気づいています。私たちが今責任を果たさないならば、あまりにも多くの命が奪われ、あまりにも巨額の経済損失が発生することになるのです」(1999年4月27日、ベルリンでの第9回国際麻薬規制担当官会議における基調演説)

「WHOはこの問題に無関心ではいられません。私たちは人々を、なかでも若い人たちを、蔓延するタバコ病から助け出さねばなりません」(1998年9月14日、フィリピン・マニラでのWHO西太平洋地区地域委員会において)

「私たちはWHOの提案する政策を実行するために人々の支持や資金、他の組織の協力を確保しなければなりません。そしてそれはジュネーブにおいてだけではなく、世界の各地域やすべての加盟国において必要なことなのです」(1998年9月17日、デンマーク・コペンハーゲンでのWHO欧州地域委員会において)

「喫煙は伝染病なのです。喫煙への誘惑は広告や友人からの圧力によって伝染していきます。そのコストは、健康を損ない命を落とすことによって支払われるのです」(1998年9月22日、ワシントンのウッドロー・ウィルソンセンターにおいて)

「タバコ販売の国際化により、今やすべての国が、自国内においてだけでなく国際的に協調して強力なタバコ対策を実行する必要に迫られています。そうすることによってのみ国民を将来にわたってタバコの害から救うことができるのです」(1998年10月19日、スイス・ジュネーブ州政府厚生大臣主催の昼食会において)

「タバコ規制は、各国政府や国内のNGO、マスメディアが単独で取り組んでも成功は期待できません。国際的な問題には国際的な取り組みが必要なのです。そして、その国際的な取り組みの総合的な指針となるのがタバコ対策枠組条約なのです」(1998年10月20日、ジュネーブでのタバコ産業情報公開セミナーにおいて)

他の国際機関からの賛同のメッセージ

 全地球的な問題であるタバコ規制に取り組んでいるのはWHOだけではない。ブルントラント事務総長の協力呼びかけに対し、他の国際機関から以下のようなコメントが寄せられている。

「私はタバコ規制が今最も重要な保健政策上の課題であると確信しており、タバコ規制への取り組み──特にタバコ課税に関連するもの──を強化しています」(世界銀行のジェームズ・ウォルフェンソン総裁James D. Wolfensohn

「子どもの権利を侵害するものの中で最も深刻なのは、簡単に入手できる合法的な依存性薬物、すなわちタバコとアルコールです」(ユニセフのキャロル・ベラミー代表理事Carol Bellamy

WHOのリーダーシップのもとで構築されつつある協力関係

 たばこのない世界構想のもと、明確な目的をもった協力関係が構築されつつある。それらの目的は、関係諸機関やWHO自身の各レベルの組織が果たすことのできる、他では得られない補完的な役割を反映している。これらの協力関係の成果は、世界、国、国内の地域のそれぞれのレベルで具体的にどのような行動が実行されたかを基準にして評価されることとなろう。現在構築されつつある外部諸機関との協力関係の概要は下記の表のようなものである。

(●表のタイトル)外部機関との協力関係とその目的
(訳者注;機関名や公衆衛生専門用語も含まれているので、公式的な訳と異なるかも知れません)

(●表の中身
(関係機関):(協力の目的)
・ユニセフ:青少年の喫煙習慣形成の予防
・国連ラジオ放送:複数の言語による世界への情報発信
・世界銀行:効果的なタバコ税の課税方法。タバコ規制の経済への影響の分析
・米国疾病予防センター(CDC):世界的なタバコ病サーベイランス(疾病監視)と報告体制構築(public service announcements)の支援
・米国環境保護局(EPA):環境保護政策担当者、運動関係者との協力
・米国国立衛生研究所、IDRC(カナダの機関)、SIDA:政策の調査による事例データ(the evidence-base)の蓄積
・国際的なNGO:一般市民レベルでの活動の強化。インターネットを活用した人々の組織化。マスメディアへの情報提供。連絡の緊密化。
・民間セクター:製薬メーカーの経営資源と専門知識の活用。マスメディアや娯楽(エンターテインメント)産業との連携
・学界:複数の学問分野におけるタバコ規制の研究体制の確立。具体的な対策の研究。
(表終わり)

WHO内部での行動(抜粋)

WHOと国連の組織内部の喫煙者へのアプローチ

 国連職員保健・医療センター(Joint Medical Services)と協力して、WHO職員が禁煙するための費用の一部を負担する制度が新たに作られた。これに加え、現在ジュネーブで勤務しているすべての国連職員を対象とする喫煙習慣の調査を準備中である。WHOは、これらの諸機関と協力して、その世界的なタバコ規制策と自らの職員向けの喫煙対策が一致するように努めていく。

WHOの各クラスター事務局における個別のタバコ対策

 これらの内容は現在継続中の慎重な協議を通じて確定されつつある。

(●表のタイトル)WHO内部の協力関係

(●表の中身
(各クラスター事務局の名称);(担当する個別のタバコ対策)
・統計局(Evidence);喫煙の疫学。介入の費用対効果
・持続的開発局;公共スペースにおける環境タバコ煙。国際会議の開催
・非伝染性疾病局;地域社会における介入。医療機関の運営方法。規制策実施方法の研究(operational research
・伝染性疾病局;結核の抑制
・社会変化(Social change)・精神衛生局;薬物乱用の一次予防。薬物依存の原因および蔓延のプロセス。健康増進。健康な老後。火災と傷害の予防
・健康制度(Health systems)・地域社会局;ライフサイクルに応じた対策。青少年と女性の健康。医療従事者の協力の確保
・健康テクノロジー局;禁煙補助薬の利用。ニコチンの規制
・外部協力局;国連。世界銀行。NGO。民間セクター
・総務局(Management);職員向け医療サービス。職員の健康保険政策。人事政策
・法務局;IFCの開発
(表終わり)

WHO本部、地域、および各国内の行動の一体化

 付属文書Aでは、WHO内部の新たなタバコ規制策を支援するための最近の各地域における規制策のうち、優良な事例を紹介している。

もっと多くの資金・人材を

 98年の7月22日に、国際的タバコ対策のための新たな財源が確保されたが、これは何年ぶりかのことである。この財源には、WHOの経常予算によるものと、子どものタバコ問題対策に当てるためのWHO/ユニセフ合同プロジェクトへの国連補助金が含まれている。また、多くの国で、従来必ずしも国際的なタバコ規制策との整合性がとれていなかった過去の国内対策を見直す動きがある。多くの市民グループや財団なども、今後WHOと協力していくことが可能な分野を模索しつつある。しかし、まだ多くの分野で対策が遅れており、そのための資源が不足していることもまた事実である。
                               (訳:中村典生)