Tobacco Free Initiative
http://www.who.int/toh/ タバコのない世界構想(前書き)WHO(世界保健機関)の試算によると、現在世界中で年間4百万人がタバコのせいで死んでおり、この数字は2020年代から30年代初頭には、約1千万人にまで増えると予想されている。現在の危機的な状況に何らかの歯止めをかけなければ、その頃までに、タバコは人類の健康にとって最大の脅威となっていて、8人に1人がタバコで死ぬと予想されている。このタバコによる死亡者の7割は開発途上国の人々である。
しかし、タバコが全人類にもたらす健康被害、とりわけ開発途上国で適切な対策がとられなかった場合に、その人々が被る健康被害がいかに大きいかを、世界の人々が正しく認識しているとは言いがたい。この、現在、そして将来の人類の健康に及ぼす深刻な悪影響こそが、タバコ抑制策を世界的規模で、大々的かつ強力に推進すべき第一の理由である。
この人類全体への脅威に取り組んでいくため、ブルントラントWHO事務局長は、1998年7月に「タバコのない世界構想(TFI: Tobacco Free Initiative)」を発表し、タバコ問題を公衆衛生上の最大の課題と位置づけて、地球的規模での戦略的な対策を推進していくこととした。
世界的なタバコ対策の長期目標は、地域的、社会的なタバコ消費の広がりと消費量の増加に歯止めをかけ、これを縮小・減少に転じさせることである。そうすることによって、タバコによる健康被害を減少させることができるのだ。
この目標を達成するための政策課題は以下のようなものである。
(1)過去の経験を踏まえたタバコ抑制策を立案・実行するために、世界中の人々の積極的な支援を求める。
(2)対策を実行するための新たな協力関係を構築するとともに、これまでに確立された関係を強化する。
(3)タバコによる人的、社会的、経済的損失は、あらゆる社会集団・社会階層において発生するという事実に注意を向けさせ、総合的な対策を、すべての分野で実行することの必要性を認識させる。
(4)国、地域、世界全体の各レベルにおいて、戦略的なタバコ対策の立案、実行、評価を迅速に行う。
(5)革新的な対策を、迅速かつ継続的に行うために、政策プロセスの評価を外部機関に委託する。
(6)対策を実行するため、必要かつ十分な人材と資金を投入する。
(7)タバコ問題を、健康問題全般や環境問題など、より広い枠組の中に位置づけ、総合的な解決策を模索する。
(8)実効性の期待できるタバコ対策枠組み条約、及び同議定書の採択を促進する。
これらの諸課題を実現するために、「タバコのない世界構想」の事務局は、WHOのクラスター事務局(本部に9つのクラスターがある),地域事務局,及び各国支部に加え、外部の広範な諸機関・研究所と緊密な協力関係を構築していく。この協力関係は個別具体的な課題の達成を目的とするものであり、これらの組織・機関が有する他では得られない特長を組み合わせ最大限に活用するためのものである。
これらの諸課題がどれだけ達成されたかは、世界全体、国別、国内地域別のそれぞれのレベルにおいて、どのようなタバコ抑制策によって具体的にどのような形でタバコ消費の縮小・減少がもたらされたかにより判断される。
「タバコのない世界構想」は、タバコの蔓延とそれに伴う健康被害を食い止めることのできる政策・行動を世界レベルで指導する役割を担っていく。
タバコ問題の現状は決して楽観できるものではないが、これまでに総合的なタバコ対策を関係諸機関の円滑かつ緊密な協力のもとに実行してきた諸国においては、現実にタバコ消費とそれに伴う健康被害がかなりのレベルで減少している実例が散見される。
このことは、(1)禁煙(断煙)者を増やす、(2)新たな喫煙者を減らすという最終の目標はすべての国に共通しているが、それを実現するための具体的な政策は、それぞれの国ごとに最適の組み合わせを考える必要があることを示している。この具体的なタバコ抑制策の組み合わせは、利用しうるすべての政策メニューの中から、各国の政治経済状況や社会的、文化的背景を考慮して決定される。
この世界的規模でのタバコ抑制計画が成功するかどうかは、強力な対策を実行できるだけの人材、組織、そして資金を動員できるか否かにかかっている。
現時点でのこれら人材・予算・組織の動員状況は、地域レベルでも世界レベルでも決定的に不足している。なにしろ、相手は「有害商品」のタバコを平気で人々に売りつけることのできるタバコ産業であり、彼らの事業規模は40兆円もあるのだ。
動員できる人材・予算・組織が増えれば、より大規模な調査・研究、より強力な政策の立案・実行を世界的規模で推進できる。そしてタバコがもたらす全人類への重大な健康被害がそれだけ緩和されることとなるのだ。
(訳:中村典生)