王さまのけむりと少年 

                        絵と文 福林春乃

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表紙

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中表紙

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あるところに、
それはそれはタバコをよく吸う王さまがおりました。
暇さえあればタバコを吸って、
タバコを吸うために暇をつくっておりました。

ある日、王さまは言いました。
「タバコは全てわしのものである。
 
タバコは全てわしが吸う。
 
他の者は、タバコ作りに精を出しなさい。」
タバコが、王さまのためだけに作られました。
王さまは、ますますタバコを吸うようになり、
だんだん吸う量も多くなっていきました。

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一本ゆっくり吸っちゃいられぬ
二本で吸うともっと いい
  二本のんびり吸っちゃいられぬ
  三本で吸うともっっともっっと いい
    三本でしっかり吸っちゃいられぬ
    四本で吸うともっっっともっっっと いい…


短いタバコは吸っちゃいられぬ
なが〜いタバコはなんとも いい  
小っちゃいタバコは吸っちゃいられぬ
  大っきなタバコはかくべつ いい

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とうとうお城の屋根がこわれてしまうほどの、
大きな大きなタバコを作らせてしまいました。

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王さまは、

この大きな

大きな

タバコを吸うために、
部屋にこもって

とにかく

スパスパすぱすぱと、
タバコを吸い続けました。

だから、お城のてっぺんからは、
タバコの煙がモクモクと出続けているのでした。

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タバコの煙は、

何にでも巻きついて、
どんなところにも

入り込んでしまうのでした。
スルリスルリと入り込み、

モクモクと巻きつき
着物も、家も、木や花も、雨や風まで、煙だらけになりました。

そうして…この国は

煙におおわれていきました。

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タバコの煙は、どんどんと広がって
この国の、もっとずっと遠くの緑の森までやってきました。
ここは、きれいな空気をつくり出している森です。
森には、たくさんの妖精たちが住んでおりました。

ところが、このところ、木や妖精たちがつぎつぎと


病気になってしまったのです。
それは、王さまの煙のせいのようでした。

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「このままでは、大変なことになる!!
「仲間がみんな病気でたおれてしまう!!
「そうしたら、きれいな空気が作れない…」

「この森がダメになってしまったら…


 この国も、あの国も、どの国も…

 ダメになってしまう…」

「大変だー!! この煙をなんとかしなければ…」

すると一人の妖精が言いました。
「ぼくが煙を止めに行ってきます。
 どうやら、タバコをやめられない王さまの煙のようです。
 タバコを吸うのをやめてくれるようお願いしてきます。」

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そんなある夜。
少年の姿をした妖精が、

緑の森からやって来て
煙の出ているお城にたどり着きました。
お城の中は、煙だらけで、ひっそりとしています。
門番も兵隊も、だ〜れもいないのでした。
ところが、ひとり、王さまだけは起きていました。
「王さま、王さま。」
「だれだっ、こんな時間に何事だ
煙のすきまから、王さまのガラガラ声がひびきわたりました。

「王さまにタバコのことでお話がございます。」
と少年は言いました。
「なになに、タバコの話か。ならば入ってまいれ。」
少年は煙をかき分け、王さまの部屋に入っていきました。
中には、大きな大きなタバコを吸っている
王さまが座っていました。

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「王さま!! このままでは、この国が大変なことになります。
タバコの煙でおおわれた空は、やがて太陽をかくし、お米も野菜も育たなくなります「なっ、なんとっっ!! この煙でか?」

「はい、そうでございます。
お米の稲も、野菜も、果物も、死んでしまいます…。
 そして、ついには食べるものが

なくなってしまいます…。」

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「それから、王さまのお体も、悪くなっております。
 タバコを吸い続けていると、いずれ病気になります。」
「なるほど、わしはこのごろ、息苦しくて、苦しくて…


 体が思うようにならんのじゃ…。
 だからよけいに、タバコを吸って気をまぎらわせておる。」

「それはタバコに含まれるニコチンのせいなのです。
 ニコチン中毒になっているのです。
 息苦しいのは、タバコに含まれる一酸化炭素のせいなのです。
 煙は何にでも巻きつき、入り込み、ヤニ色に染めていきます。
 人の体の中も、がんの病気を作る タバコのタールがヤニ色に染めて
 ボロボロにしてしまうのです…。」

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「そして、本当に恐ろしいことに…


タバコを吸っていなくても、この煙に巻かれてしまった人は、
ヤニ色に染められ、体が悪くなっていきます。

王さまだけでなく、煙を吸わされてしまった人はみな
病気になってしまうのです…。」

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「なっ、なんとっ、恐ろしい…本当に?

 それは知らなんだ

わしとしたことが…
 わしだけでなく、みんなの体の中が、ボロボロになってしまうなんて…


 わしは、なんてことをしていたんだ…


 自分一人のために、
 好き勝手なことをしてしまって…


 周りのみんなを… 国中のみんなを…


 煙に巻き込んでいたなんて…


 あぁ、どうしたらいいんだろう…。」

王さまは、頭を抱え込んでしまいました。

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「今から、タバコをおやめになることです。
 吸っても、良いことなんて何もないのです。
 吸わなくったって、どうってことないのです


 そうお気づきになれば、
 きっとおやめになれるでしょう。
 森の精たちも、お力になります

 
 お体も少しずつ、きっと良くなることでしょう。
 この国のためにも、絶対にやめるべきです。」

「そうなのか…。しかし、タバコが吸えないなんて…。
 そんなことができるのだろうか……。」
「王さま、タバコのニコチンの“とりこ”にならず、
 どうぞ、本当のことをしっかり見て、
 すばらしい国にして下さい。」



…と言ったかと思うと、少年は煙の中に消えていきました。

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翌日から、この国では大そうじがはじまりました。
今までヤニ色に染められてしまっていた何もかもが、
きゅっきゅっとふきとられ、
もとの色へもどっていきました。

もちろん、王さまはタバコを吸うのをやめ、
お城からあのモクモクの煙が出ることはなくなり、
空気はきれいになっていきました。

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そのせいか、
王さまの体は、しだいに元気になっていきました。
森の精が教えてくれたように、
タバコの煙がないことで、
自然の美しさが、
あらためて見えるようになりました。
すてきな香りも楽しめるようになりました。
いつもの食事も、


本当においしくておいしくて…。

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その後、王さまは、
大切なことがよぉくお見えになる、
立派な王さまになりました。
そして王さまの国は、
それはそれはすばらしい国になっていった
ということです。

 

制作・発刊 NPO法人「子どもに無煙環境を」推進協議会200412月発刊)