絵と文 小原 美知子 |
スライド 1 |
表 表紙(カバー) |
スライド 2 |
(1) ぼくの名前はひろき。 いつもは仕事で忙しいパパもそろって,今日は久々にみんなそろって 夕食を食べた。 ごはんが終わったあと,おばあちゃんはテレビの歌番組に夢中で, パパはタバコをふかしながら新聞を読みだした。 ママは,もうすぐ産まれる赤ちゃんのために,一所懸命編み物をしていて, おじいちゃんだけがぼくの遊び相手になって本を読んでくれていた。 時計の針が9時をまわって,もうそろそろ寝ようかなって思った時のことー 突然 「ガッチャーン」という大きな音がして, 何やら奇妙な格好をした人らしい物が窓からとびこんできた。 <さっと、ぬく> |
スライド 3 |
(2) ひろき 「あなた誰?」 びっくりしてぼくが聞いた。 ピコ 「アイアタタ・・・。私の名前はピコ。 となりの星にいく途中、つい居眠りしておっこちゃったんだ。 ごねんね。」 ひろき 「となりの星?。 じゃあ、もしかして・・・あなたは宇宙人!? ほんものの宇宙人!?」 突然の思わぬお客に、みんなは驚くやら喜ぶやら、家中もう大さわぎ。 <ぬく> |
スライド 4 |
(3) おじいちゃん 「さぁさぁ,遠い星から来られた珍しいお客様だ。 おばあさんや,ピコさんに熱いお茶を。 いやいや,あなたはもう大人だよねぇ? そう,それならお酒の方が,あったまるだろうか。」 パパ 「それより,まずタバコを一服。」 おじいちゃんとパパが持ってきたお酒とタバコを見て, ピコは驚いたように言った。 ピコ 「ええっ,タバコ!? この星では,まだタバコを吸っている人がいるの!?」 <ぬく> |
スライド 5 |
(4) ピコ 「ねぇ,君たちは,タバコにどんな害があるかってこと, 知っている?」 ピコがぼく達に聞いた。 おじいちゃん 「そりゃぁ体には良くないだろうけど・・・, わしゃ,これがないとどうも落ちつかなくて・・・」 パパとおじいちゃんは,気まずそうに顔を見合わせた。 ピコ 「じゃあ,みんなにこれ見せてあげる。」 そう言うと,ピコの人さし指から不思議な光がでて, ぼくとパパはその光につつまれたかと思うと,みるみる小さくなって, おじいちゃんの身体の中に,あっという間に吸いこまれていった。 <さっと、ぬく> |
スライド 6 |
(5) ひろき・パパ 「わぁー,汚い!」 「なっ,なんだ,こりゃ!?」 黒くてドロドロしたものが,そこらじゅういっぱいへばりついていて, 足もとにも,どっぷりたまっていた。 ピコ 「そこは,おじいさんの肺の中だよ。 1日に20本のタバコを吸っていると, 1年間でコップ1杯分のタールがたまるんだよ。」 外の方からピコの声が聞こえてきた。 ぼくとパパは,肺の中がこんなにまっ黒だなんて,とても信じられなかった。 ドロドロしたタールを見ていたら,なんだか気持ちが悪くなってきた。 <ぬく> |
スライド 7 |
(6) ピコ 「もう,出ておいで。」 ピコが,ぼく達を肺の中から出してくれた。 ピコ 「タバコを吸っている人の肺の中って,すごいだろ。」 ひろき 「うん,びっくりした。」 ピコ 「でもね,タバコを吸ってなくても,そばで煙を吸わされるだけでも, 害があるんだよ。ホラ,今度はママのお腹を見てごらん。」 <ぬきながら> そう言って,ピコはまた人さし指から不思議な光を出して, ママのお腹を指さした。 <ゆっくりと、ぬく> |
スライド 8 |
(7) ひろき 「あっ,お腹の赤ちゃんが見えたよ」 赤ちゃんの姿が見えて喜んでいたひろきの顔が,急にかわった。 ひろき 「パパ,パパ,見て。 赤ちゃんがへんだよ。」 ママ 「まぁ,大変,とっても苦しがってるわ。」 ピコ 「さっき,君のパパが吸ってたタバコの煙を,ママと一緒に, お腹の赤ちゃんまで吸わされてしまったからなんだよ。 タバコの煙には,一酸化炭素がたくさんあって, 成長にたいせつな酸素が血液で運ばれるのを, じゃましているからなんだ。 それ以外にも,害のあるアンモニアや,タールや, ニコチンなどが,たくさん含まれているんだよ。」 とピコが言った。 ひろき 「パパ,早く助けてあげて。赤ちゃんがかわいそうだよ。」 みんな,お腹の中の赤ちゃんを心配そうにのぞきこんだ。 <ぬく> |
スライド 9 |
(8) ピコ 「タバコの煙を吸わされるだけで,子ども達は, 肺炎や気管支炎になりやすいし,鼻や耳も悪くなりやすいんだ。 大人は,肺がんなどのがんになったり,心臓や脳の血管が つまってしまうなど,いろんな病気になりやすくなるんだよ。」 とピコは説明してくれた。 ひろき 「へぇー,ピコはよく知ってるんだなぁ。」 ピコ 「うん,私は,医者だから,健康について, いろんなこと知っているんだ。」 <ゆっくりと、ぬく> |
スライド 10 |
(9) ピコ 「もうずいぶん昔の話らしいけど,私達の星でも, タバコを吸っている人がいたことがあるんだ。 最初は,仕事のあいまや,気分転換に吸っていたらしいんだけど, だんだん吸う人も量も増えてきて,そのために, 身体をこわす子どもや,病気で死んだりする大人がたくさん 出てきたんだ。 おまけに空気まで濁ってしまって, これじゃいけないと思ったみんなが,力を合わせ,有害なタバコを, 私達の星から追い出してしまったんだ。 今では,すっかり星はきれいになって,生まれ変わってるよ。」 <ゆっくりと、ぬく> |
スライド 10 |
(10) ひろき 「ピコのおかげで,ずいぶんタバコのことがわかったね。」 パパ 「身体によくないとわかっていても,なかなかやめられなくて・・・」 ピコ 「そうだね。 自分の努力ももちろんだけど, 家族の協力も,とっても大切なんだよ。」 ひろき 「じゃあ,タバコをやめられるように,ぼくがお手伝いしてあげる!」 ぼくがそう言うと,おじいちゃんとパパは顔を見合わせて苦笑いした。 ピコ 「そうだ。 窓ガラスをこわしたおわびに,このタネをあげる。 すてきなにおいのする,きれいな花をさかせてくれるよ。 タバコが吸いたくなったら,その花の香りをかぐといいよ。 きっとタバコを吸いたくなくなるよ。」 ピコはぼくに,ちっちゃなブルーのタネを渡してくれた。 <ぬく> |
スライド 11 |
(11) ピコ 「私は,となりの星にこのタネを持って行くところだったんだ。 みんな待ってるから,早く行かなくっちゃ。」 ピコは庭におっこちていた小さな宇宙船にとびのりながら言った。 ピコ 「今度来る時は,タバコのない星に生まれ変わってるといいね。」 ひろき 「うん。ぼく達みんなで,タバコをなくすよう,がんばるよ。」 ピコ 「楽しみにしているよ。じゃあ,また。」 ニッコリ笑ってピコと宇宙船は,星空のかなたに消えて行った。 <ぬく> |
スライド 12 |
(12) ピコのくれたタネはすぐに芽を出した。 やがて ママのお腹も順調で、今にもパンクしそうなほど大きくなった。 おじいちゃんもパパも、あれからすぐタバコをやめた。 時々、タバコが吸いたくてイライラしてる時があるけど、 あの花をそっとそばに置いてあげると、おじいちゃんもパパも ホッとひと息ついて、ニッコリ笑ってくれるんだ。 ― ピコとの約束は時間がかかるかもしれないけど、 きっと守るから、ずっと見ててよね ― 花を見るたび、みんな心の中でそう思った。 ぼくは優しく小さな声で呼びかけた。 ひろき 「おーい、お腹の赤ちゃん、早く元気に出ておいでー。」 お わ り |
制作・発刊 NPO法人「子どもに無煙環境を」推進協議会 (2003年2月発刊)