[参考人にやじ] 議員としての見識疑う

2018/6/24  南日本新聞社説 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=93453 

 

 あまりに心ない言葉であり、見識を疑う。国会議員としての資質が問われていることを厳しく受け止めるべきだ。
 受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の審議中、参考人として発言していたがん患者に、自民党の穴見陽一氏が「いいかげんにしろ」などとやじを飛ばしていたことが分かった。
 患者団体からの反発を受けて、穴見氏は「不快な思いを与えたとすれば、心からの反省とともに深くおわびする」と謝罪し、衆院厚生労働委員会委員長が厳重注意した。だが、それで十分なのか。
 受動喫煙対策を巡っては、昨年5月の自民党会合でも、大西英男衆院議員が「(がん患者は)働かなくていい」という趣旨のやじを飛ばし、党東京都連副会長を辞任した。
 自民党内には、委員会が招いた参考人への敬意も、受動喫煙対策の重要性への認識も欠いている議員がいると言わざるを得ない。党として厳正に対処するべきだ。
 やじは、参考人の日本肺がん患者連絡会代表の長谷川一男さんが屋外の喫煙場所のあり方について「なるべく吸ってほしくないが、喫煙者にとって吸う場所がないと困るという気持ちも分かる」と述べていた際に起きた。
 穴見氏は「喫煙者を必要以上に差別すべきではないという思いでつぶやいた」と釈明する。しかし、長谷川さんの発言には、喫煙者への配慮が感じられる。穴見氏が参考人の意見に真摯(しんし)に耳を傾けていたとは思えない。
 衆院を通過し、参院に送られた健康増進法改正案では、客席面積100平方メートル以下の既存飲食店は例外的に喫煙を認めた。
 一方、穴見氏は面積にかかわらず禁煙となる大手ファミリーレストランチェーンの代表取締役相談役である。規制にかかる当事者が発したやじであることは特に見過ごせない。
 法案は今国会で成立する見込みだ。学校や病院、行政機関の屋内を完全禁煙とする。他方、100平方メートル以下の既存飲食店で喫煙が認められれば、飲食店の55%が例外となるといわれる。大きな抜け穴であり「ざる法」と呼ばれても仕方あるまい。
 飲食業界や一部の自民党関係者は「吸う権利を認めるべきだ」と主張する。だが、受動喫煙対策は「吸う権利」を否定するものではなく、非喫煙者の「吸わない権利」を守るためのものである。
 2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、実効性のある内容にできるのか。参院での丁寧な議論が求められる。