五輪は紫煙でお・も・て・な・し 進まぬ受動喫煙防止対策〈AERA〉

2017/6/15(木) 7:00配信 AERA https://dot.asahi.com/aera/2017061400070.html  

 

  タバコ議員の横ヤリで受動喫煙防止への取り組みは法案さえできない日が続く。安倍晋三首相はなぜ動かないのか。

 東京・赤坂のアーク森ビル最上階の小部屋。5月24日、塩崎恭久厚生労働相は、自民党政調会の茂木敏充会長、田村憲久会長代理と向かい合っていた。東京五輪までに屋内での禁煙を制度化しようと動いた塩崎氏に対し、愛煙家のタバコ議員が「飲食店から客足が遠ざかる」と反発。そんな党と政府の対立を収めようという話し合いだ。だが会談はあっけなく決裂。「頭の固い大臣では話にならない」と党側から怒りの声が上がった。

 だが受動喫煙問題では無視できない数字がある。厚労省が「受動喫煙が原因で年間1万5千人が国内で死亡」という推計を昨年公表。肺がんだけではない。虚血性心疾患や脳卒中、乳幼児突然死症候群の原因にもなるという。

「目指すは分煙先進国」

 受動喫煙の防止は禁煙ゾーンの拡大しかないと考えた厚労省は、法案化を自民党に働きかけ始めた。国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)も五輪開催国に「たばこのない大会に」と呼びかけ。それに呼応し、ロンドン五輪以降は開催地で屋内禁煙の法制化が続く。

 一方で日本も2004年、たばこ規制枠組み条約(FCTC)に参加している。180カ国が加盟するこの条約は屋内での喫煙を規制。だが批准こそしたものの、国内法の改正が進まず、「努力目標」に留まっていた。そこで3年後に待ち構える東京五輪に向け、安倍首相は施政方針演説で「受動喫煙対策に取り組む」と表明。塩崎厚労相も「国際的に見ても恥ずかしくない法律を作る」と意気込んでいた。打ち出したのは「原則屋内禁煙」。これに猛反対したのが自民党たばこ議員連盟だ。

「選択の自由が大事だ。受動喫煙を防止するなら、目指すは分煙先進国。世界標準に合わせなくてもいい」(野田毅たばこ議連会長)

●首相が財務省を忖度?

 議連の主張は、厨房も合わせて150平方メートル以下の飲食店には禁煙を義務付けず、入り口に「分煙」や「喫煙」と表示し、客の選択に委ねればいいというもの。一方の厚労省は、30平方メートル以下のバーやスナックでの喫煙を認めると譲歩したが、党側の理解は得られなかった。

 

 ここで不思議なのは、安倍首相がお得意のリーダーシップを発揮していないことだ。

「共謀罪」では、条約加盟に法改正が欠かせない、五輪のために必要と首相は説明したが、受動喫煙対策も同じはず。党総裁でもある首相はなぜ傍観するのか。ある自民党議員は「安倍首相の忖度では」と推測する。

 我が世の春の首相が忖度する相手などいるのか。答えは「財務省」。この議員などによると「首相は森友学園で財務省に大きな借りがある」という。つまり森友問題で“悪役”を一手に引き受けた財務省は、昭恵夫人もろとも窮地に立った安倍夫妻を救った。首相は消費増税で財務省とそりが合わなかったが、今回の一件で財務省が「頼りになる」と気づいたというのだ。

 加えて喫煙規制で打撃を受けるのは、財務省の直轄地の日本たばこ産業(JT)。実は歴代社長は旧大蔵省の天下り。最近3代こそ生え抜きが社長だが、会長として君臨するのは元財務省次官の丹呉泰健氏だ。たばこ議連の後ろ盾はJT・財務省連合、表の顔が野田会長というわけだ。

 放置される受動喫煙対策の敗者は塩崎厚労相だけではない。国民の8割は非喫煙者だ。ある自民党関係者はこう予想する。

「法案ができる前に、大臣のクビのすげ替えがあるのかも」

(ジャーナリスト・山田厚史) ※AERA 2017年6月19日号

五輪は紫煙でお・も・て・な・し 進まぬ受動喫煙防止対策〈AERA〉

因縁の二人。財務省を背負う野田氏と安倍首相はことあるごとにぶつかってきたが、今回安倍首相は動かなかった