受動喫煙 全面禁煙で公害化を止めよ イチロー・カワチ

2017年6月2日06時45分 朝日 http://digital.asahi.com/articles/ASK6224VVK62UBQU002.html 

 

 受動喫煙対策を強化する法改正を巡り、自民党が5月20日、「未成年が立ち入らなければ、飲食店は『喫煙』『分煙』などの表示つきで喫煙を認める」という案を提案した。

 日本での受動喫煙を巡る議論は、たばこの煙を吸いたくない非喫煙者の「権利」と、たばこを吸いたい喫煙者の「権利」を争う構図が描かれがちだ。だが、受動喫煙は権利の問題を論ずる段階ではもはやない。

 日本では受動喫煙が原因で約1万5千人(推定)が毎年亡くなっている。交通事故死の3倍を超す死者が出ている受動喫煙は、現代日本の「公害」である、と言っても過言ではない。

 工場は環境を汚し続けることで利益を上げられるかもしれないが、周辺住民の健康を害してまでの利益追求は許されない。同様に、周囲の非喫煙者の健康を害してまで、喫煙者の嗜好(しこう)を許すことはできない。

 議論に上る「完全禁煙で飲食店の売り上げが減る」という指摘はあたらない。世界保健機関(WHO)の付属機関の報告では、屋内全面禁煙に切り替えた国や地域の飲食店などを調べた研究のほとんどで、売り上げは変わらなかった。

 売り上げ以前に、毎年1万5千人もの命に影響する問題だと改めて認識するべきだ。世界には受動喫煙肺がんや心筋梗塞(こうそく)を起こすことで人の命を奪っていることを示す研究結果が十二分に存在している。もはや議論の余地などない。日本が国として、人の命と売り上げのどちらを優先させるべきかは明らかだろう。

 19世紀の英国の哲学者ミルは著書「自由論」で、個人の自由の制限が正当化されるのは、「その個人が他人に危害を加えているときのみである」(他者危害の原則)としている。

 毎年3月、ハーバードの学生による「ジャパントリップ」という日本への視察旅行がある。ハーバードの学生は、日本の清潔さや健康的な食事を目にして、「世界で最も健康な国」のひとつである日本の暮らしぶりに感心する一方、飲食店に入り、まだ喫煙できることに衝撃を受ける。世界の多くの国の飲食店は全面禁煙が「標準」だからだ。

 日本が「健康な国」であり続けるためにも、受動喫煙が現代日本の公害とならないためにも、飲食店の全面禁煙を実現するべきだ。