禁煙した居酒屋、売り上げは… 飲食店の喫煙なぜ争点?

2017年6月6日11時08分 朝日 http://digital.asahi.com/articles/ASK623RCTK62ULBJ008.html 

 

 人が吸うたばこの煙によって健康を害される恐れがある受動喫煙。対策を強化する健康増進法改正案の今国会への提出が検討されてきたが、次の国会に先送りされることになった。争点となったのは飲食店での喫煙。屋内を原則、禁煙とする厳しい規制を盛り込んだ厚生労働省案と、一定面積以下ならば表示すれば喫煙可とした自民党案の溝は大きく、合意できなかった。

 

たばこを吸わない人の健康と、吸う人の権利について、町の人はどう考えているのか。記者が5月末、東京都港区の飲食店や喫煙所を訪ねた。

 JR新橋駅から徒歩5分。囲炉裏で焼く魚介類や豊富な日本酒が売りの居酒屋「方舟(はこぶね)」は今年1月、店舗内を禁煙にした。客層は30~40代のサラリーマンが中心で、半数以上は喫煙者。店長の藤田尚嗣さんは「お客さんが減るかも、という心配はもちろんあった」と明かす。

 最初の2カ月は、入店時に「禁煙」と知り、他の店に行ってしまう客も6、7組ほどいた。その後はそうしたことはなくなり、喫煙できた昨年の同時期と比べて売り上げは、ほぼ同じ。居酒屋の運営会社は、他の系列店での禁煙化も検討しているという。

 たばこを吸わない会社員の男性客(47)は「出張先の欧米の飲食店では吸えない。日本も世界標準に近づけるべきだ」。

 一方、喫煙できるほかの店がいっぱいだったから来店したという喫煙者の会社員男性(36)は不満げだ。「たばことお酒の組み合わせは最高。喫煙者だけで飲みに行くなら、禁煙の店は選ばない」。飲食店の受動喫煙対策について尋ねると、「国がたとえ禁煙にしても、こっそり吸わせる店が出ると思う。ある程度は吸える環境を残したほうが、みんながルールを守るはず」。

 別の居酒屋では、喫煙を希望する客がいると、灰皿を渡して喫煙を認めている。客席が30平方メートルに満たず、テーブルの間隔が狭いため、たばこを吸う客と吸わない客の距離が近くなることもしばしば。店主は「吸わないお客さんは、煙が嫌だろうなあと思うけど、店側から喫煙者に『吸わないで』とは言えない。いっそのこと法律で規制して、飲食店を禁煙にしてくれたほうがいい」と話した。

 この居酒屋はランチ営業もする。昼も喫煙は可能だが、自主的に店外に出て吸う客が多く、店内での喫煙は夜ほどはないという。

 厚労省案、自民案のいずれでも、事務所や集会場などは原則禁煙となり、たばこを吸うには煙がもれないように独立した喫煙室を設置しなければならないとしていた。

 港区の喫煙所で昼間、たばこを片手に休息をとっていた会社員にも話を聞いた。

 山中正樹さん(46)は「最近は吸える場所がどんどん少なくなっていると感じる。喫煙者は肩身が狭いよ」。受動喫煙対策の強化が検討されていることについては「時代の流れでしょうがない。でも喫煙者はないがしろにされているみたいで悲しい思いもある」と話した。

 別の男性(36)は「喫煙できる場所が減れば、路上とか飲食店の出入り口で隠れて吸う人が増えて、吸い殻のポイ捨てが増えそう。喫煙所をもっと増やしてほしい」と話す。「周囲を気にせず、吸う人がいるのが問題だ。喫煙者も吸う権利ばかり主張しないで、マナーには気をつけないと」(福地慶太郎、黒田壮吉)

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 〈受動喫煙〉 国内の受動喫煙対策は、2003年に健康増進法が施行され加速した。これを機に、禁煙や分煙に踏み切る施設が増えた。だが施行から十数年がたち、自助努力などの限界も見えてきた。厚生労働省の調査では、過去1カ月間にたばこを吸わない人の4割が飲食店で、3割が職場で、受動喫煙に遭っている。厚労省研究班の推計によれば、命を失う人は年間約1万5千人にのぼるという。

 日本も批准する、たばこ規制枠組み条約の指針は、屋内禁煙を唯一の解決法とし、罰則付きの法規制を求めている。公共の場を全て禁煙にしたのは、14年時点で英国など49カ国にのぼる。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、世界保健機関(WHO)はたばこのない五輪を求めている。