灰皿続々撤去、広がる戸惑い 受動喫煙対策進む東京都心

2019年5月15日10時49分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/ASM586G02M58UTIL06D.html

 

 国や自治体の役所から灰皿が次々と姿を消している。改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の施行にあわせて、行政機関の建物内が7月から完全禁煙となるためだ。さらに都内では来年4月から、どんなに小さな飲食店でも、従業員がいれば規制の対象になる。「経営に響く」と戸惑う声があがっている。

 東京・霞が関文部科学省。昼休みになると、かつては建物内のあちこちの喫煙所で紫煙をくゆらせる姿が見られた。

 しかし19カ所あった喫煙所は昨夏、6カ所に。さらに6月末までにすべてが撤去される予定だ。担当者は「有無を言わさずなくしていく」と言い切る。国土交通省も喫煙所15カ所をなくす予定で、貼り紙や会議の場で周知を図っている。

 東京都中野区も、区役所の内外にあった3カ所の喫煙所を撤去した。残る1カ所も6月に廃止する。4月には区立中野体育館の駐輪場近くにあった円筒形の灰皿も片付けており、区の担当者は「健康被害をなくすため、できるところから実施している」と話す。

 板橋区は、屋内の禁煙が進むことで、かえって路上喫煙が増えるのではとの懸念から、対策としてコンテナ型などの公衆喫煙所の設置を検討している。「喫煙自体は違法ではない。喫煙する空間の確保と受動喫煙の防止を両立させる必要がある」と担当者は言う。事業者ら向けの窓口も設け、喫煙所設置の補助制度などについて相談を受けているほか、どんな対策をとれるか有識者らが議論を重ねている。

 悩みを深めているのが飲食店の経営者だ。

 改正法では来年4月以降、客席面積が100平方メートルを超える飲食店は、禁煙とするか煙が漏れない喫煙専用室を設置するかが義務づけられる。全国で約45%の飲食店が、規制の対象となる見通しだ。

 都内の飲食店はそれにとどまらない。面積にかかわらず、従業員がいるすべての飲食店で同様の対応が義務づけられ、対象は都内の飲食店の約84%、約13万6千店に上る。

 新宿駅近くのビルにあるバー「7th(セブンス)」。10坪(約33平方メートル)の広さはカウンター6席、テーブル18席で埋まり、現在はすべて喫煙可だ。客の多くがたばこを吸うという。従業員が1人いるため、都の条例によって禁煙か喫煙専用室の設置を選ばなければならない。しかし、店内はトイレも更衣室もないほどの狭さで、オーナーの森健さん(47)は「喫煙室をつくれば、座席が減って売り上げ減に直結してしまう……」。愛煙家の客の思いを考えると禁煙にも踏み切れず、「どうすればいいのか決められない」とこぼす。

 創業60年超の新宿区居酒屋「どん底」も、いまは約80席すべてで喫煙可だ。店長の宮下伸二さん(45)は「客にリラックスしてもらうのが私たちの仕事。その一つとしてたばこも必要だ。経営者と、店を選ぶ客の判断に任せてほしい」と訴える。制度の全面施行まで1年を切った。

保健所は人手に不安

 都の電話相談には、昨年9月から今年3月末までに飲食店などから約1500件の相談があった。「どういう規制なのか」「喫煙所をどうつくればいいのか」といった内容が約7割を占めたという。

 都は約21億円かけて、喫煙室の設置費の補助制度などをスタート。今年に入って事業者や市区町村を対象とした説明会を4回開き、制度を知らせるパンフレットも12万部つくった。担当する宮川智行・健康推進事業調整担当課長は「まずは条例の中身を知ってもらい、理解してもらうことが大事だ」と話している。

 歌舞伎町などの繁華街を抱える新宿区は、保健所の職員を4月から2人増やし、受動喫煙対策の担当にあてた。さらに3人を相談業務にあてるという。

 条例違反を調べる実務は区が担うが、区内全体で飲食店は1万5千店近くに上る。担当者は「人手が足りるのか、まったく見えない」と不安視する。

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 《改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例》 改正法は2018年7月、条例は同6月に成立した。他人のたばこの煙による健康被害をなくすため、多くの人が利用する施設について喫煙を規制。罰則もあり、学校や行政機関、病院は今年7月から建物内の完全禁煙が義務づけられ、来年4月からは飲食店でも喫煙が規制される。都の条例は従業員の保護を重視し、改正法よりも対象を広くした。今年9月から都内の飲食店は、「禁煙」「喫煙」などの表示も義務づけられる。千葉市大阪府など、独自の規制を盛り込んだ条例を制定する動きはほかにも広がっている。

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