社員の禁煙、企業出走 「卒煙ダービー」成功予想、みんなで応援 あす世界禁煙デー

2019年5月30日16時30分 朝日 https://digital.asahi.com/articles/DA3S14036508.html?iref=pc_ss_date

 

 31日は世界禁煙デー受動喫煙のない社会を目指す来年4月の改正健康増進法の全面施行を前に、企業があの手この手で社員の禁煙に取り組んでいる。社員同士で禁煙を競わせたり、ネットによる禁煙外来の受診を促したりしている。喫煙者はそもそも採用しないといった動きも広がりつつある。

 「アサノブラック」、喫煙歴20年以上、卒煙方法は禁煙外来、気合――。

 ロート製薬上野テクノセンター(三重県伊賀市)の「卒煙ダービー」。出走表には◎、△など禁煙できるかどうかの予想も書かれている。レース期間は禁煙外来の基本的な治療期間と同じ3カ月だ。

 同社全体の喫煙率(2019年4月現在)は7・7%。ただ、センターに限ると33%(18年4月)と社内で最も高かった。そこで、有志の社員がダービーを企画。禁煙を目指す社員を募り、18年7月と19年1月に2回開催した。

 レースでは、センターの社員450人が出走者に1人1票を投じて、励ましたり、見守ったりするサポーターになる。卒煙に成功すればオッズに従い、サポーターは社員食堂の焼きたてパンなどがもらえる。

 これまでの参加者20人全員が卒煙に成功した。参加した阿部誠さん(36)は「今まで何回か禁煙に挑戦したが、できなかった。今回は周囲の支えもあり、やめやすかった」と話す。

 2020年までに社内の喫煙率ゼロの目標を掲げる同社は、19年から卒煙した社員に社員食堂の食事券に使える社内通貨をプレゼントするなどして、禁煙を後押しする。

 20年4月に全面施行される改正健康増進法で多くの施設が原則、屋内禁煙になる。

 今年4月には23の企業や団体が集まり、「禁煙推進企業コンソーシアム」が結成された。政府が「がん対策推進基本計画」で掲げる「22年度までに喫煙率12%」を共通の目標とする。

 ソフトバンクは4月から外出先を含め、就業中は禁煙にするという取り組みを段階的に始めた。まずは毎月最終金曜日に実施し、来年4月に全面的に禁煙とする。味の素も今月27日、来年7月までに全事業所で就業時間内は全面禁煙にすると発表した。

 スマートフォンやパソコンを使い、ネットで医師が診察する禁煙治療を導入する企業の健康保険組合もある。日産自動車や丸井などの19健保が昨年から共同で、治療の効果を検証する事業に取り組んでいる。わざわざ医療機関に足を運ばずに済むので人気だ。

 参加者は8週間で4回、ネットで医師の診察を受け、禁煙のための治療薬が自宅に届く。今年3月末時点で、参加した385人のうち、249人が禁煙に成功した。日産健保の担当者は「自宅で診療が受けられるため、周りの目を気にせず禁煙に取り組める。参加者からも好評だ」と話す。

 ■採用対象「入社時、たばこやめている人」

 そもそも喫煙者を採用しない企業も出てきている。

 損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険は4月、20年度に入社する新卒募集対象を非喫煙者か、入社時点でたばこをやめている人に限ると発表した。「健康応援企業」を掲げ、医療相談など健康増進を助けるサービスを提供しており、広報担当者は「社員が不健康では説得力がない」と話す。「健康に前向きなマインドを持つ学生を発掘することができている」という。

 喫煙者不採用の草分けは02年に始めた星野リゾートだ。当時、ヘビースモーカーだった男性社員(当時60歳)が肺の病気で亡くなった。星野佳路代表は「もっと生きたかった」という言葉を聞いたという。「社員は家族」と唱える星野代表は「もっと健康への注意を促すべきだった」と悔やみ、社員の禁煙と喫煙者不採用を始めた。また、喫煙の時間をなくして生産性を上げるのも狙いの一つという。担当者は「サービス向上にもつながっている」と話す。

 一方、「個人の嗜好(しこう)を選考基準とするのはいかがなものか」といった指摘もある。たばこを吸うかどうかを採用の基準とすることに問題はないのか。労働問題に詳しい、佐藤正知弁護士は「採用側には『採用の自由』が認められており、社員の健康を維持するためなどの理由ならば許容されるのではないか」という。一方で、「喫煙者の賃金を減らすといった行き過ぎた行為がないように注意する必要がある」と話す。

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