社説 受動喫煙の対策法案/たばこなし五輪、程遠い

中國新聞/2018/2/24 10:00 http://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=412733&comment_sub_id=0&category_id=142 

 

 他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙の被害対策を強める厚生労働省の健康増進法改正案を、自民党が大筋で了承した。
 2020年の東京五輪・パラリンピックまでに全面施行することを目指し、政府は3月にも国会に法案を提出するという。
 「一歩踏み出した」「決められる政治」と、自民党としては前向き姿勢を示すつもりなのだろう。だが内容は当初の案から大きく後退した。国際水準から見ても甘い規制であり、早速批判が出るのも無理はない。
 これでは東京五輪にも世界から厳しい目が注がれるのは間違いない。健康を本当に守り、また東京五輪を誇るべき大会にしたいのなら、より実効性のある規制に練り直すべきだ。
 法案は、多くの人が集まる飲食店やホテル、職場などの建物内を原則禁煙とし、罰則も設けている。
 一方で、客席面積100平方メートル以下で資本金5千万円以下の既存飲食店は、店頭に「喫煙可」と表示すれば喫煙を認める。また、原則禁煙の建物内であっても「喫煙専用室」を設ければ喫煙できるとした。
 なぜこれほどの例外を認めたのか、嘆かわしい。もともと厚労省が昨年示した案では、喫煙を認めるのは30平方メートル以下のバー・スナックに限っていた。
 ところが自民党の一部議員らが猛反発して、1年余りの議論に。ようやく法案がまとまりはしたが、例外店舗の面積を大幅に広げてしまった。
 厚労省の試算では、55%の飲食店が喫煙可になるという。東京都内では大半の飲食店が喫煙可能になるとみられる。これでは「骨抜き」の規制だ、実効性に疑問が残る—と指摘されるのも当然ではないか。受動喫煙対策に党として本気で取り組む気があるようにはみえない。
 おとといの自民党の厚労部会では、「飲食店に配慮した中途半端な内容だ」といった反対意見が出ていた。前厚労相の塩崎恭久氏も「これまでの五輪開催国より見劣りする」と訴えていたが、押し切られた。
 そもそも受動喫煙対策に取り組む背景には、国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が10年に「たばこのない五輪」の推進を掲げたこともある。
 実際にそれ以降、五輪を開催する国・都市は全て、罰則のある厳しい受動喫煙対策を実現している。
 今回の規制案は、原則禁煙とする飲食店でもたばこを吸うためだけの「喫煙専用室」の設置を認めているが、ブラジルなど5カ国は認めず全面禁煙を実施している。
 また、WHOの17年の資料によると、公共の場所全てを屋内全面禁煙としている国は既に55カ国に及ぶという。
 そういった世界の潮流や制度に比べ、日本の対策は遅れていると言わざるを得ない。1年以上かけて練った結果がこれでは恥ずかしい。
 五輪開催地である東京都の小池百合子知事は先日、4月から都庁や出先機関を全面禁煙にすると表明した。実効性のある独自の受動喫煙防止条例案を検討する考えだ。他の自治体でも模索する動きが出始めている。
 国会で法案を追及、修正し、せめて国際水準にかなう防止策とせねばならない。