時評 受動喫煙対策 健康増進の原則を崩すな

デーリー東北/2018/2/9 10:05 http://3coco.org/a/modules/d3pipes_2/index.php?page=clipping&clipping_id=75563   

 

 受動喫煙防止を目指す懸案の法案が固まりつつある。厚生労働省は3月にも国会に提出する健康増進法改正案を公表し、大半の飲食店で喫煙を認める内容を示した。大きな後退である。健康増進の原則に立って見直すよう求めたい。

 2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、受動喫煙防止の強化は差し迫った課題の一つといえる。国際オリンピック委員会と世界保健機関(WHO)は「たばこのない五輪」を推進、近年の五輪は全て罰則付きで受動喫煙対策を取った都市で開かれてきた。

 WHOたばこ規制枠組み条約が日本も批准して05年に発効してから13年。今や55カ国が公共の場での屋内全面禁煙を法制化し、15億人の健康が守られている。一方、日本は飲食店や職場などの多くの場所で喫煙でき、WHOは「規制レベルが最低ランク」としている。

 状況を変えるには、屋内全面禁煙を原則とする受動喫煙防止の法制化が欠かせない。受動喫煙で年に1万5千人が国内で亡くなると推計されている。がんや呼吸器疾患などの罹患(りかん)率も受動喫煙で高まる。

 厚労省は昨年、30平方メートル以下のバーやスナックを除いて全面禁煙とする法案を策定していたが、自民党の反対で国会に提出できなかった。今回の法案で、「喫煙可」と示してたばこが吸える飲食店は客席100平方メートル以下が有力になっている。

 これは40~50人の客が入れる広さで、東京都の調査では該当する店が9割もある。これでは例外と言えず、ほかの客や従業員の健康は守れない。

 普及しだした加熱式たばこも、発がん物質が出るため、紙巻きより緩いが、規制対象にする。大手チェーンや法施行後の新規開業店は原則禁煙、病院や学校、官公庁の敷地内禁煙とするなどは評価できる。しかし、大半の飲食店に喫煙を認めるのは致命的欠陥である。

 自民党は昨秋の総選挙で受動喫煙対策徹底を公約に掲げていた。自民党が法案を骨抜きにすれば公約違反になる。厳しい規制を検討していた東京都は政府の法案との整合性を理由に、独自の条例案提出を先送りした。

 喫煙率は年収が低い人ほど高い傾向にある。場末の居酒屋にたばこの煙がもうもうとして、高級レストランにはきれいな空気が漂う。貧しい人はますます病気になりやすく、健康格差を生む一因にもなっている。広く禁煙を促すためにも、公共の場での公平な受動喫煙防止は重要だ。