社説 受動喫煙防止対策 骨抜きの規制では健康守れない

2018年2月3日(土)(愛媛新聞) https://www.ehime-np.co.jp/online/editorial/ 


 厚生労働省が、当初案を大幅に後退させた受動喫煙防止対策をまとめた。今国会に健康増進法改正案を提出する考えだ。

 2年前、厚労省は原則屋内全面禁煙の目標を掲げた。ところが外食産業やたばこ業界から支援を受ける自民党が反発。昨年3月に30平方㍍以下の飲食店を例外とする譲歩案を示したが、調整がつかず、法案提出できない状態が続いた。今回、厚労省は早期法案成立と引き換えに、例外的に喫煙できる対象を大幅に広げ、当初案を骨抜きにする自民案を丸のみした格好だ。健康に関わる問題であり、安易な妥協は到底許されない。

 大きく後退したのは飲食店の規制だ。大手チェーン店や新規開業店は原則禁煙とした一方、小規模の既存店は「例外」として、「喫煙」「分煙」と表示すれば喫煙を認めている。面積は自民党が主張する150平方㍍以下を軸に調整している。しかし例えば東京都内では150平方㍍以下が全体の9割超で、ほとんどが例外となる。従業員の受動喫煙も防げず、実効性はないに等しい。

 厚労省は、「例外」は一時的として、いずれ見直すとしている。だが見直し時期は設けていない。この先、受動喫煙の被害が長く続くとの懸念が募る。

 自民が反対の理由とする「飲食店の売り上げ減少」は説得力に欠ける。米国の国立がん研究所は昨年、禁煙によって飲食店の客が減ることはないとの分析結果を発表した。日本の喫煙率は2割を切っている。禁煙にすれば、店を利用したいと考える人も増えるだろう。自民が言うほど影響は大きくないはずだ。

 一方、国より厳しい禁煙条例を模索してきた東京都の小池百合子知事も、2月都議会での提案を見送った。「国と整合性を図る必要がある」との突然のトーンダウンには違和感が拭えない。「国の一歩先を行く」と盛り上げた機運を後退させてはならない。

 2020年の東京五輪への影響も危ぶまれる。世界保健機関(WHO)は、受動喫煙防止の有効策は屋内の全面禁煙しかないとして、国際オリンピック委員会(IOC)とともに「たばこのない五輪」を開催地に求めている。飲食店など公共の場での屋内喫煙を法律で禁止する国は、近年の五輪開催国を含む約50カ国に上る。WHOの格付け(4段階)では、日本は「最低レベル」と評価され、新たな対策でも1段階上がるだけ。「東京五輪までに受動喫煙のない社会を」と厚労省自ら掲げた目標からも、遠ざかるばかりだ。政府与党として、無責任のそしりは免れまい。

 政府与党は五輪のテロ対策に不可欠だからと「共謀罪」法を強行成立させるなど、五輪を都合良く利用してきた。たばこ規制に限って、五輪を無視してもいいというのは筋が通らない。屋内全面禁煙の実現に向け、五輪を好機として対策を練り直さねばならない。