小池都知事が密かに狙う?「受動喫煙防止」は都議選の争点になるか
自民が業界寄りなのをチャンスと見て…

 現代ビジネス 2017.5.10  磯山 友    http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51679

 

都議会選挙の争点に?

飲食店内での受動喫煙防止を狙う法律案を巡って、国際水準並みの禁煙規制を主張する塩崎恭久・厚生労働相と、自民党のたばこ議員連盟(会長・野田毅衆議院議員)の対立が、抜き差しならない状況に直面している。

自民党は5月8日、茂木敏充政調会長が党内の規制強化派と慎重派の間に立って妥協案を取りまとめ。屋内禁煙を原則と言いながら、小規模飲食店では「喫煙」や「分煙」の表示さえすれば喫煙を認める内容。30平方メートル以下のバーやスナックを除いて飲食店内を全面禁煙するとしていた厚労省の原案が、大幅に「骨抜き」されかねない状況になった。今後の塩崎厚労相の対応に注目が集まっている。

塩崎厚労相は「2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、日本だけが喫煙大国という訳にはいかない」として、国際標準である屋内全面禁煙にこだわる。英国、ブラジル、韓国といったオリンピック開催国・開催予定国はいずれも屋内全面禁煙に踏み切っている。国際オリンピック委員会やWHO(世界保健機関)も「たばこの無いオリンピック」を掲げ、日本にも対応を求めている。

こうした流れを受けて、自民党内でも受動喫煙防止議員連盟(会長・山東昭子参議院議員)や歴代厚労相経験者らが、厚労省案を支持する姿勢を見せていた。

一方で、たばこ議連の規制反対の動きには、たばこ生産農家や地域の小規模飲食店といった自民党の支持層が同調。たばこが依然として大きな税収源であることもあり、規制強化に抵抗する声が自民党内の主流となった。受動喫煙防止議連の主張はたばこ議連に封じ込められる結果になった。

塩崎厚労相は、日本人7割以上がたばこを吸わないことを考えれば、「サイレントマジョリティは厳しい規制を求めている」として一歩も引かない構え。最終的には首相官邸の裁定に従うことになるとみられる。

そんな首相官邸が動向を注目しているのが、オリンピック開催都市である東京都の小池百合子知事。実は、自民党が厚労省原案を「骨抜き」にするのを、手ぐすね引いて待ち構えているのではないか、という見方が浮上しているのだ。

というのも厚労省は事務次官らが小池氏のブレーンらを直接訪ね、厚労省案への支持を求めていた、という。東京都が室内全面禁煙を主張すれば、自民党のたばこ議連の主張を封じ込めることができると考えたのだろう。塩崎大臣の指示があったともされる。

ところが小池氏側からの反応は「厚労省に塩は送らない」というものだったという。その反応を聞いた同省幹部は「ポリティカリィ・コレクト(政治的には正解)だな」と漏らしていた。

小池知事からすれば、早々に厚労省を助けて自民党を敵に回す必要はない。それよりも、自民党が国際水準に背を向け、業界利益を代弁する「骨抜き案」を通してくれれば、それを7月の都議会議員選挙の争点にできる、と考えたのではないか、というわけだ。

自民党にとってはケムたい小池知事

都議会議員選挙に向けては小池新党「都民ファーストの会」を立ち上げ、すでに候補者を公認している。ところが今ひとつ、都議会自民党との対抗軸がはっきりしない。都議会で過半数を取らなければいけない「大義」が見えて来ないのだ。築地市場の豊洲移転問題は、知事がどう決断しても批判は免れない事案で、都議選の争点に小池新党が取り上げるのは不利だ。

当初、「都議会のドン」こと内田茂都議による“都議会支配”の打破を掲げていたが、内田氏が議員引退を表明したことで、都議会自民党と激突する「争点」にはならなくなってしまっている。

そんな中で受動喫煙問題を小池知事が取り上げる可能性が出てきたと、首相官邸も危惧する。「業界寄り」の自民党が国際標準を無視して、「表示」による分煙や喫煙を認めれば、従業員やアルバイトの受動喫煙は防止できない。

分煙では、職場の懇親会などの会食で喫煙可能な部屋に入ることを社員が拒否できないケースが生じ、不本意な「受動喫煙」をすることにつながる。また、高校生アルバイトを含む従業員にも受動喫煙を強いることになる。

「アルバイトに行ったら髪の毛がたばこ臭くなるほどタバコの煙にさらされる、そういう法律を自民党は通したんです」と自民党を批判。東京都独自の厳しい条例を制定するには、都議会で過半数を占める必要があると主張する。そんな小池知事の姿が登場する事を官邸の一部が恐れているというのだ。

自民党の中には、「いやいや元々、小池さんはヘビースモーカーで、受動喫煙防止にはまったく関心がない」と楽観視する声もある。もっとも、政府が受動喫煙を事実上放置することになりかねない自民党案を法案として採用した場合、それまで「サイレント」だった多数派がどんな動きに出るか分からない。それによっては小池知事が一転して「激しい嫌煙派」に転換する可能性は十分にある。

それでなくとも自民党の苦戦が懸念されている都議選を控えて、受動喫煙問題が予想以上の注目を集める可能性もある。