社説 「卒煙」促す施策の強化を

京都新聞 2018年08月19日 https://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20180819_3.html 

 

 たばこの害による総損失額は年間2兆500億円に上ることが厚生労働省研究班の推計で明らかになった。喫煙に起因した経済損失が国家予算の約2%にも相当するとは驚きだ。
 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて先月、改正健康増進法が成立し、他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙をなくす対策は不十分ながらも強化される。だが社会全体に大きな損失をもたらす喫煙そのものに対する施策が不可欠ではないか。
 たばこが原因で国内では年間100万人以上が肺がんや脳卒中、歯周病、認知症などを発症し、喫煙者本人の死亡は10万人を超す。受動喫煙でも推計約1万5千人が亡くなっている。
 研究班が2015年度の統計資料を基に分析した結果、たばこによる喫煙者自身の医療費は1兆2600億円に上り、受動喫煙でも3300億円の医療費を要し、歯の治療費に1千億円かかった。喫煙による健康被害で必要になった介護費用は2600億円、たばこの不始末で起きた火災の消防費用が980億円だったことも判明した。
 たとえば政府が進める幼児教育・保育の無償化などを柱とする「人づくり革命」と称する政策パッケージには約2兆円が投じられる。それに匹敵する巨額の損失を喫煙が招いているとすれば看過できない。
 20年4月に全面施行される改正健康増進法は受動喫煙防止が主眼だが、自民党議員らの抵抗で規制に大きな穴があき、世界に誇れる対策とは言い難い。まして直接     「卒煙」促す施策の強化を喫煙への対策は置き去りと言っても過言でない。
 16年国民健康・栄養調査によると、習慣的に喫煙している人の割合は18・3%。喫煙率は男女ともに減少傾向とはいえ、欧米諸国と比べると日本の喫煙率は依然として高い。ただ、同じ調査で喫煙者の27・7%が禁煙を希望し、30・6%がたばこの本数を減らしたいと回答した。過半数が「卒煙」への意思を示しているとも読み取れる。
 禁煙は自分一人では難しい。禁煙外来での治療は効果的とされ、保険診療も受けられる。補助薬や周りのサポートといった手を借りてもいい。灰皿を処分するなど環境づくりも大切だ。
 日本の禁煙対策は世界で「最低レベル」と批判されている。
 たばこの包装に健康被害を警告する表示は、たばこ規制枠組み条約で定められ、喫煙率を押し下げる効果がある。生々しい疾病画像などを印刷させる諸外国に比べ、日本の警告は生ぬるい。包装一つをとっても世界の潮流とかけ離れている。
 欧米などより割安なたばこの値上げも禁煙施策として有効だろう。値上げにより年間2兆1200億円(16年度)に上るたばこ税の減収が懸念されるとはいえ、喫煙による経済損失がほぼ同額であることは無視できまい。
 五輪を機に動きだした「脱たばこ」の機運を受動喫煙対策にとどめず、国民の健康を増進する禁煙の強化につなげたい。喫煙者には酷かもしれないが、一人一人が健康被害や経済損失、家族の負担といったリスクを抱えていることを自覚することが「卒煙」への第一歩となる。