受動喫煙対策法

禁煙範囲は政令次第 罰則実施に課題残す

毎日新聞

 

 受動喫煙対策を強化する改正健康増進法が18日、参院本会議で自民、公明、国民民主などの賛成多数で可決、成立した。公共の場での屋内禁煙を初めて罰則付きで義務付けたが、詳細な制度設計は政令や省令に委ねられており、決め方次第で、規制対象外の「抜け道」が増える恐れもある。全面施行は東京五輪・パラリンピック前の2020年4月。飲食店での喫煙を認める例外規定があるため、世界保健機関(WHO)の対策の格付けでは、4段階の最低ランクから一つ上がるだけだ。

 改正法が規制するのは「多数の人が利用する施設」での喫煙。公共機関やサービス業はもちろん、一般客が訪れない事業所なども対象で、自宅やホテルの客室など私的な空間以外は対策を求められることになる。

 「成立で一息つく暇はない。むしろこれからが大変」。厚生労働省幹部は先を案じる。法律では未記載の多くの点を、政令や省令、法解釈の通知で具体化しなければならないからだ。

 例えば、焦点となった飲食店規制。喫煙専用室以外では原則屋内禁煙だが、煙を外に漏らさないための専用室の基準は今後定める。他にも、喫煙を一定期間は認める小規模既存店の「既存」の定義▽違反があった際に50万円以下の罰則を科す管理者は「経営者」か「店長」か▽テラス席の「屋内・屋外」の線引き--など、項目は数百に上るとみられる。これらのさじ加減で、喫煙可能な空間は広がりも狭まりもする。

 学校、病院、行政機関といった施設の規制は、飲食店より早く来年夏ごろから始まる。厚労省幹部は「遅くても今年中には詳細を決める必要がある」と話す。

 規制の実効性をどう持たせるかも大きな課題だ。神奈川県は10年、兵庫県は13年に、国に先行して受動喫煙防止条例が施行されたが、両県とも罰則の適用例は一件もない。

 両県の担当者は「罰則を科すことが目的ではなく、受動喫煙を防ぐ意識を県民に広く持ってもらうことが重要」と意義を説明する。だが、条例が求める分煙基準を守っていないという横浜市中区の居酒屋店主は「客も『注意はされても、結局おとがめはない』と知っている。だから喫煙は減らないし、客に強くも言えない」とこぼす。違反通報への対応や事業者の指導に当たるのは保健所で、人員や予算確保も求められる。

 また、五輪を開く東京都では6月、規模に関わらず従業員を雇っている飲食店は全て原則禁煙とする受動喫煙防止条例が成立した。内容が異なる法律と条例の同時施行で混乱しないよう、喫煙可能場所の掲示方法などで国と都の協議も必要になる。

全席禁煙で客増えた

 改正法成立に先駆け、喫煙が当たり前だった居酒屋でも、国より厳しい「全面禁煙」という対策に踏み切る店が出始めた。

 国内で199店舗を運営する居酒屋チェーン「串カツ田中」(本社・東京都品川区)は、6月1日から184店を全席禁煙にした。このうち、大半の店が完全禁煙だ。

 11日午後7時、JR水道橋駅に近い「串カツ田中水道橋店」は、多くの客でにぎわっていた。場所柄、サラリーマン風の客が目立つが、居酒屋に付きもののたばこの煙やにおいがない。

 よく居酒屋で飲むという男性会社員(31)は、自身は喫煙者ではないものの「たばこの煙はあまり気にならない」と話す。「全席禁煙」のポスターを見て「禁煙のほうがいいかな」と口を開くと、一緒に訪れた友人の女性会社員(31)も「入った時から、きれいでいい店だなと思っていた」と続いた。職場の飲み会などでも「居酒屋はたばこが吸えるものだと我慢していたけど、喫煙者の隣はさすがに楽しめなかった」という。「こういう店が当たり前になってほしい」と笑顔でジョッキを傾けていた。

 同社によると、直営店の6月の売上高は前年比97.1%と微減だったが、客数は同2.2%増。特に、家族連れは6%も増えた。広報担当者は「サッカー・ワールドカップなど客足が遠のく要因がある中、禁煙は懸念するほど売り上げに悪影響を及ぼしていない」と分析。家族連れは新たなターゲットとして重視していたといい「10年、20年後を見据えて、これからも続けていきたい」と意気込む。

 同様の取り組みはファミリーレストランなどでも進みつつあり、サイゼリヤは19年9月から全店原則禁煙の方針を打ち出している。

 一方、改正法と同様に屋内禁煙を罰則付きで義務付ける受動喫煙防止条例のある兵庫県の神戸市中央区でバーを営む男性は、喫煙専用室を設けるには店の「体力」を求められるため不公平だといい、「店舗面積などで禁煙、喫煙を分けるのは客には分かりにくい。国が法律で全面禁煙にするのが簡単なのに」と訴える。