社説 課題多い第3期がん対策計画

 2017/10/28付 日経 https://www.nikkei.com/article/DGXKZO22840000Y7A021C1EA1000/ 

 

 政府は第3期がん対策推進基本計画を決めた。柱の一つとした遺伝情報に基づくがんの診断・治療は世界の潮流であり、早期の実現を望む。一方、受動喫煙対策で数値目標を見送ったのは問題だ。今後の見直しで改善を求めたい。

 がん研究は第2期基本計画が始まった12年から劇的に進み、米欧では診断・治療の際にゲノム(全遺伝情報)を調べるのが当たり前になってきた。

 従来のように胃、大腸など臓器ごとではなく患者の遺伝子の異常に応じて治療法を決める。最適な薬を投与でき生活の質(QOL)向上にもつながる。こうした「がんのゲノム医療」は米欧が先行し日本は周回遅れだった。

 新計画を機に厚生労働省はまず、正確なゲノム解析ができる拠点病院を早急に決め、全国で質の高い診断が受けられる態勢を整える必要がある。国立がん研究センターは積極的にノウハウを提供し、人材育成に努めてほしい。

 ゲノム解析装置を医療機器として承認し、検査を保険の対象とするなどの普及策も要る。患者が解析結果の意味を正しく理解できるよう、カウンセリングの充実も課題だ。人材が不足しており国をあげて育成しなければならない。

 第3期計画はがんの予防も重視しているが、焦点となった受動喫煙の防止策は中途半端だ。

 基本計画案を議論した専門家らの協議会は、20年までに受動喫煙にさらされる人をゼロにする目標を明記すべきだと結論づけていた。しかし喫煙問題を健康増進法改正案にどう盛り込むかをめぐり、厚労省と自民党の調整が難航しているため記載は見送られた。

 行政・医療機関で22年度までにゼロにするなどの目標を掲げた第2期計画よりも後退した印象だ。

 法案が通ったあとに、それに合わせて計画に目標を追記するというが、順序が逆だ。基本計画には協議会の総意としてゼロ目標を書き込み、その実現に少しでも近づけるよう法改正をめざすのが本来の姿だろう。