日経社説 受動喫煙対策を着実に進めよ

2018/6/28付 日経社説 https://www.nikkei.com/article/DGXKZO32327080X20C18A6EA1000/ 

 

 東京都が独自に制定をめざしてきた受動喫煙防止条例が、都議会で成立した。段階的に施行され、2020年4月に全面施行となる。国際オリンピック委員会と世界保健機関は「たばこのない五輪」を推進している。開催都市として都はしっかり準備し、実効性ある規制としてほしい。

 都の条例の特徴は、飲食店を幅広く対象とすることだ。従業員を雇っている店は面積や規模にかかわらず原則屋内禁煙とし、専用のブースの中でのみ喫煙を認める。規制対象は都内の飲食店の約84%の見通しだ。従業員のいない飲食店は禁煙、喫煙を選択できる。

 受動喫煙防止を巡っては、政府の健康増進法改正案が国会で審議中だ。だが同法案では規制対象は全国の飲食店の45%にとどまる。「客席面積が100平方メートル以下」など一定の条件の店を当面の間、例外にできるとしたためだ。

 例外のほうが多くなる政府の改正案は、国民の健康を守るという本来の役割を果たしているとはいいがたい。国の案がここまで緩くなったのは、自民党から強い反対論があったためだ。客足が遠のき売り上げが減少するという、飲食業界の反発は強い。

 だが、禁煙にしても影響は少ないという調査もある。都は受動喫煙対策の意義を丁寧に説明し、専用室の設置補助などを通じて理解を求める努力をしてほしい。公共の喫煙場所を増やすのも大事だろう。

 都の条例では、違反者には5万円以下の過料もある。規制の実効性を高めるためには、店の指導や立ち入り検査などにあたる保健所の体制整備も課題だ。

 たばこによる健康被害は科学的に明らかだ。日本では年間1万5千人が、受動喫煙がなければ亡くならずにすんだとの推計もある。

 飲食店など人が多く集まる場所すべてに屋内全面禁煙を義務づける法律を持つ国は55ある。政府案より対象を広げた都の条例は、国際水準に近づくための一歩だろう。着実に実績を積み上げたい。