社説 受動喫煙対策 規制を骨抜きにするのか

 

 命を守るための法整備を巡る議論が、なぜこれほど後退するのか。憤りを禁じ得ない。

 健康増進法を改正して導入する新たな受動喫煙防止対策案を厚生労働省が発表した。

 懸案となっている飲食店は原則禁煙だが、喫煙室を設置できる。「一定の面積以下」の経営規模が小さな既存店は、例外として喫煙を認めるという内容だ。

 例外措置の対象面積は、150平方メートル以下を軸に自民党と調整しているという。これだと、厚労省が示した当初案の30平方メートル以下から5倍に膨らむことになる。

 大半の飲食店が喫煙可になる恐れが高く、規制はまさに骨抜きになってしまう。例外対象の安易な拡大は認められない。

 厳しい規制に反対する自民党の背後には、「喫煙客が離れる」という飲食業界の懸念があるという。業界に対する「配慮」だとすれば、やや度を越していないか。

 毎年、多くの人が受動喫煙で健康を損ない、亡くなっていることは厳然たる現実である。

 そもそも、厚労省が2016年に示した対策案の「たたき台」では、飲食店は原則禁煙だった。その原点に立ち返るべきだ。

 原則禁煙ですら、喫煙室設置を認めない国際基準には及ばない「甘い規制」である事実を改めて直視する必要がある。

 新たな厚労省案を受け、東京都が2020年東京五輪・パラリンピックに備える受動喫煙防止条例案の提出先送りを決めた。「国の考え方と整合性を図る」という。

 近年の五輪開催都市は全て厳しい喫煙規制を導入している。東京都は条例案提出を急ぎ、受動喫煙対策をリードする姿勢を打ち出すべきではないか。

 受動喫煙防止を求める市民の声は確実に高まっている。福岡市は今月、市役所本庁舎などの屋内全面禁煙に踏み切った。同様の動きは全国の企業などにも広がっている。こうした社会の動向や国民世論に向き合って、実効性のある規制導入に踏み出すよう、改めて政府と与党に求めたい。