<社説> 受動喫煙対策 どこまで後退させるのか

2017年11月21日 山陽新聞 http://www.sanyonews.jp/article/630460/1/?rct=shasetsu

 

 受動喫煙のない社会を目指す。国が掲げたその目標から遠ざかる一方ではないか。受動喫煙防止策を巡り、厚生労働省が、店舗面積150平方メートル以下の飲食店では喫煙を認めるという新たな案を自民党と調整している。

 飲食店の喫煙に関しては、規制を強めたい厚労省とそれに反発する自民党との綱引きが続いてきた。もともと厚労省の専門家会合は2016年に、公共施設や飲食店などでの全面禁煙を提言した。

 その後、厚労省は30平方メートル以下のバーやスナックなどは例外的に喫煙可能とする案に緩和したが、それでも折り合えず、対策を盛り込んだ健康増進法改正案の取りまとめ作業は遅れ遅れになってきた。

 新たな案は飲食店内は原則禁煙としつつ、150平方メートル以下を例外とした。それより広い飲食店では、喫煙専用室を設置すれば認める。一方、新規開業店やファミリーレストランなど大手チェーン店では喫煙を認めないというものだ。医療施設や小中高校は敷地内を禁煙とする。

 しかし、この規制で健康被害を防ぐための十分な効果があるとは思えない。東京都の15年度の調査では、都内の飲食店は7割以上が面積100平方メートル以下だった。150平方メートルにまで例外を広げれば相当数の店が喫煙可能になる。子ども連れで利用するような店も含まれてこよう。

 喫煙室を設ける案に関しても、煙の漏れは完全に防げないことが指摘される。

 自民党の反対派が規制強化に後ろ向きな理由は、タバコ農家の保護や、愛煙家の吸う権利、飲食店の経営への配慮などである。

 だが、経営への影響は限定的との見方もある。例えば、愛知県が全面禁煙に自主的に踏み切った地元の飲食店を調査したところ「売り上げは変わらない」という店が95%を占めた。13年に全席禁煙に踏み切った大手ファミレスも一時的に売り上げが落ちた店もあったが、約3カ月でほぼ同水準に回復したという。

 海外を見ると、既に約50カ国が職場や学校はもちろん、バーを含む飲食店の屋内喫煙を禁じている。世界保健機関(WHO)から、日本の対策は「世界最低ランク」と改善を突き付けられている。

 国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を理念に掲げており、20年の東京五輪・パラリンピックに向けて対応は待ったなしだ。政府は来年の通常国会に改正案を提出したい考えというが、及び腰の規制でお茶を濁しては意味があるまい。

 厚労省の研究班は、受動喫煙が原因で亡くなる人が国内で年間約1万5千人に上るとの推計をまとめている。喫煙規制にデメリットが伴うとしても、まず最優先されるべきは吸わない人を他人が出す煙の害から守るための実効策だろう。国民の健康をないがしろにしかねないような規制案の再考を求めたい。