持論 大幅後退 健康被害防げず/受動喫煙対策

 

 2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて受動喫煙防止策を強化する健康増進法改正案が、骨抜きにされようとしている。厚生労働省が喫煙できる飲食店の面積を大幅に緩和する新たな案をまとめ、自民党と調整しているためだ。この案で健康被害を防げるとは思えない。

 厚労省の新たな案は、飲食店は原則禁煙だが、店舗面積150平方メートル以下は喫煙可とできる。ただし新規開業や大手チェーンの店舗では喫煙を認めず、既存店舗に限定する臨時措置と位置付けている。見直し時期は設けていない。

 今年3月に厚労省が公表した当初改正案の「30平方メートル以下のバーやスナック」に限る内容から大幅に後退した。自民党は当初案に反発し、150平方メートル以下の飲食店に緩めた対案を示したが協議が決裂した経緯がある。今回は、来年の通常国会での法案提出を目指す厚労省が、自民党案に近い線まで譲歩した形だ。

 最大の問題は、店舗面積150平方メートル以下では家族客が訪れる店が多く含まれ、受動喫煙による健康被害が子どもにまで広く及ぶことだ。従業員の健康被害も拡大する。この案を基に改正法が成立するなら、全くの「ざる法」と言わざるを得ない。

 世界保健機関(WHO)によると、受動喫煙防止の有効な対策は屋内の全面禁煙しかなく、分煙や喫煙室に完全な効果はない。厚労省の当初案すらWHOの基準に達していないことになる。

 喫煙規制に対する主な反対理由は、客が減って売り上げが落ちるという心配だ。ただ、規制を導入した国を対象とした調査では「全面禁煙にしても経営に影響はない」という結果がほとんどだった。逆に客が増えたという報告もある。吸える場所が少なくなるという反対論もあるが、屋外に公共の喫煙所を拡充することで対応できる。

 公共の場での屋内全面禁煙を法律で定めている国は世界に約50カ国ある。WHOは日本の受動喫煙対策を4段階評価の最低に位置付けている。

 加えて20年の東京五輪を考えれば、国際基準に程遠い緩やかな対策は許されない。WHOと国際オリンピック委員会(IOC)はたばこのない五輪を目指すことで合意し、08年以降の五輪開催国では罰則を伴う喫煙規制が導入されている。このままでは、東京五輪は最近では例のない大会になってしまうだろう。