社説 受動喫煙防止 健康被害軽視した法案先送り

2017年06月08日 06時00分 読売 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170607-OYT1T50148.html 

 

 受動喫煙が健康被害を引き起こすことは、科学的に明らかである。対策の遅れは許されない。

 政府は、受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の今国会への提出断念に追い込まれた。飲食店の規制を巡り、自民党内の反発が激しく、折り合いがつかなかったためだ。今秋の臨時国会での成立を目指す。

 厚生労働省の「たばこ白書」などによると、受動喫煙は肺がんや脳卒中になるリスクを1・3倍に高める。乳幼児突然死症候群(SIDS)に至っては4・7倍だ。受動喫煙で年間1・5万人以上が死亡していると推計される。

 法案の提出見送りは、深刻な健康被害を軽視していると批判されても仕方がない。

 対策強化は、世界的潮流だ。49か国が、飲食店やバーを含めて屋内全面禁煙を法定化している。

 日本は、健康増進法などで防止策を努力義務としているにとどまる。世界保健機関(WHO)の判定では「世界最低レベル」だ。

 WHOと国際オリンピック委員会は「たばこのない五輪」を進める。2020年に東京五輪を控え、対応の遅れは日本のイメージダウンにつながりかねない。

 厚労省は、飲食店について、屋内禁煙を原則としつつ、喫煙専用室の設置を認める案を示した。スペースのない30平方メートル以下のバーやスナックに限っては、例外的に喫煙可とする。

 自民党案は、業態を問わず、一定規模以下であれば、喫煙可の表示を条件に喫煙を認める。客席部分だけで100平方メートル以下を想定する。居酒屋などの多くが該当するとみられる。客離れを懸念する飲食業界に配慮した結果だ。

 国内外の調査では、飲食店の全面禁煙化による経営への悪影響は生じていない。厚労省案に反対する根拠は乏しいと言えよう。

 WHOは、全面禁煙以外は効果がないと強調し、喫煙室を認める厚労省案にも否定的だ。国内の医療関係者らも、例外なしの屋内全面禁煙を求める。店舗従業員の健康被害も考慮すれば、全面禁煙の範囲を広げるのが望ましい。

 厚労省は小規模店の規制に猶予期間を設ける妥協案を示した。業界の理解を得つつ、段階的に取り組むのは、現実的な手法だ。自民党はこれを受け入れなかった。これ以上、先送りさせないために、真摯しんしに一致点を探るべきだ。

 日本では、欧米に比べて、屋外での喫煙規制が進んでいる。屋内の禁煙化といかに調和させるか。総合的な対策が求められる。