朝日新聞 私の視点
2016年6月18日
受動喫煙防止 五輪機に日本も法制化を 申英秀
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12414543.html?iref=watashinoshiten_kiji_backnum
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、国内外から集まる選手や来場者を受動喫煙による健康影響から守ることができるのか、日本の対応に注目が集まっている。1988年以来すべての五輪大会は、受動喫煙やたばこの広告のない環境で開催された。五輪を契機に受動喫煙のない社会を実現することは、未来の世代へのオリンピックの遺産(レガシー)となるだろう。
世界保健機関(WHO)は、たばことスポーツは相反するとして、五輪開催地のたばこ対策、特に受動喫煙防止対策を支援してきた。対策の重要性は競技会場に限らず、すべての公共施設において全面禁煙とするべきであり、日本は五輪の機会をいかして施策を進めていただきたい。
中国では北京市が08年の北京五輪の経験をいかし、市内の屋内の公共施設や公共交通機関を全面禁煙とし、たばこ広告をも禁止する条例を制定した。現在は中国全土に適用される受動喫煙防止法を検討中だ。
一方、日本の取り組みは、西太平洋地域諸国と比べても大きく遅れている。日本は、たばこの規制に関する枠組み条約の締約国として、屋内の公共の場所には受動喫煙防止対策を講じる義務がある。またWHOは、分煙や喫煙室などではなく、全面禁煙を推奨している。これまで日本で実施されている受動喫煙防止に関する全国的な政策は、義務ではなく、施設管理者らの自主的な取り組みに頼っている。たばこ産業のいう「喫煙マナー」や「分煙」は、受動喫煙防止対策に代わるものではない。健康被害という問題の核心を隠し、全面禁煙を阻み、受動喫煙の被害拡大を助長している。
日本での受動喫煙に起因する死亡者数は、推定で年間約1万5千人に上っていると報告されている。私は、日本の皆さんの多くが、受動喫煙による健康被害を受けているのではないかと危惧している。
現在、日本では受動喫煙の防止を強化するため、立法措置も含めた検討が始まっている。他の国々と同様に、公共施設での全面禁煙や、それに違反した場合の罰則の法制化をぜひ進めてもらいたい。
東京五輪までに受動喫煙防止法を施行できれば、日本は、健康対策の手本を世界に示すことができる。未来の世代をたばこから守り、受動喫煙の環境がなくなるよう、今、私たちは取り組まなければならない。
日本は受動喫煙防止対策を強化し、スポーツのみならず健康対策でも世界の国々を牽引(けんいん)していただきたい。たばこのない環境をつくることは、五輪の金メダルに等しく、気持ちのよい持続的な勝利になることに間違いはない。
(シンヨンス 世界保健機関〈WHO〉西太平洋地域事務局長)