21 回「たばこはやめよう(200809年)コンクールの審査講評

1.紙芝居・絵本の部

 昨年の講評で「力弱さ」が気になると書いたのだが、今年はさらにそれが進んでしまっているようだ。辛うじて評価できる作品として4点ほど残したのだが、そのうちの2点、「あるおじいさんのしあわせ」「わんにゃんキッズとモクモクたち」はへたうまのしゃれた画風ではあるが、絵をもっと大きく描くことを求められたら、構図は崩れ、線の力弱さが目立ってしまうに違いない。また、あとの2点、「シロとたばこのけむり」「ふしぎなさいふ」はコンピュータグラフィックで描かれているからこそ見られるだけで、手描きの温かみとか、人間味は大きく損なわれている。一番評価できる作品ですら「力弱さ」が目立ったのだ。やはり素材と格闘してこその作品であることは、たとえば石を素手で彫刻することを思い浮かべていただければよい。禁煙というテーマとの格闘も、力が弱ければできるはずがないのだ。

 もっとも、これが絵本・紙芝居というジャンルだからであり、たとえばここに、マンガとかアニメとかを加えれば、その観点から評価できる作品とも言えよう。ただ、マンガも大きく描いて、縮小していることは忘れてはならないが。作品募集の際に募集ジャンルに工夫を加える必要があるかもしれない。工夫といえば今回は募集期間・方法などでも改善の余地があったようで、次回に期待したい。(堀田 穣)

 

2.ポスターの部

 公共的施設や学校、交通機関などで、禁煙・無煙環境が広がり、社会的改善が進んでいます。

21回ポスターコンクールには、2,700点余の作品が寄せられました。審査は、高校生〜一般、中学生、小学生低学年・高学年、幼児に分けて行い、「たばこはやめよう、吸わないで」をテーマに、「タバコの害・迷惑を表現している。タバコを吸わないことを推奨する。明るく,シンプル,わかりやすい。ユニークで,自力,アピール力がある。」などの観点から審査し、美術コンクールとは違った視点から、審査員9人による投票方式で、一次、二次、三次審査を行いました。

 ポスターは、伝えたいことを絵や色・文字(コピー)などによって、自由な発想で、のびのびとした発信、インパクトのある表現が望まれますが、家族や身近な人へのメッセージが、楽しく、ほほえましく表現されていて、私たちの心に響くような作品が多くありました。

 自分の力で表現されていて、分かりやすく、訴えかけの強い作品や、優しさのある目や顔の表情が豊かな作品の評価が高く、前回と同じく、全年齢層の上位選定ポスターの中から、啓発ポスターやカレンダーのデザインに活用することを念頭において協議し、最優秀作品として、「いらない」と言う勇気、というタバコノーの表現力に優れた作品が文部科学大臣賞(中学3年生)に、また、タバコをママ吸わないで、というアピール表現に優れた作品が厚生労働大臣賞(中学1年生)に選定されました。

 これら入賞した作品が、次回の啓発ポスターやカレンダーなどのデザインに活用され、ネットでも広報され、多くの人の目に触れ、無煙環境の輪が広がり、社会的改善に役立てられることを期待しています。(新谷隆夫、瓜生隆子)

 

3.マークの部

当コンクールのテーマ自体は“無煙”や“絶煙”といった極めて明瞭なものです。それだけに、優れたマークの要件は、いかに独創的な発想で分かり易く訴求するかです。独創性を示すポイントのひとつとして、取り扱う素材に目を向けることも有効です。タバコ自体から離れて喫煙行為の周辺を考えてみると、例えば今回の場合、タスポ導入というニュース性のある時期でした。そうした新鮮な素材(題材)を使うことで、趣の変わった作品が生まれる余地があったのではないでしょうか。

色使いの点においては、相変わらず赤を基調にしたものがほとんどでした。色彩心理学の観点からも、禁止やNGを意味するのに赤色を使用するのは理に叶ったことです。しかし、知識の固定化が創作活動においては独創性を妨げかねないこともあります。斬新な色使いも今後は見たいものです。

応募作品278点の中から、厚生労働大臣賞にはカニがハサミでたばこをへし折る図柄に「吸っちゃいかんガニー」というコピーを添えた作品が、また文部科学大臣賞には一部をタバコの絵で表現して「禁」の文字を強調した高校生の作品が選ばれました。(山田 彬)

 

4.標語・川柳・漢字熟語の部

キャンペーンに用いる言葉は、時代の空気が漂い、今の社会が垣間見えるような批評精神の滲んだものが人々の共感を呼ぶものです。応募作品のほとんどは、極めてストレートな形でタバコの害・迷惑を表現した常識的で道徳的な枠内に収まったものでした。

「そうだ、そうだ」と人々の拍手喝采を得るには、ワサビが効いていたり、笑いを誘ったり、時には反面教師的な表現なども混じっているくらいが訴える力は大きいものです。マークの部の講評にも記したように、当コンクールは“無煙”や“絶煙”といった一分の隙も無い明瞭なテーマを持つだけに、表現する素材(題材)の選定に工夫や新しさを望みたいものです。テーマ(主題)を語らしめるのは、あくまで素材(題材)ですから。

応募作品は10,600点余あり、予備選定で残った75点の中から会社員女性の作品「その煙 後ろの我が子も 吸っている」が厚生労働大臣賞に、中学3年女子生徒の作品「目の前の 煙でかすむ 家族愛」が文部科学大臣賞に選ばれました。また、小学5年男子児童の作品「禁えんは みんな喜ぶ エコロジー」が大阪府知事賞に選定されました。漢字熟語として「煙害呼毒(えんがいこどく)」が入選に入りましたが、語呂合わせなど遊びの要素を含み易いので、身近に感じられる表現方法と言えましょう。(山田 彬)