非喫煙者も年間1万5千人が犠牲となるタバコ 世界最低ルールの厳格化は進むのか

BuzzFeed Japan 4/9(日) 11:56配信  https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170409-00010000-bfj-soci

 

世界保健機関(WHO)幹部が来日し、4月7日、厚生労働省での会見で日本のタバコ規制の遅れを「前世紀のようだ」と猛批判した。世界最低レベルと評される日本のタバコ事情の現状、そしてタバコ規制が経済に与える影響や、喫煙室による受動喫煙防止効果の真実とは。【BuzzFeed Japan / 朽木誠一郎】

 

 

 

 


非喫煙者でもタバコで年間15000人が死亡

日本が好きでなんども来日しているというダグラス・ベッチャー氏。タバコ規制の専門家であり、タバコを発ガン性物質のアスベストに例え、「キラー(殺人者)」呼ぶ。

「80年代からタイムスリップした気分になった」

彼がそんな感想を抱いたのは、新宿の寿司屋に入った時だ。80年代に来日した時と変わらず、店内のあちこちで客がタバコを吸っていたという。

世界最低レベルのタバコ規制の結果、喫煙を原因とするがんなどの病気で年間12万人が死亡。非喫煙者でも受動喫煙によって15000人が死んでいる。交通事故死が年間4000人を切っていることと比較すれば、その被害の大きさは明らかだ。
喫煙者は男性30.1%、女性7.9%。タバコ規制の遅れによって、少数派の喫煙が、国全体の健康レベルに影響を与えている。

世界最低レベルのタバコ規制

WHOによると、公共の場を全て禁煙とする「スモークフリー政策」はすでに世界49カ国で実施されている。

教育施設、医療施設、政府施設、レストラン、交通機関など、公共の場の禁煙化は各国で着々と進んでいる。しかし、日本はいずれの場でも法的な規制がなされていない。世界最低レベルとされる所以だ。

 

 

 

 

世論が後押しする規制案に議員が反対

厚労省が今国会への提出を目指す受動喫煙防止法案では、学校や医療施設は敷地内全体を全面禁煙とし、官公庁やサービス業施設は建物内のみ全面禁煙。飲食店や事業所は建物内禁煙だが、喫煙室の設置は容認している。

新聞やテレビの世論調査やネットアンケートなどは、いずれもこの案を支持した。法案に賛成を示した割合は以下の通りだ。朝日新聞(64%)、毎日新聞(58%)、日本テレビ(78%)…。

しかし、この法案に猛反発したグループがいる。自民党の「たばこ議員連盟(たばこ議連)」だ。タバコ業界と販売者を守ることを目的に、衆参約280人の国会議員が所属している。

「喫煙を愉しむこと」と「受動喫煙を受けたくないこと」はともに国民の権利だとして分煙を推進する対案を出した。自民党たばこ議連の対案は、厚生省案から大幅に後退している。例えば、以下の通りだ。

●医療施設:「敷地内禁煙」→「喫煙室や喫煙場所を設置可」
●小中高:「敷地内禁煙」→「喫煙室や喫煙場所を設置可」
●大学・運動施設:「建物内禁煙」→「喫煙室を設置可」
●官公庁:「建物内禁煙」→「喫煙室を設置可」

「部分的禁煙は効果がない」

ベッチャー氏は「喫煙室のような部分的禁煙は効果がない」と断言する。建物内のどこで喫煙しようとも、喫煙した場所以外でタバコの煙の濃度が上昇することが厳密な研究によって示されているためだ。

「包括的なスモーク・フリー(タバコの煙からの解放)のみが、受動喫煙のリスクを排除するための唯一の方法だ」とベッチャー氏は強調する。

 

 

 


禁煙で飲食店は経済的な損害を受ける?→受けない

ベッチャー氏は、タバコ規制の失敗事例としてスペインを挙げる。2006年にスペインで施行された法律で、小規模飲食店での喫煙を認めた。

背景には、タバコ産業の圧力で「禁煙にするとレストランやバーが経済的な損害を受ける」といったプロパガンダがあったという。

この主張に対するベッチャー氏の答えは「ノー」だ。

飲食店において完全禁煙を実施しても、レストランやバーなどのビジネスに損害を与えなかったことを示す多数の研究がある。また、負の経済効果を示す研究には、タバコ産業が出資しているものもあったという。

日本では、民間調査機関が受動喫煙防止法案の経済損失を8401億円と発表している。

 

「喫煙を楽しむ権利」をどう考える?

ただし、タバコは法律で制限されているものではない。これを個人の責任で楽しむ権利と、受動喫煙を避ける権利の衝突については、どのように考えるか。BuzzFeed Japnが会見で質問すると、ベッチャー氏は次のように回答した。

「タバコ規制は喫煙者を差別するものではない。喫煙者には禁煙という選択肢を提示することができる。非喫煙者の受動喫煙を避ける権利を保証することもできる。健康的な生活を営むために、誰にとっても利益のある対策だ」

受動喫煙対策は、オリンピック開催を控える日本にとって差し迫った課題だ。IOCとWHOは「タバコのないオリンピック」を宣言している。WHOの「たばこ規制枠組み条約」を承諾している日本は、禁煙を推進しなければいけない。

ベッチャー氏は会見の最後、アメリカ大統領の就任式で参加者人数について大統領や報道官自身が事実と異なる情報を発信して有名となった言葉「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」を引用した。

オルタナティブ・ファクトとは、つまり、嘘だ。「タバコ規制をめぐっては、スペインでそうだったように、世界中でオルタナティブ・ファクトが語られてきた」とベッチャー氏は指摘する。

「日本はタバコ規制を進める上で、非常に重要な時を迎えている。国民の健康と繁栄のため、事実を報じてください」