「禁煙は早いほどいい」は数字で一目瞭然、わずか数時間後にも健康上の効果は現れる
配信 National Geographic https://news.yahoo.co.jp/articles/1c3abdb7b164a435b56a4924f8b4b2b109ffcad2
禁煙を続けると心臓発作や脳卒中、がんなどのリスクはどれくらい下がるのか
皆さんの中には、長年にわたってたばこを吸っている方もいるかもしれない。たとえそうでも、禁煙すれば驚くような効果が得られる。しかも、禁煙後すぐに得られるものもある。
米疾病対策センター(CDC)によれば、米国では毎年約50万人が喫煙に関連する原因で死亡し、およそ1600万人が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心臓病、脳卒中、がんなどの喫煙に関連する慢性的な病気を抱えていると推定されている(編注:厚生労働省の「健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料」によれば、日本では年間12~13万人が喫煙に関連する病気で死亡している)。
たばこのリスクはよく知られているが、禁煙を続けるのはなかなか難しい。今さら禁煙してももう遅いと考えて、あきらめてしまう人も多い。しかし、禁煙には大きなメリットがある。研究は一貫してそれを証明している。
そこで、短期的・長期的な健康にどのような効果があるのかを知るために、禁煙後数時間から数十年までの単位で体に起こる変化について、何人かの専門家に話を聞いた。
心拍数と呼吸が改善する
最初の変化は、禁煙して数時間のうちに起こりはじめる。それは心拍数の減少だと、米クリーブランド・クリニックの呼吸器科医師、フンベルト・チョイ氏は説明する。喫煙によって約3倍に上昇していた血中の一酸化炭素の濃度も、数日のうちに通常レベルに戻る。
そして数週間のうちに、別の変化も現れる。特に大きな変化は、肺の機能が改善し、咳(せき)が少なくなることだ。そのため、より強い運動の負荷にも耐えられるようになる。呼吸が少し楽になるので、定期的な散歩や毎朝の筋力トレーニングといった運動の習慣を作ったり続けたりしやすくなる。「つまり、調子がよくなるということです」とチョイ氏は話す。
運動を喫煙に代わる習慣にすることもできる。「喫煙の習慣は、すぐにはなくなりません。別の習慣を取り入れるのは、よいことです」
禁煙後数週間から数カ月で、嗅覚や味覚が改善したと感じる人も多い。
「嗅覚や味覚がなくなっていたことに気づいていなかった人すらいます」とチョイ氏は言う。
心臓発作や脳卒中のリスクが激減する
禁煙が年単位で続くようになると、心臓発作や脳卒中などの心血管系の病気を発症するリスクが大幅に低くなる。
「禁煙後の最初の2年間で、喫煙によって増えていたリスクの多くはなくなります」と話すのは、米心臓協会で最高科学責任者を務める心臓専門医、マリー・ロバートソン氏だ。
氏によると、禁煙する期間が長くなるほど、このリスクは下がっていく。10年間禁煙を続けると、心血管系の疾患で死亡するリスクは、喫煙者に比べて63%低下するという研究結果も出ている。
そして20年から30年が経過すると、喫煙したことがない人と同等のレベルになる。
10年後のがんのリスクが低下する
時間の経過とともに、一部のがんを発症するリスクも低下する。特に禁煙から10年がたつ頃には、このリスクが大幅に下がる。
「10年が経過すると、肺がんによる死亡のリスクが現役の喫煙者の半分になります」。米がん協会の上級科学ディレクターで、さまざまな集団を対象にがんのリスクを研究しているファルハード・イスラミ氏はそう話す。頭頸部や食道など、喫煙に関連するほかのがんにも、同じことが言えるという。
イスラミ氏も著者の一人である先ほどの研究によると、禁煙後20年から29年で、がんによる死亡のリスクは約90%低下する。また、35歳になる前に禁煙できた人は、さらにリスクが低下し、20年から30年後には喫煙経験のない人とほぼ同じ程度になるという研究もある。
「禁煙は早いほどいいのです」とイスラミ氏は話す。しかし、年をとるまで禁煙できなかった人でも、たばこをやめる効果は非常に大きいと付け加える。
喫煙に関連する病気の進行を遅らせる
がん、心臓病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、喫煙に関連する慢性的な健康被害を抱えている人は、禁煙することでその進行を遅らせ、生存率を高めることができる。
「禁煙すれば、がんの再発率が低くなります」とチョイ氏は話す。
すでに心臓発作を経験した人も、禁煙することで2回目の発作が起こる確率やCOPDが悪化する確率が下がる。
「本当は、このような病気になる前に禁煙してもらいたいのです」。米テキサス大学ヒューストン医療科学センターで物質使用障害(依存症や乱用など)を中心に研究しているルバ・ヤミン氏はそう話す。「しかし、すでに発症してしまった人でも、禁煙によるメリットは計り知れません」
厄介な依存症の問題
喫煙は依存性が強く、最もやめにくい行為の一つだ。これにはさまざまな原因がある。
「ニコチンは非常に依存性の強い物質です。とても簡単に依存症になり、やめるのは非常に難しいのです」とヤミン氏は言う。やめるのが難しいのは、身体的な要因と行動的な要因が混じり合っているからだ。
最初に立ちはだかる壁は、体がニコチンを求めることだ。禁煙すると、無性にたばこが吸いたくなり、禁断症状も現れる。
「欲求と禁断症状が組み合わさると、耐えがたいものになります」とヤミン氏は言う。禁煙すると、過度な空腹感を感じたり、怒りっぽくなったりする人が多い。こういった症状は、さまざまな方法で和らげることができる。ニコチンパッチやガムのほか、日本では禁煙補助の処方薬としてバレニクリンという薬も利用できる。
次に現れるのが、行動の壁だ。
「たばこは生活の一部になってしまっています」とヤミン氏は話す。長年にわたって喫煙している人なら、いつどこでたばこを吸うかという行動の型ができている。たとえば、朝のコーヒーと一緒にする一服や、定期的なたばこ休憩といった具合だ。
こういった行動は習慣になってしまっているので、身体的な症状を抑えられたとしても、断ち切るのが難しい場合がある。
一度でやめられない人は多い
ニコチン依存症という壁があるため、何度も禁煙に失敗したすえに、ようやくうまくいく方法を見つけたという人も多い。ただし、その方法は人によって異なり、誰でもうまくいく方法があるわけではない。
スパッとやめられる人もいれば、薬で禁断症状を抑えなければならない人もいる。毎日の習慣を大きく変えなければならない人もいれば、ちょっとした工夫で十分な人もいる。数回の挑戦で成功する人もいれば、何十回も繰り返さなければならない人もいる。ロバートソン氏は、「たとえ失敗しても、それが次回の教訓になるのです」と話している。
文=RACHEL
FAIRBANK/訳=鈴木和博