減煙でも認知症リスク上昇、禁煙を
Medical Tribune=時事 2023/02/10 13:08 https://medical.jiji.com/news/56033
これまでの研究で禁煙による認知症リスクの低下が示されているが、喫煙の強度の変化と認知症リスクとの関連は明らかでない。韓国・Seoul National University College of MedicineのSu-Min Jeong氏らは、減煙や禁煙を含む喫煙強度の変化と認知症リスクとの関連を評価する後ろ向きコホート研究を実施。喫煙強度を2年間維持した群に対し、禁煙群では認知症リスクが有意に低下した一方で、増煙群だけでなく減煙群でもリスクが上昇したことから、認知症の疾病負担軽減対策において禁煙を重視すべきであると、JAMA Netw Open(2023; 6: e2251506)に報告した。
韓国国民健康保険サービスのデータベースから、2009年と2011年に健康診断を受け、ベースライン時点(2009年)に40歳以上だった喫煙者78万9,532例〔男性75万6,469例、平均年齢±標準偏差52.2±8.5歳〕を抽出。喫煙状況のベースラインからの変化によって5群(禁煙群:喫煙を中止した11万4,959例、減煙Ⅰ群:1日の喫煙本数が50%以上減少した6万767例、減煙Ⅱ群:同20〜50%減少した11万1,890例、維持群:同20%未満増減した37万6,393例、増煙群:同20%以上増加した12万5,523例)に分け、2018年12月31日まで追跡した。
中央値で6.3年(四分位範囲 6.1〜6.6年)の追跡期間中に、認知症を発症したのは1万1,912例。内訳は、アルツハイマー病が8,800例、脳血管性認知症が1,889例だった。
多変量モデルによる解析では、全認知症リスクは維持群に対し禁煙群で有意に低かった〔調整ハザード比(aHR)0.92、95%CI 0.87〜0.97〕。一方、維持群に対し増煙群(同1.12、1.06〜1.18)ではもちろん、減煙Ⅰ群(同1.25、1.18〜1.33)でも認知症リスクが有意に高かった。減煙Ⅱ群(同1.06、1.00〜1.12)に有意差は認められなかった。
このような喫煙強度の変化と認知症リスクとの関連パターンは、アルツハイマー病(禁煙群:aHR 0.94、95%CI 0.88〜1.00、減煙Ⅰ群:同1.24、1.16〜1.32、増煙群:同1.08、1.02〜1.15、減煙Ⅱ群:同1.06、0.99〜1.13、全てvs. 維持群)と脳血管性認知症(禁煙群:同0.84、0.73〜0.97、減煙Ⅰ群:同1.28、1.11〜1.49、増煙群:同1.19、1.05〜1.35、減煙Ⅱ群:同1.07、0.93〜1.24、全てvs. 維持群)に分けても同様だった。
2009年の健康診断時の喫煙強度(軽度喫煙:10本/日未満の6万9,292例、中等度喫煙:10〜19本/日の29万5,770例、重度喫煙:20本/日以上の42万4,470例)で層別化して解析。その結果、軽度喫煙の集団では、維持群に対する禁煙群での全認知症(aHR 1.00、95%CI 0.87〜1.15)およびアルツハイマー病(同1.08、0.92〜1.25)のリスク低下は認められなかった。
一方、中等度喫煙の集団では、維持群に対し禁煙群で全認知症のリスクが低かった(aHR 0.88、95%CI 0.81〜0.97)。
重度喫煙の集団では、維持群に対し禁煙群での全認知症のリスク低下は認められなかった(aHR 0.92、95%CI 0.85〜1.01)。また、減煙Ⅱ群では全認知症の有意なリスク低下は認められず(同0.98、0.90~1.07)、減煙Ⅰ群では全認知症リスクが高かった(同1.21、1.13〜1.30)。
今回の知見について、Jeong氏らは「予想に反して、増煙群よりも1日の喫煙本数を50%以上削減した減煙Ⅰ群で認知症リスクが高かったことから、認知症の疾病負担軽減には禁煙が重要だ」と結論。
この点について「維持群に比べ禁煙群や減煙群では併存疾患を有する者が多く、sick quitter phenomenon(禁煙の効果に影響を及ぼす現象)の影響が否定できない。また、減煙群はニコチン濃度を維持するために煙を深く吸い込むことから、認知機能の保護作用がニコチンによって阻害された可能性も考えられる」と推察し、「減煙は、禁煙と違って認知症リスクの低減につながらなかった。しかし、禁煙に向けた重要な第一歩となるだろう」と付言している。