受動喫煙で小児の近視リスクが有意に上昇

Medical Tribune=時事 2023/05/18 17:40 https://medical.jiji.com/news/56844

 

 香港・Chinese University of Hong KongYoujuan Zhang氏らは、受動喫煙が小児の眼の健康に及ぼす影響について住民ベースの調査データを基に解析。受動喫煙への曝露量が多ければ多いほど近視の発症は早く、中等度~強度近視に至るリスクも高くなることが明らかになったとJAMA Netw Open(2023; 6: e2313006に報告した。

受動喫煙の近視リスクに関する報告に一貫性なし

 受動喫煙が小児の健康や生命に及ぼす影響は多数報告されており(Lancet 2020; 396 : 1223-1249 Lancet Public Health2021; 6: e537-e538)、わが国でも妊娠中の母親の喫煙および出生後の受動喫煙が児の聴覚障害リスクを上昇させるとの報告がある(関連記事「受動喫煙で児の聴覚障害リスクが2.35倍に」)。

 受動喫煙と小児の近視リスクについても関連性を示唆する報告があるが、受動喫煙は遠視の増加をもたらすとの報告もあり、その影響については一貫したエビデンスが得られていない。

 今回Zhang氏らは、Hong Kong Children Eye Studyから68歳の小児を募集し、質問票を用いた保護者への対面調査を20153月~219月に実施した。小児は全員、眼科検査と診察を受け、眼の外傷、先天異常近視遠視以外の眼疾患、眼手術歴を有する児は除外。家族に喫煙者が1人以上いる児を曝露群、喫煙者がいない、あるいは家では誰も喫煙しない家族の児を非曝露群に分類した。

近視屈折異常と有意に関連

 68歳の12,630人(平均年齢7.37歳、女児5,913人、男児6,717人)とその保護者が眼科検査と診察、質問票調査を完遂。データ不備の444人を除いた結果、4,092人(32.4%)が曝露群、8,538人(67.6%)が非曝露群となった。年齢、性、屋外での活動時間に差はなかったが、曝露群は非曝露群に比べBMI、出生体重が大きく、世帯収入や親の教育レベルは低かった。

 年齢、性、親の近視の有無、BMIを含むさまざまな因子を調整し、一般化推定方程式に基づく解析を行った結果、非曝露群に比べ、曝露群では近視屈折が有意に大きく〔等価球面度数(spherical equivalentSE0.09ジオプトリー(DiopterD)低下。標準化偏回帰係数(β)=0.0995%CI 0.14~-0.03P=0.003〕、眼軸長(axial lengthAL)は0.05mm有意に伸長していた(β=0.05、同0.020.08P=0.003)。

 また、曝露量が1単位(家庭での喫煙本数110本を1単位と換算)増えるごとに、SE0.07D有意に低下し(β=0.0795%CI 0.11~-0.02P=0.004)、AL0.04mm有意に伸長した(β=0.04、同0.010.06P=0.005)。

近視の重症度高く、発症時期も早い

 受動喫煙曝露による中等度近視と強度近視の罹患オッズ比(OR)はそれぞれ1.3095%CI 1.061.59P=0.01)、2.64(同1.484.69P=0.001)と、いずれも有意であった。

 また曝露群では近視の平均発症年齢が非曝露群よりも低かった(72.8カ月 vs. 74.6カ月、P=0.01)。さらに曝露量が1単位増えるごとに、近視発症が1カ月早まった(β=1.3095%CI 2.32~-0.27P=0.01)。

受動喫煙によるリスク増は用量依存的

 Zhang氏らは今回の研究の限界の1つとして、曝露群と非曝露群の2群(2値変数)に設定したことを挙げている。このように設定したのは、香港では2007年以降、公共の場での喫煙が厳格に禁じられており、喫煙可能な場所がほぼ家庭に限られているためだが、曝露群における喫煙者の構成内容(喫煙者が父親か母親か、あるいは両親共であるか)や喫煙習慣を正確に捉えていない可能性ある。家庭外で煙草を吸う家族構成員がいても、その家庭の児は今回の調査では非曝露群に分類されている。

 こういった限界はあるものの同氏らは「家庭における小児の受動喫煙曝露率に関しては、過去の諸研究でも今回と同じく約30%と報告されている。今回の検討では68歳時における受動喫煙曝露と近視リスクとの用量依存的な関連が確認された」と指摘。「小児の受動喫煙は屈折異常や眼軸長の増大、近視罹患率と関連するだけでなく、近視の早期発症や重症化とも関連することが確認された。受動喫煙は、曝露される年齢が低ければ低いほど、近視罹患に与える影響は大きい」と結論している。