喫煙が非がん性慢性疼痛・がん性疼痛と関連


2023年01月06日 16:45  Medicaltribune  https://medical-tribune.co.jp/news/2023/0106554120/

  喫煙ががんや心血管疾患をはじめとしたさまざまな疾患に関連していることは広く知られているが、喫煙と疼痛の関連については十分認知されていない。中部国際医療センター(岐阜県)麻酔・疼痛・侵襲制御センター緩和ケアセンター長の杉山陽子氏は、第44回日本疼痛学会(2022年12月2~3日)における日本ペインクリニック学会との共催企画シンポジウムで、喫煙と非がん性慢性疼痛・がん性疼痛との関連について解説。非喫煙者と比べ、喫煙者は痛みを強く感じやすく、オピオイドの使用が過量傾向にあることを指摘した。また、禁煙治療と痛みの緩和の可能性についても展望した。

 

喫煙者は慢性疼痛のリスクが増加

 喫煙と疼痛の関係は、これまでさまざまな小規模の観察研究で報告されてきた。帯状疱疹後神経痛の予後予測因子について検討したコホート研究では、受診時の痛みの強さは喫煙と関連し〔オッズ比(OR)2.0、95%CI 1.1~3.6〕、5年以上の喫煙(禁煙後2年以内も含む)が帯状疱疹後神経痛の予後予測因子であることが示された(同2.1、1.2~3.6)(BMC Med 2010; 8: 58)。

 また、喫煙と非がん性慢性疼痛との関連について32件・29万6,109人の研究を対象にしたメタ解析では、非喫煙者と比べ、喫煙者は慢性運動器疼痛のリスクが増加することが報告されている(OR 1.23、95%CI 1.09~1.4)(Pain Physician 2021; 24: 495-506)。

 これらの結果を受け、杉山氏が作成に携わった日本ペインクリニック学会の『疼痛を有する患者の禁煙に関するステートメント』(2022年1月発表)では、非喫煙者と比べ喫煙者は、①慢性疼痛の頻度が高く、②痛みの強度が強い、③侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心理社会的な痛みの全てが悪化しやすい、④急性痛が慢性化しやすい、⑤痛みに伴う随伴症状(気分障害、抑うつ感、睡眠障害)が増悪し、日常生活動作と社会生活が障害されやすい、⑥骨粗鬆症、椎間板変性を引き起こし骨折や腰痛に関連する―ことが示されている。

喫煙がん患者は高用量のオピオイドを使用する傾向

 次に、杉山氏は喫煙とがん性疼痛の関連について紹介。慢性疼痛患者におけるオピオイドの不適切使用について調査した研究では、がん治療後の慢性疼痛または慢性がん性疼痛を有する患者で誤用や乱用が多く、危険因子として喫煙が同定された(OR 2.9、95%CI 1.52~5.56)(Pain Their 2022; 11:987-1009)。

 また、化学療法開始前のがん患者を喫煙歴のない者、元喫煙者、喫煙者に分け、喫煙状況と疼痛の関連を調査した研究では、非喫煙者と比べ、喫煙者は痛みの重症度が有意に高く、非喫煙者や元喫煙者と比べ、喫煙者は痛みの支障度が有意に高かった()。元喫煙者では疼痛の重症度と禁煙後の経過年数に負の関連性があることが示された(R=-0.26、P<0.01)。

図. 喫煙歴と疼痛の関係性

40258_fig01.jpg











Pain 2011; 152: 60-65

 

禁煙治療による鎮痛効果はさらなる研究が必要

 前述のように、喫煙者は疼痛を強く感じることからオピオイドの使用が過量傾向になる。また、ニコチンには一時的な鎮痛効果があることが分かっているが、退薬症状として疼痛閾値が低下するため、喫煙者では疼痛治療に難渋するケースが多い。

 一方で、ニコチン依存度の高い肺がん患者の術後疼痛に対する禁煙の効果について検討した観察研究では、手術前に3週間未満の禁煙をした群と比べ、3週間以上の禁煙群はオピオイドの使用量が少なく痛みのスコアが低かった(Medicine 2019; 98: e14209)。ただし、この結果について杉山氏は「有意差はあるが差はわずかで、臨床的意義については議論の余地がある。どれくらいの禁煙期間が必要となるかはさらなる研究が必要」と考察した。

 その上で、同氏は「痛みを有する喫煙者は疼痛レベルが高く、鎮痛薬の必要量が多いことが、さまざまな研究で示されている。一方、禁煙治療による鎮痛効果を示した研究はまだ少ない。今後はさらにデータを蓄積し、ステートメント改訂を目指していきたい」と展望した。

参考:2022.01.15 疼痛を有する患者の禁煙に関するステートメント(日本ペインクリニック学会)