2022/05/12 12:30 The New York Times https://toyokeizai.net/articles/-/587987
アメリカ食品医薬品局(FDA)は4月28日、メンソールたばこの国内販売を禁止する方針を示した。公衆衛生の専門家からは、過去10年以上にわたる政府のたばこ規制の中で最も有意義な取り組みだと評価する声が上がった。
とくに影響を受けると考えられるのが、黒人の喫煙者だ。政府の調査によると、メンソールたばこを吸う人の割合は黒人の喫煙者では85%近くと、白人の29%を大きく上回る。
たばこは合法的に入手できる嗜好品の中でも、とりわけ有害な製品の1つだ。メンソールたばこの販売禁止が喫煙そのものの減少につながれば、慢性疾患や寿命の短縮といった健康被害を大幅に減らせる可能性がある。
メンソールたばこは、ミントから抽出したり実験室で合成したりした化学物質を添加することで、刺激を抑え、吸い心地を向上させた商品。約800億ドルに上るアメリカのたばこ市場の3分の1を占め、アメリカには約1850万人の喫煙者がいる。
ハビエル・ベセラ保健福祉長官は、メンソールたばこを禁止できれば「子どもが将来、喫煙者となるのを防ぎ、成人の禁煙を促すのにも役立つ」と語った。黒人の喫煙関連死も大幅に減らせるという。
たばこ業界はロビーイングによって激しい抵抗を繰り広げていた。メンソールたばこでアメリカ最大の販売シェアを持つレイノルズの親会社ブリティッシュ・アメリカン・タバコの最高マーケティング責任者キングズリー・ウィートンは、たばこのリスクを下げるにはメンソール禁止よりも有効な手法がいくつもとあるというのが同社の見解だと語った。
公衆衛生の専門家らは、メンソールたばこは黒人向けに積極的なマーケティングが展開され、深刻な健康被害を生んでいると指摘している。アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、アメリカでは黒人男性の肺がん率が最も高い。
アメリカ黒人地位向上協会(NAACP)会長のデリック・ジョンソンは、今回の禁止提案を「正義の勝利」と呼んで評価した。
「メンソールたばこは、私たちの子どもたち、親たち、兄弟姉妹たちを殺し、生活を破壊してきた」と、ジョンソンは声明で述べた。「メンソールたばこという死の嗜好品と何十年にもわたる戦いを繰り広げてきたアメリカの黒人にとって、今日は勝利の日だ」。
喫煙率はパンデミックが原因で2020年に微増となったものの、全体としては過去20年にわたり減少傾向をたどっている。それでも、喫煙が原因で死亡する人は毎年48万人と推計され、喫煙を始める人の間ではメンソールたばこの人気が高い。ティーンエイジャーの喫煙者の約半数が、メンソールたばこを吸っているという調査結果もある。
そのため、メンソールたばこを市場から排除できれば、喫煙率のさらなる引き下げにつながると期待されている。メンソールたばこを禁止したカナダの経験がアメリカにも当てはまるとすれば、130万人が喫煙をやめ、潜在的に何十万人という人々が喫煙で寿命を縮めなくてすむようになると、国際たばこ規制政策評価プロジェクトの主任調査官ジェフリー・フォンは語った。
メンソールたばこの禁止は「避けられる死や病気の最大の原因となっている喫煙を減らすうえで、極めて画期的な政策となる可能性を秘めている」という。
メンソールの電子たばこ(加熱式たばこ)は今回の禁止対象には含まれないが、FDAは現在、販売継続を許可するかどうかを見極めるため、アメリカで販売されている全ベイピング製品の調査を進めている(ベイピング製品の販売が開始された当初、FDAには同製品に対する規制権限がなかった)。
メンソールたばこ販売禁止の骨子は、5月4日の連邦官報で規制案として公開され、その後少なくとも60日間にわたり一般から意見を募ったうえで最終案となる。意見公募の結果、修正が施される場合もある。FDAはまた、6月に一般からの意見を聴取する場も設ける予定だ。
メンソールたばこの禁止には、少なくとも1年を要するとみられている。たばこ会社は規制に反対して訴訟を起こす公算が大きく、そうなれば法廷闘争が長引き、販売禁止がさらに遅れる可能性もある。
アメリカのメンソールたばこ販売で約9%のシェアを持つフィリップモリスUSAの親会社アルトリアの広報担当者は、メンソールたばこを禁止すれば、監督が行き届かない闇市場で違法に取引されるようになり、不幸な健康被害をもたらすと警告した。
アメリカ肺協会で啓発・政策提言活動を担当するエリカ・スウォードは、規制の草案を読み込んだうえで、強力な規制のように思われると評価した。同草案では、フレーバー付きの小さな葉巻(シガリロ)も禁止対象になっている。「規制案を弱めようとする試みが避けられなかった中で、そうした圧力をはねのけたことは特筆に値する」と、スウォードは語った。
ホワイトハウスの記録からは、アメリカ心臓協会やアメリカ小児科学会など、メンソールたばこの販売禁止を支持する団体との会合がここ最近、何度か行われていたことが確認できる。
一方、アメリカ税制改革協議会やタックス・ファンデーションといった経済団体は、メンソールたばこの販売を禁止すれば、連邦税と州税を合わせて1年目で66億円もの税収減になると、ホワイトハウスの当局者を牽制した。
FDAは今回の発表で、「喫煙者個人によるメンソールたばこ、またはフレーバー付き葉巻の所持、使用を禁じることはできないし、禁じることもない」と明確に述べている。
(執筆:Christina Jewett記者)