飲食店の原則禁煙はどこへ? 客が堂々とタバコぷかぷか “奥の手”使う居酒屋が続々
2021/09/29 11:00 AERA https://news.goo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2021092800019.html
「喫煙目的店」と掲げられた入り口の奥を覗くと、カウンターやテーブル席で、酔客たちが堂々とタバコを吸いながら酒とつまみを楽しんでいる。都内のある居酒屋では日常の光景だ。2020年4月に改正健康増進法が施行され、飲食店は原則禁煙となったはず。だが、実は店内での全面喫煙を可能にする“奥の手”があり、それを利用する飲食店が各地で増えてきている。
「当店は喫煙目的店です。20歳未満の方は入店できません」
協力金は申請せず、緊急事態宣言下でも営業を続ける都内のある和風居酒屋。入り口付近の壁にはこう書かれた貼り紙があった。店内をのぞくと、カウンターやテーブル席にいた20人ほどの客たちはビールや焼き鳥を楽しみながら、多くがタバコをふかしていた。
初めて訪れたらしい男性客が店主に、「お茶漬けとか、しめのご飯系は何がありますか」と聞くと、店主から意外な答えが返ってきた。
「あー、ないんですよ。うちはタバコオッケーにしてる代わりに主食は出せないからね」
「は、なんで?」。男性客は驚いた。
どういうことか。
20年4月に施行された改正健康増進法によって、飲食店は原則禁煙となった。
ただ、飲食業界やタバコ業界からの反発があったため、改正法では例外措置として、▽2020年4月1日時点で既に営業している▽施設内の客席部分の床面積が100平方メートル以下▽個人経営または中小企業ーの項目を満たす場合は喫煙できると定めた。
東京都の受動喫煙防止条例(20年4月施行)では、この例外措置の条件はもっと厳しい。改正法と同じ項目のほかに、「従業員がいないこと」が掲げられているのだ。
だが、実はそうした例外措置の条件に関係なく、店を全面的に喫煙可能にできる“奥の手”があった。
改正法では喫煙できる対象施設について、喫煙を主な目的とする公衆喫煙所などの他に、▽たばこの対面販売(出張販売を含む)をしている▽設備を設けて客に飲食をさせる営業を行っている(「通常、主食と認められる食事」を提供するものを除く)、という条件を満たす店も含めている。
そもそもは「酒やタバコを楽しむ場所」と理解されているバーやスナックを想定して作られたルールなのだが、盲点があった。一般的な居酒屋や飲食店であっても、タバコ販売の許可を取り、さらに主食を出さないという条件を満たせば、法律上は「喫煙を主目的とする施設」になる。よって、客は店内で自由にタバコを吸えるのだ。
タバコの小売り許可は様々なハードルがあるが、出張販売については、すでに小売りの許可を持っている業者から、出張販売の委託を受ける形で許可が取れる。その手続きを有料で仲介・代行する業者が複数おり、冒頭の居酒屋も利用していた。
店は入り口などに「喫煙目的店」であることを明示する必要がある。また、20歳未満の客は店に入れず、未成年の従業員を雇うこともできないが、店の経営自体に、さほどの影響はない。
主食の提供禁止についても、ルールには曖昧さが残る。厚生労働省は米やパン、麺類、ピザやお好み焼きを例示している一方、菓子パンや電子レンジで加熱するだけの食事は主食とみなさないとしている。
喫煙目的店を掲げた都内の別の大衆居酒屋のメニューを見ると、「おにぎり」や「焼きそば」が堂々と載っていた。男性オーナーは「問題ないと判断しています」とだけ答えたが、こうした店は他にも複数あり、ルールの運用が店側任せになっている実態が垣間見える。
コロナ禍による緊急事態宣言により都内でも大半の居酒屋は休業しているが、都の担当者もこうした動きが進んでいることは以前から把握しており、「シガーバーなどを想定して作られたルールですから、本来の趣旨から逸脱しているのは明らか。都としても問題だととらえています」と話す。ただ、「法律上の『喫煙目的施設』の要件は満たしていますので、どう見ても居酒屋だったとしても、『タバコの販売を主な目的にしている』と店側に主張されたら、都としては何もできないのが現状です。厚労省に対し、どのような客観的な要件をもって『喫煙を主目的の店』とするのか、定義の明確化を求めているところです」と、規制に踏み切れない現状に危機感を募らせる。
タバコの販売許可をとった店は、本当にタバコを売っているのだろうか。
冒頭の居酒屋の店主に聞くと、「喫煙目的店の形を保つため、仲介してくれた業者からは毎月、一定の数のタバコを(小売り)業者から買うようにアドバイスされてますので、もしお客さんに頼まれたらですが、ちゃんと売れる状態にはありますよ」と答え、こう推測した。
「緊急事態宣言が終わったら店がどんどん開くんだろうけど、お客さんに戻ってきてもらうために『喫煙目的店』にする店は増えていくんじゃないかな。コロナで大打撃を受けている状況で、タバコが吸えないからという理由でお客さんが減ったら絶望的ですから。こういうやり方があって助かりましたし、もともと喫煙者が多い店だからみなさんにも喜んでもらってますよ」
客側の反応は様々だ。常連の40代夫婦は「飲んでるときにいちいち店外になんか行ってられないって。タバコを吸う人ばっかりの居酒屋だってあるし、そういう店にタバコが大嫌いな人はわざわざ来ないよ」と気にするそぶりはない。
一方で、タバコを吸わない男性客は「嫌煙家ではないけど、副流煙がない方が居心地はいいので、期待が外れたなという気持ちはあります。まあでも、この店では間違いなく少数派だから文句を言うつもりはないし、吸わない人は結局、そのお店に行きたければ今まで通り、ちょっとのがまんを続けるってことなんだろうね」と苦笑いした。
つい先日、改正法により喫煙者が居場所を失い精神的苦痛を被ったのは違憲だとして、都内の男性が国に200万円の損害賠償を求める珍しい訴訟を起こし話題となった。「飲食店は原則禁煙」の世の中で、愛煙家たちのうっぷんはたまるのだろう。
ルールの抜け穴をつく形で、堂々と喫煙ができる飲食店。愛煙家の貴重な居場所に今後、何らかの規制がかかるのか。あるいは現状のまま、こうした店が増えていくのだろうか。