「食道がん」は飲酒・喫煙の習慣がある人がなりやすい 酒に強い人も毎日4合でリスク10倍に

2024/1/9(火) 17:02  Aera  https://news.yahoo.co.jp/articles/421d356aff49d345181657f7202305696344823b

 食道がんは男性に多いがんで、飲酒・喫煙が危険因子であることがわかっています。日本人の場合、長い食道の中央あたりに発生しやすく、なかには離れたところに複数のがんが見つかることもあります。初期には自覚症状が乏しく、早期発見には内視鏡検査が有効です。

 本記事は、20242月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。

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 食道は、長さ約25㎝、太さ23㎝の管状の臓器で、のど(咽頭)と胃をつなぐ食べ物の通り道です。食道がんは、内側を覆う粘膜に発生します。また、食道は、頸部、胸部、腹部に分けられ、多くは胸部食道に起こります。

 2019年に食道がんと診断された人は、26382人でした(国立がん研究センターがん情報サービス)。男女比はおよそ51と男性に多く、60代、70代が全体の約7割を占めます(日本食道学会全国調査 2013年治療2019年解析症例8019例)。

 食道がんの発症には、飲酒と喫煙が大きく関わっています。

 アルコールが体内で分解されるとアセトアルデヒドが発生します。飲酒して動悸や眠気を感じたり、二日酔いになったりするのは、この物質が原因です。そればかりか、このアセトアルデヒドには発がん性もあります。

 アセトアルデヒドはある酵素によって分解されます。しかし、日本人の約45%は、この酵素の活性が弱い体質で、お酒を飲むと顔が赤くなります。

 お酒を飲まない人が食道がんになるリスクを1とした場合、お酒に強い人(顔が赤くならない)が毎日4合飲酒した場合のリスクは約10倍になるといわれています。さらに、顔が赤くなる人が毎日4合飲酒した場合のリスクは約100倍で、顔が赤くなる人はより注意が必要です。

■飲酒して顔が赤くなるタイプで多量に飲む人は、40歳ごろから毎年検査を受ける

 昭和大学病院食道がんセンター教授の大塚耕司医師はこう話します。

  「若いころは顔が赤くなったが、今は赤くならないという人も、リスクは顔が赤くなる人と同じですから、お酒は適量にしておきましょう。また、アセトアルデヒドは唾液中に出てきて、のどのあたりもアセドアルデヒドにさらされます。そのため、食道がんに咽頭がん、喉頭がんが合併するリスクも高まります。飲酒だけでなく、喫煙習慣もあれば、リスクはさらに高まります」

 喫煙しない人が食道がんになるリスクを1とした場合、喫煙する人のリスクは約3倍、120本のたばこを20年間吸った人のリスクは約5倍になるといわれています。大塚医師は、受動喫煙にも気をつける必要があるといいます。

 ほかにも、野菜や果物をあまり食べないためにビタミンが欠乏することも危険因子とされ、緑黄色野菜や果物の摂取は予防に効果的といわれています。辛いもの、熱いものをよく食べることも影響すると指摘されています。

 食道がんの初期には、症状はほとんどありません。進行すると、胸の違和感、食べ物をのみ込んだとき胸の奥のほうがチクチク痛む、熱いものをのみ込んだときにしみる感じがする、といった症状が表れます。これらの症状は一時的で消えることもありますが、放置せず、消化器内科で内視鏡検査を受け、食道の状態を確認しましょう。

 さらに進行してがんが大きくなると、飲食物が食道を通りにくくなり、つかえるようになります。すると食べる量が減り、体重が減ってきます。また、胸には肺や背骨、気管や気管支、大動脈、声帯を調節する神経(反回神経)などがあり、がんが食道の外へ広がったりすると、胸や背中の痛み、せき、声のかすれなどの症状が起こってきます。

 自覚症状があって検査を受けた場合は、ある程度進行していることが多いので、早期発見のためには、定期的に内視鏡検査を受けることが必要です。

 「お酒好き、たばこ好きの人に、飲酒や喫煙は絶対にダメとは言えません。では、どうすればいいのかというと、40歳ぐらいから毎年内視鏡検査を受けて、食道はもちろん、咽頭、喉頭をチェックしてほしいと思います。危険因子がない人は50歳を過ぎたら、23年ごとに検査を受けましょう」(大塚医師)

 大塚医師は、「バリウムを使う造影検査でもいいですか」と聞かれることがよくあるそうです。しかし、内視鏡検査のほうが、粘膜のわずかな変化をとらえることができるので、やはり内視鏡検査をすすめています。

 がんがあるかどうかは、多くの場合、内視鏡検査で明らかになります。通常の内視鏡検査に加え、色素を散布したり、特殊な光で照らしたりして粘膜を観察すると、がんの範囲の正確な診断に役立ちます。また、組織を採取して顕微鏡で調べ、がんの特徴(組織型)を診断します。

 CT検査では、がんの深さ、周囲の臓器への広がり、リンパ節や肺などへの転移を調べます。転移の診断のためにPET検査を追加することもあります。

 「食道がんには、胃がんや大腸がんよりリンパ節転移が起こりやすいという特徴があります。がんが粘膜の浅いところにある場合でもリンパ節に転移している可能性があり、リンパ節転移の有無を診断することは大変重要です」(大塚医師)

 粘膜の浅いところにとどまっている場合、リンパ節転移がなければ、食道の内側からがんの部分だけ切除する内視鏡治療が可能です。しかし、リンパ節転移があれば手術が必要になるからです。

 内視鏡治療をおこなったあとには、切除した組織で病理検査をおこないます。その結果、リンパ節転移やがんを取り切れなかった可能性がある場合は、追加の治療として手術や化学放射線療法が必要とされることもあります。

■手術の前から呼吸訓練などのリハビリをおこない、肺炎などを防ぐ

 手術では、食道と周囲のリンパ節を切除し、胃などを使って食道の代わりとなる飲食物の通り道をつくります。手術を受ける体力がない場合には化学放射線療法をおこなったり、病期によっては手術前に化学療法をおこなったりします(術前化学療法)。

 周囲の臓器に広がったり、転移したりしている場合は、手術は適さず、化学放射線療法や化学療法をおこないます。化学療法では、免疫チェックポイント阻害薬という新しい薬が使われるようになっています。

  食道がんの手術では、頸部、胸部、腹部と広い範囲に及ぶため、「大がかりな手術」とよくいわれます。

 「以前は大きく切開する開胸手術でしたが、現在は、56カ所小さく穴を開ける胸腔鏡手術が主流になり、からだへの負担は以前よりかなり小さくなっています。医師も、胸腔鏡のカメラで組織をかなり細かく見ることができ繊細な手術ができるので出血量も減り、昔ほど大がかりな手術とはいえないのではないかと思います」(大塚医師)

 ただし、どちらの手術でも、肺炎、反回神経麻痺、残った食道と胃のつなぎ目のほころび(縫合不全)などの合併症が起こることがあります。日本食道学会は、ホームページで食道外科専門医、食道外科専門医認定施設を公表しており、認定施設で手術を受けることを大塚医師はすすめています。

  手術後には、早食いすると誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしやすく、食事量が減って体重減少や体力低下が起こりやすくなります。また、手術直後は呼吸がしづらく、痰(たん)も出しづらくなって、肺炎が起こることもあります。そのため大塚医師は、喫煙している人には、まずは1カ月以上の禁煙を徹底するよう指導しているそうです。さらに手術前、手術後のリハビリも重要です。

 例えば呼吸訓練について、大塚医師は次のように話します。

 「手術の前から、自宅で手軽な器具(呼吸訓練器)を使ってトレーニングしてもらいます。息を吐いてからマウスピースをくわえ、深く息を吸い込むと、インジケーターの印が動き、自分の吸気量がわかります。手術前に吸気量2500mlぐらいだった人も、手術後には500mlぐらいまで下がることが多いです。手術前は2500mlでしたね、それを目標にトレーニングしましょうと、手術の翌日から取り組んでもらいます」

 一般に手術後の1回の食事量は、手術前の56割に減ります。その分、食事の回数を増やし食事量を確保します。大塚医師によると、もともと高血圧や糖尿病などの生活習慣病があった人では、手術後に食事量が減ることで、それらが改善する例が多いとのこと。

 「なかには、体重が減ることなく体形を維持している人もいます。経過観察のため受診する人には食事や運動について必ず聞いていますが、筋トレをして、たんぱく質を多くとるようにしている人は、体重を維持し活発に活動しているという印象を持っています。逆に、家にいることが多く、軽い散歩程度であまり運動していない人は、食べる量が減る傾向があるように思います」

 以前に比べ手術で受ける負担が減ったとはいえ、術後に食事の工夫をしても思うように食べられず、心配で何ごとにも消極的になりがちです。活動量が減ると、おなかも減らず、食べる量がますます減ってしまうことも考えられます。できるだけ前向きな気持ちで運動や趣味などの活動をおこない、生活を楽しむことが大切といえそうです。

 【取材した医師】 昭和大学病院食道がんセンター 教授 大塚耕司 医師