2024/02/06/ 22:00 aera https://dot.asahi.com/articles/-/213448
2023年11月26日に亡くなったチバユウスケさん(享年55)。6日に追悼番組「THANK YOU YUSUKE CHIBA,I LOVE YOU BABY」(フジテレビ・26時25分)が放送される。番組ではフジテレビで放送された、「HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP」などの人気音楽番組やチバユウスケさん出演のライブやドキュメント特番、また、「FUJI ROCK FESTIVAL」などロックフェスの映像など多数の映像から出演部分を総ざらいした貴重な特番だ。亡くなったことが報じられた直後に配信された追悼記事とともに番組を楽しみたい!(「AERA dot.」2023年12月05日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)
【貴重写真】25年前のチバユウスケさんはこちら!最高のロックスターだ
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忌野清志郎、YMO、佐野元春など、「この人(たち)がいなければ、日本の音楽シーンはまったく違うものになっていただろう」というミュージシャンが存在する。チバユウスケはまちがいなく、その一人だ。
明治学院大学在学中にロックバンド・THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ザミッシェル・ガン・エレファント)を結成。1996年にシングル「世界の終わり」でメジャーデビューを果たした。70年代~80年代のパブロック、パンクロック、ガレージロックなどの影響を色濃く感じさせるバンドサウンドは、当時のメジャーシーンにおいてかなり異端だった。海外のロックばかり聴いていた筆者が最初にミッシェルの音楽を耳にしたときの感想は「すごいバンドだ。けど、これは日本では売れないかもしれない。カッコよすぎる」だったのだが、そんな浅はかな予想は完全に裏切られることになる。
シングル「ゲット・アップ・ルーシー」「バードメン」「G.W.D」などのスマッシュヒットをきっかけにバンドキッズの心をつかんだミッシェルは、1998年8月、東京・豊洲で行われた第2回フジロックフェスティバルに出演。観客は洋楽ファンが大半だったと思われるが、ライブは爆発的に盛り上がった(筆者もステージ前方でライブを観ようとして、もみくちゃになりました)。「俺たちが日本のザ・ミッシェル・ガン・エレファントだ!」というMCは今や伝説。このときのライブを振り返ってチバは、「ライブ中に何度か中断したんだよね。前の方の客が大暴れして。俺らも若かったし、当時は洋楽至上主義みたいな雰囲気もあったから、“ぶっつぶしてやる”なんて思ってたんだけど(笑)、やってみたらめちゃくちゃ盛り上がったし、関係なかったね」とコメントしている。
99年1月には横浜アリーナでオール・スタンディングのライブを開催。今では当たり前の“アリーナのスタンディングライブ”だが、この形式のライブを始めて行ったのもミッシェルだったのだ。
ミッシェルのブレイク以降、日本のロックシーンは明らかに変化した。ASIAN KUNG-FU GENERATION、ACIDMAN、ストレイテナーなど、オルタナティブなセンスを持ったバンドが次々と登場し、人気を得た。彼らの多くはミッシェルから影響を受けたことを公言。チバが紡ぎ出す楽曲、そして、ロックスター然としたたたずまいは、まさに憧れの的であり、大きな目標だったのだと思う。
2003年のミッシェル解散後もチバは、さまざまなバンドやプロジェクトを通して音楽活動を継続。2005年にThe Birthdayを結成し、精力的な活動を繰り広げた。このバンドでチバは、その歌の世界をさらに深めていった。代表曲「涙がこぼれそう」「なぜか今日は」といった叙情的な歌詞を通し、ロック詩人としての評価を高めたことも記しておきたい。
結果的にThe Birthdayの最後のオリジナルアルバムとなった『サンバースト』(2021年)は、ロックンロール音楽の奥深い魅力を伝える作品だ。“サンバースト”とはギター、ベースのボディー塗装の種類のことだが、もともとは雲間から日が差す様子を表す言葉。本作のインタビューの際にチバは、「ずっと希望を歌ってるつもりなんだけどね、俺は。このアルバムもそうだけど、絶望だけの歌はないんじゃないかな」と語っていた。実際このアルバムには、コロナ渦を超え、明るい未来へと進もうとする意志が込められているように感じる。
筆者が初めてチバに会ったのは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのアルバム『カサノバ・スネイク」(2000年)の取材のときだった。その後も何度かインタビューの機会を得たが、いつもおいしそうにビールを飲み、煙草をくゆらせながら、機嫌よくいろいろな話をしてくれた。ライブにも何度も足を運んだ。最後に観たのは2022年12月のThe Birthdayの東京・中野サンプラザ公演。凄み、色気、詩情をたっぷり含んだハスキーな歌声は、相変わらず圧倒的だった。ミッシェル時代を含め、ステージの上のチバはいつも最高で、“今日は調子良くなさそう”などということは一度たりともなかった。チバユウスケは生涯を通し、常に最高のロックスターだったのだ。
50代半ばに差し掛かり、これからさらに渋みと深みを増したロックンロールを聴かせてくれるはず……と音楽ファンとして勝手に期待していたのだが、チバは旅立ってしまった。しかし、約30年近くの音楽人生のなかで生み出してきた作品とライブの記憶はずっと残る。チバの音楽はこれからも多くのリスナーとミュージシャンを刺激し、大きな感動を与えてくれるはずだ。(森 朋之)