喫煙者に知ってもらいたいこと - - 駒沢 丈治

5/18(木) 17:11配信 アゴラ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170518-00010013-agora-soci&p=1

 

受動喫煙防止法の実施を望む人は多い。気持ちはわかる。私もタバコの煙は苦手だし、ルールを守らない喫煙者に日々悩まされているからだ。しかし、だからといって「法で禁じよ」というのは短絡的な発想であるとも思う。健康被害や不快感を理由にタバコの規制が行われれば、次はアルコールが対象になるだろう。酒の臭いや泥酔者の振る舞いを不快に感じている人は多く、飲酒による犯罪や飲酒運転も多数発生している。いつ「過剰飲酒防止法を制定せよ!」という声が上がっても不思議ではない。

そして一度こうした規制が行われれば、砂糖入りの飲料やスイーツ、塩分、肥満、釣り、犬の散歩、楽器の演奏、登山、住宅のイルミネーションといったものに対しても健康被害や不快感を理由に法的な規制が検討されるかもしれない。行きつく先は、国民同士が法によって互いの趣味や嗜好品を規制しあう息苦しい社会。そんな未来、私は嫌だ。

趣味や嗜好品は、それをたしなむ者が自制心を持ち他者に迷惑を掛けないよう配慮しなければならない。これを怠ると、いつ規制の対象になってもおかしくない時代になった。そして、いまタバコがその最前線にいる。だからこそ、喫煙者には以下の点について知ってもらいたい。法によって(それ自体は合法であるにもかかわらず)趣味や嗜好品が規制される悪しき前例になってしまわないよう、強い自制を望む。

無茶な論理を振りかざさない

喫煙規制の話になると「喫煙による健康被害は証明されていない!」という人が現れる。

“健康シリーズ: タバコと自殺 (武田邦彦)(http://takedanet.com/archives/1013802844.html)”

こういう無茶な論陣は張らないほうがいい。WHOが率先して喫煙の規制を進めている現在、「この人バカなの?」「喫煙者必死だな」と呆れられるだけだ。喫煙者の多くも「タバコが体にいいわけないよな」とわかった上で吸っているのではないのか? であれば、自分に嘘はつかないことだ。

私もそうだが、非喫煙者の多くは喫煙者の健康被害について心配などしていないし、知ったことではない。別にどうでもいい。しかし吸いたくもない副流煙を吸わされるのは迷惑だし、路上喫煙やポイ捨てに対しても不快に感じているわけで、こうした無茶な論理を振りかざされても何も響かない。

タバコ税の話はしないほうがいい

喫煙規制の話になると「オレたちは税金を払っているんだ!」という人が現れる。

“税収に貢献する喫煙者のどこが悪い! (猪瀬直樹)(http://aienka.sakura.ne.jp/articles/014/)”

実際タバコ税による歳入は大きく、2016年度は2兆円ほど。税収に貢献しているのは事実だ。しかしタバコ税は消費税や所得税のように義務でも強制でもなく、喫煙者が進んで払った税金である。払うのが嫌なら買うのを止めればいいだけのこと。非喫煙者から見れば「進んで払っているくせに何を逆ギレしてるの?」という意味不明な話にしかならない。

またタバコ税による歳入が本当にプラスかどうかについても、まだ明確な結論は出ていないはずだ。喫煙による健康被害によって国庫から多額の医療費が支払われているという見積もりもあるし、喫煙規制導入による4兆円もの経済効果を試算する報告書もある。

“受動喫煙で病気、かかる医療費は3千億円超 厚労省推計(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170506-00000033-asahi-soci)”

“日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡 (厚生労働省)(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf)”

“全面禁煙規制・分煙規制に対する経済的影響の事前評価 (三菱総合研究所)(http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/54/__icsFiles/afieldfile/2011/06/10/9-kinen.pdf)”

仮に喫煙規制によって税収減になったとしても、「タバコの煙に悩まされず快適に生活できるなら、多少の増税は許す」と私は思っているし、同じ覚悟の非喫煙者も多いはずだ。いずれにしても「オレたちは税金を払っているんだから吸って何が悪い!」といったズレた主張は非喫煙者との断絶を深め、すでに少数派である喫煙者の立場を不利にする。止めたほうがいいだろう。

非喫煙者への攻撃的な態度はダメ、ゼッタイ

これまた喫煙規制の話になると、決まって「我々には喫煙の権利がある!」「禁煙ファシズム反対!」などといって攻撃的になる人が現れる。

“禁煙ファシズムにもの申す (日本パイプクラブ連盟)(http://www.pipeclub-jpn.org/column/column_01_detail_06.html)”

これも止めたほうがいい。非喫煙者の中には「きちんとマナーを守って喫煙するのであれば、そのくらいの自由は許しますよ」という穏健派もいる。喫煙率が20%まで減った現在、彼ら穏健派の非喫煙者を味方にしなければ喫煙者の負けは確定だ。生き残りに必要なのは権利の主張や反喫煙規制運動ではなく、「非喫煙者の寛容にすがる」→「非喫煙者にストレスを与えない」→「喫煙マナーを守る」に尽きる。

喫煙者が戦うべき相手は非喫煙者ではない。「マナーを守らない喫煙者」なのだ。ここを間違えてはいけない。喫煙者が自己防衛のためにいきり立つ気持ちはわからないでもないが、非喫煙者への威嚇や攻撃、自身の正当化は相手の反感を買い受動喫煙防止法の実施を早めるだけだ。

まとめよう。今後喫煙規制が厳しくなることはあれ、緩くなることはない。いつでもどこでもスパスパできる時代は二度と来ない。まず、この事実を受け入れてほしい。喫煙が許される場所はどんどん限られ、タバコの値上げも繰り返される。近い将来、喫煙者は「健康被害を理解できないアタマの悪い人」「自分で禁煙できない意志の弱い人」「空気を汚す迷惑な人」としてみなされるだろう。喫煙者であるということで、結婚や就職が不利になるかもしれない。

喫煙者にとって最善の道は「非喫煙者の反感を買わないよう注意し、可能な限り現状維持すること」だ。受動喫煙防止法の実施はもはや時間の問題だが、いま自制できなければ次は「能動喫煙防止法」……すなわち「禁煙法」が待っている。

駒沢丈治 雑誌記者