2023/01/13 alterna https://www.alterna.co.jp/65590/
記事のポイント
禁煙したくても治療を受けることができない「禁煙難民」が増えている
国内唯一の禁煙補助内服薬「チャンピックス錠」が欠品しているからだ
欠品は2021年6月から起こり、いまも禁煙外来の「開店休業」が続く
日本唯一の医療用禁煙補助内服薬の欠品で、禁煙外来の「開店休業」状態が続いている。不純物の混入が原因だが、出荷再開の見込みはまだ立っていない。禁煙外来の受け付けを停止する病院・医院も目立ち、禁煙したくてもできない「禁煙難民」が増えている。(オルタナ編集部)
欠品が続くのは、国内唯一の禁煙補助内服薬である「チャンピックス錠」(一般名バレニクリン)。米ファイザー社が製造販売していたが、2021年6月、国内外での販売を中止した。
その理由は、同社が他国向けに出荷した同製品から、発がん性物質であるN‐ニトロソジメチルアミンなどのニトロソアミン類が検出されたためだ。
海外の規制当局や日本の厚生労働省はファイザーに対し、チャンピックス錠へのニトロソアミン混入リスクを自主点検するよう通知した。
ファイザー社が全製品でニトロソアミン類の評価を行ったところ、チャンピックス錠から自社基準を超える「N-ニトロソバレニクリン」を検出した。
出荷を再開するには、製造方法の変更や承認内容変更の承認が必要だ。ファイザーはオルタナ編集部の取材に対して、「出荷再開のめどは現時点では立っていない」と回答した。
■禁煙外来のおよそ4軒に3軒が受け付けを停止
2006年から禁煙治療に保険適用が始まり、2008年に日本で禁煙補助剤として内服薬のチャンピックス錠が承認された。それ以降、多くの外来で処方されるようになった。
禁煙治療に保険が使える医療機関の数は、1万7126件に上る(2023年1月、出典:日本禁煙学会)。
ところが、チャンピックス錠が欠品して以降、禁煙外来は「開店休業状態」にあるようだ。
オルタナ編集部が、北海道から沖縄まで、禁煙外来を行う病院・医院40軒に電話で確認したところ、そのうち30軒が禁煙外来の受付を停止していた。27軒が「チャンピックス錠の欠品」が理由だった。そのほかは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響などを挙げた病院・医院もあった。
■代替手段があるのに病院・医院が「休業」するワケ
複数の医師によると、「チャンピックス錠での治療の成功率は、自力で行うよりも3から4倍高い」という。だが、チャンピックス錠がなければ、禁煙治療できないのだろうか。
チャンピックス錠の代替としては、国内では貼り薬のニコチンパッチ「ニコチネルTTS」がある。成功率は自力で行うよりも2倍程度高いとされており、チャンピックス錠よりも効果は劣る。
日本禁煙学会は2022年9月に、「医療用禁煙補助薬欠品状況における外来禁煙治療の手引き」を公表。そのなかで、「ニコチネル TTS」を推奨するほか、「動機づけ面接、認知行動療法等の面接技術は、禁煙補助薬使用の有無にかかわらず禁煙治療の質を向上させる」とした。
それでも病院・医院が禁煙外来の新規受付を停止するのはなぜか。それは、クリニック側が処方箋を出しても、薬局が購入できないことを恐れているという理由が浮かび上がってきた。
ある医療関係者は、「ファイザーは新型コロナワクチンの対応を優先しており、チャンピックスがいつ流通するかはまったく読めない。この状態が続くとニコチンパッチの供給にも影響が出るかもしれない」と話す。
ニコチンパッチは市販薬もあるが、処方薬と比べて用量が少ない。喫煙本数が多い場合は効き目が不十分だ。
近隣の薬局と提携している病院・医院なら、薬局にニコチンパッチの在庫があるかを調べることができる。だが、医療機関によっては薬局の在庫状況を調べることができない場合もある。そのため、患者自身で禁煙外来を受ける前に薬局に問い合わせる必要がある。
薬局でニコチンパッチを購入できない場合、病院・医院は処方箋代だけ返金するが、診察費は返金ができない。
医師法19条では、医師は正当な理由がない限り診療行為を断ってはいけないという「応召義務」が定められているが、今回の事例が違反には当たるかどうかはグレーゾーンだ。厚労省も「状況把握はしておらず、特別な対応策を打つことは考えていない」(医政局医事課)。
■医薬品の個人輸入、厚労省が健康リスク訴え
個人輸入代行サイトでは、チャンピックス錠の代替品として「ブプロンSR」を販売している。
「禁煙治療の標準手順書 第8.1版」によれば、もともと、その成分であるブプロピオンは、抗うつ薬として開発され、ニコチン離脱症状を緩和する作用が明らかになり、欧米では処方せん薬として利用されているという。
ただし、日本では承認されていない。個人輸入なども可能だが、こうした海外からの医薬品の輸入については厚労省が健康被害などのリスクを明示している。
日本禁煙学会の作田学理事長(医師)は、「タバコは、単なる嗜好品ではなく、依存形成性薬物である。世界保健機関(WHO)が報告しているように、喫煙は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高める。喫煙者の新型コロナワクチンの抗体価が低い傾向にあるという研究結果もある」と話す。
作田理事長は「喫煙は、やめなければならないこと。チャンピックス錠の欠品は悩ましい問題だが、ニコチンパッチでの代替や、医師とのコミュニケーションで、禁煙成功率は変わらないこともある。喫煙者も病院・医院もあきらめないで、禁煙に向けた努力を続けてほしい」と語った。