受動喫煙対策、永田町で火花 愛煙家議員、規制に猛反発

2017年2月16日05時00分 朝日デジタル http://www.asahi.com/articles/ASK2H5DVZK2HUTFK00F.html  pdf記事

 

 たばこをめぐる論争が永田町で火を噴いている。2020年東京五輪・パラリンピックに向け、政府が検討している受動喫煙対策を強化する法案に対し、与野党を超えた愛煙家らが飲食店への規制に反発しているのだ。「世界最低レベル」と酷評される中、対策強化の行方はいかに。

 

 15日朝。自民党厚生労働部会に約50人の国会議員と関係団体が集まる中、河野太郎・前国家公安委員長がぶち上げた。

 「たばこを吸う人間が横に座った人間のことをどれだけ考えてこなかったか。日本から受動喫煙を一掃するくらいの決意でやってもらいたい」

 皮肉を込めた規制強化論だったが、ズラリと並んだ分煙派に火を付けた。

 1日40本吸うという岩屋毅・元外務副大臣は「分煙社会を洗練、成熟させるのが正しい方向。さらに強制すれば、地下に潜ってよからぬ勢力がはびこる」と主張。片山さつき政調会長代理も飲食業への打撃を指摘したうえで、「『経営が成り立たない』と言っているのに、そのままにするのは(厚労行政として)完全に矛盾している」と述べた。

 厚生労働省が昨年10月、飲食店を含む建物内の原則禁煙と喫煙室の設置を認める法整備のたたき台を発表。飲食店業界の反発が強いため、延べ床面積約30平方メートル以下のバーなど小規模店の一部を例外とする案を検討中だ。このため部会では100平方メートル以下を「努力義務」として例外扱いする神奈川県条例を参考に、妥協を迫る意見も出た。

 質疑の最終盤に発言したのは分煙派の重鎮、野田毅・前党税制調査会長。「たたき台は大幅に修正される前提だ。厚労相が言ったからといって通る自民党じゃない」とクギを刺した。厚労省が法案を修正するのか、施政方針演説で対策強化を訴えた安倍晋三首相がとりまとめに動くのか、先行きはまだ見通せない。

 自民党内が紛糾する背景には、業界の声もある。部会のヒアリングでは、たばこの生産者や販売者団体から「喫煙機会が減少するのは明らかで、小売店にも多大な影響が出る」「多様性・自主性・経営に全く配慮がない強圧的な規制」といった声が出た。一方で日本医師会は「国民の健康被害の問題」として、例外なき全面禁煙を求めた。

 論争は、民進党にも飛び火している。法案成立を目指す超党派議員連盟には長妻昭・元厚労相らが参加するが、松原仁・元国家公安委員長らが慎重派の「分煙推進議員連盟」を結成。主張はこちらも真っ二つだ。

 こうした政界の状況に、日本禁煙学会は規制強化に向け、たばこ業界からの政治献金を独自に集計し、ホームページで公表している。対象となった国会議員は約140人に上り、集計した理事は「献金で政策決定がゆがめられる可能性がある」と指摘する。(藤原慎一、平林大輔)   ⇒ http://notobacco.jp/seijikenkin/kenkin2010-15.pdf

■日本の対策「世界最低水準」

 建物内禁煙は世界の流れだ。10年に国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が「たばこのない五輪」の推進で合意。10年のバンクーバー(カナダ)以降の五輪開催地はいずれも、罰則付きで飲食店の建物内完全禁煙の規制を実現。14年時点で、49カ国が飲食店を含む公共の場を全面禁煙にしている。スペインでは06年に建物内禁煙とする法律の施行時に、一部飲食店で喫煙室設置を認める例外を設けたが、子どもや従業員の健康保護を強化するため、11年には喫煙室を撤去する法律が施行され全面禁煙となった。

 05年に発効したWHOの「たばこ規制枠組み条約」の指針では、屋内の職場や公共の場の全面禁煙と、罰則付きの法律を条約発効5年以内に施行するよう締結国に求めている。だが、日本の受動喫煙対策は罰則がない努力義務にすぎず、WHOから「世界最低レベル」と指摘されている。

 一昨年に施行された改正労働安全衛生法でも、従業員の健康のための受動喫煙防止対策を職場に義務づける案が、喫煙派の国会議員などの反発で努力義務へと緩められた。

 厚労省は昨年9月、15年ぶりに「たばこ白書」を公表。肺がん虚血性心疾患脳卒中などと受動喫煙との因果関係を「確実」と位置づけた。同省研究班は受動喫煙が原因で死亡する人は国内で年約1万5千人と推計。五輪を契機に世界水準の規制に追いつく狙いもあり、塩崎恭久厚労相は記者会見で「おもてなしの心として、『受動喫煙はありません』という国に変えていかなければならない」と語った。(竹野内崇宏)

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受動喫煙規制強化をめぐる与野党議員の反応】(敬称略)

自民党

 野田毅:たばこは禁止薬物ではなく嗜好(しこう)品だ。愛煙家も嫌煙家も権利がある。それをどう守り、両立させるかに尽きる。今は休煙中だが、多い時は1日3箱ぐらい吸っていた。

 河野太郎:吸う人は、どれだけ横の人のことを考えて来なかったか考えてほしい。規制強化は全面的に支援する。受動喫煙は一掃する決意で取り組むべきだ。

 宮内秀樹:20歳で吸い始め、46歳でやめた。地元で居酒屋に行くと、この規制は評判が悪い。強権的でなく、社会が理解して進む柔らかな方法が必要だ。

民進党

 安住淳:たばこはやめてしばらくたつ。五輪に向けて急によそ行きの服を着ようと言っても、そうはいかないのが社会。飲食店の人の声をよく聞いたらいい。

 初鹿明博:五輪に向けて世界水準に合う規制が必要。やはり屋内全面禁煙、罰則付きは譲れない一線だ。吸わないし、議員1期目からこの問題に取り組んでいる。

 松原仁:私は吸わないが、吸える店と吸えない店を表示し、客が選べるようにしたらいい。店の面積で縛るのは全体主義的なイメージを感じる。

共産党

 穀田恵二:かつて吸っていたのもあり、たばこをあしざまに言うのはよくない。人それぞれの対応の仕方で、私は反省している。

社民党

 又市征治:一律に規制し罰則も科すとなれば、分煙できる店はいいが、そうでない店はやめなさいという話になる。私は人に迷惑かけないよう電子たばこに替えている。

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