2017年4月21日08時30分 朝日 http://digital.asahi.com/articles/ASK4P2PHZK4PUBQU008.html
たばこをめぐる永田町の論争に決着がつかない。2020年東京五輪・パラリンピックをにらんで政府が検討している受動喫煙対策を強化する法案について、自民党反対派の抵抗がおさまらず、事前審査ができない状態だ。今国会での提出に「黄信号」がともっている。
世界保健機関(WHO)の幹部から、飲食店を含む公共の場での完全禁煙を求めた文書を手渡された塩崎恭久厚生労働相。19日の衆院厚労委員会では、「国際機関からの正式な要請。今の案を下回らない水準でないと応えられない」と答弁した。いわば「外圧」を背に、妥協を許さない姿勢を示した格好だ。
厚労省は昨年10月、飲食店や職場での受動喫煙を防ぐため、罰則付きで屋内禁煙を義務化する改正案の「たたき台」をまとめた。2019年のラグビーワールドカップ日本大会と20年の東京五輪までに間に合わせようと、この時期に対策を「世界標準」に近付けることを狙う。
10年に国際オリンピック委員会(IOC)とWHOは「たばこのない五輪」の推進で合意。同年のカナダ・バンクーバー以降の開催地はいずれも、罰則付きで飲食店の建物内完全禁煙の規制を実現している。強制力はなく、実現しない場合に五輪が開催できないわけではないが、今月来日したWHOの担当者は、「日本は取り残されている」と指摘。たばこのない五輪を絶やさないよう求めた。
塩崎氏は「海外からの観光客らが意図しない受動喫煙に遭わないようにしたい」と訴える。海外では、49カ国が飲食店を含む公共の場を屋内禁煙とし、日本の現状はWHOの4段階評価で最低に分類されているという危機感が背景にある。
主に酒を出すバーやスナックは、床面積30平方メートル以下に限り例外とする修正もこの間行ったが、違反者には最大50万円の過料を科す「屋内禁煙」の旗は降ろしていない。
これに対し、自民党の衆参約280人の国会議員でつくる「たばこ議員連盟」(会長=野田毅・前党税制調査会長)は3月、「対案」を公表。生産農家や販売業者、飲食店などの反発を背景に、飲食店は「禁煙・分煙・喫煙」の中から自由に選び表示を義務化することで現状を追認する内容だ。野田氏は「(厚労省案では)生計の基盤を損なわれてしまいかねない関係者は多い」と指摘する。
厚労省は2月、2度にわたって、党厚労部会で法案の概要を説明したが、「喫煙の自由を認めろ」「五輪のためなら東京だけでやれ」といった反対論が噴出。2月15日を最後に、部会での説明を拒まれる状況が続いている。前厚労相の田村憲久政調会長代理ら党側は「まずは厚労省が妥協案を示せ」と要求。塩崎氏はこれを拒み、現在の案を説明したいと主張して膠着(こうちゃく)状態が続く。省幹部は「大臣は『政治生命をかける』と言っている。妥協するとは思えない」と漏らす。
こうした状況を打開するため塩崎氏が頼ったのが首相官邸だ。17日、菅義偉官房長官と面会したが、返ってきた答えは「まだ官邸が出るタイミングじゃない。厚労省で頑張れ」との言葉だった。面会情報を聞いた党政調幹部は「『官邸は首を突っ込まない』ことで党と握れている」と明かす。
当初想定した段取りは、大型連休前に与党の事前審査を終え、今国会での成立を図るものだった。大幅な遅れを前に、党内の法案反対派、推進派双方の議連と厚労省による3者の代表が集まる協議会を設置する案も浮上しているが、塩崎氏は「部会で説明してからでないと妥協ありきになる」として、協議会の先行開催は認めない考えだ。
党内では、政府の法案提出を認めず、新たな議員立法を目指す動きが出始めた。対策を都道府県の条例に委ねることを想定。「東京と北海道では環境が全然違う。地元に配慮した条例を作ってもらう」(政調幹部)ことで、地域事情に配慮し、反発を抑える案だ。
しかし、7月の東京都議選を控える中、自民と対立する小池百合子都知事に格好のアピール材料を与えることへの警戒感もある。厚労部会幹部は「小池さんに条例をつくられたら、『自民党は何もできない』と言われてしまう」と漏らす。