2017年6月16日11時54分 朝日 http://digital.asahi.com/articles/ASK6J3VDCK6JUBQU00H.html
他人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の今国会への提出を目指していた塩崎恭久厚生労働相は16日、今国会への提出を断念すると表明した。閣議後会見で塩崎氏は「法案の一部について、自民党との合意が本日までに至らなかった。今回、自民党との徹底した議論が不足していたと痛感している」と述べた。そのうえで「次期国会への法案提出を目指し、自民党側と誠意を持って協議を続けていきたい」と話した。
焦点となった飲食店の規制について、厚労省は、床面積30平方メートル以下のバーやスナック以外は原則屋内禁煙とする案を検討。自民党は、業種にこだわらず「喫煙」や「分煙」などの表示をすれば喫煙を認める案をまとめた。面積は客席100平方メートル、厨房(ちゅうぼう)50平方メートル、最大延べ床面積150平方メートル以下を想定していた。
厚労省は、自民案を数年間の経過措置として、その後、厚労省案にすることを提案したが、自民党は受け入れなかったという。
法改正後の周知期間について、厚労省は成立から2年を見込む。秋の臨時国会以降に成立がずれ込むと、2020年の東京五輪・パラリンピックの前年の19年に日本で開幕するラグビー・ワールドカップ(W杯)に間に合わない可能性もある。政府は今後、秋の臨時国会への提出・成立を目指すとするが、調整が進むかは不透明だ。(黒田壮吉)
■世界最低レベル変わらず
受動喫煙が健康被害を引き起こすことは、科学的に明らかだ。厚労省の「たばこ白書」などによると、受動喫煙は肺がんになるリスクを1・3倍高める。受動喫煙による死者は、年間約1万5千人に上ると推計されている。
今回の対策強化をめぐり、自民党議員が反発した背景には、「客足が減る」と懸念する飲食業界への配慮があった。だが実は、禁煙とした店舗の経営に悪影響は出ていないという調査結果は複数ある。
厚労省研究班が、2009~12年、全席禁煙にしたファミリーレストラン141店の売り上げを調べると、改装前に比べて禁煙店は1年目に2%、2年目に3・4%売り上げが伸びていたという。調査した産業医科大(北九州市)の大和浩教授は「たばこを吸わない人は喫煙者よりも多く食事をし、支払いも多い傾向だ」と話す。
国際オリンピック委員会(IOC)などは「たばこのない五輪」を推進する。世界保健機関(WHO)は、日本の現状を4段階評価の「最低レベル」と位置づけ、20年の東京五輪でも屋内禁煙を実現するよう求めている。このままでは最低レベルのままで、対策の遅れは国際的な批判を浴びかねない。
神奈川県の受動喫煙防止条例見直しの検討部会で座長を務めた玉巻弘光・東海大名誉教授(行政法)は「受動喫煙による健康被害を防ぐという目的を実現するため、議論を仕切り直すべきだ。国内は、欧米に比べて屋外での規制が進んでいるが、公設喫煙所の増設も同時に検討してほしい」と話す。